相続人の一人が遺産分割協議に応じない場合。話し合いを拒否する相手への対処法3つ
遺産分割協議は相続人全員で行わなければいけないものですが、その中に遺産分割協議に応じない相続人がおり
- 遺産分割協議の場での話し合いを拒否している
- 遺産分割協議の内容に納得せず、遺産分割協議書に印鑑を押してくれない
など問題が発生した場合、どのように対応したら良いでしょうか。
この記事では、相続人が遺産分割協議に応じないケース、遺産分割協議が進まないことのリスクをご紹介するとともに、そうした場合に取るべき対処法を解説していきます。
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相続人が遺産分割協議に応じないケース
遺産分割協議では、発生した相続に際して、被相続人のどの財産を、誰が、どれだけ受け取るのかを話し合います。
遺産分割協議の内容を記載した遺産分割協議書は相続税の申告や不動産登記など様々な場面で必要となるため、遺産相続を進める上では不可欠な手続です。
そんな遺産分割協議に相続人が応じないケースとしては、たとえば以下のことが考えられます。
相続人同士の仲が悪い
相続人同士で仲が悪いと、嫌がらせとして遺産分割協議に応じてくれないというケースがあります。遺産分割協議への呼びかけをしても、無視をされ続けてしまうケースです。また仲が悪いため、そもそも連絡自体がつかないということもあります。
遺言書の内容に納得できない
遺言書がある場合には、遺言書の内容に沿って遺産を分割することになりますが、相続人全員が遺言の内容に反対する場合には、相続人の間で納得のいく形の遺産分割協議を行うことができます。しかしこのような、遺言書の内容に納得のいかないという理由から始まった遺産分割協議では、相続人の中に気分を害している方が既にいるというケースが多く、遺産分割協議自体に応じてくれなくなることもあります。
相続人間でつきあいがない
相続人同士で、普段からの付き合いがない場合にも遺産分割協議を行うことが難しくなるケースがあります。例えば被相続人に前妻がいる場合には、その前妻の子供も遺産を相続する権利があります。しかしこのようなケースでは、相続発生のタイミングで初めて連絡を取るということもあるでしょう。相続で初めて連絡を取り始めるというようなケースでは、スムーズにコミュニケーションが取りづらく、遺産分割協議の話し合いまで持っていくことが難しいことがあります。
相続財産の管理者が信用できない
相続人の中に被相続人の財産を使い込んでいる人がいる、などの疑いがある場合には話し合いの前提としての信頼関係が崩れてしまい、遺産分割協議をなかなかスタートできないというケースがあります。遺産分割は被相続人の残した財産を把握する作業から始まります。しかしその財産が本当にすべてであるか信用できない、疑いがあるという状態のままでは、遺産分割協議を進めていくこと自体が難しくなります。
特定の相続人に多額の生前贈与がある
被相続人が亡くなる前に、多額の生前贈与を特定の相続人に行なっている場合があります。そのような贈与が「特別受益」と認められる場合には、贈与の額を相続開始時に相続財産と合算し、その上で相続分を計算する「特別受益の持ち戻し」という作業を行うこととなります。このようなケースでも、相続人が特別受益を認めない場合や、隠している場合などもあり、遺産分割協議がスムーズに進まないこともあります。
寄与分をめぐる争い
「寄与分」とは、被相続人に対して
- 生前長期にわたり介護を行なっていた
- 家業を無給で手伝っていた
など、被相続人の財産の維持や増加に貢献をした「特別な寄与」がある場合に、遺産分割の際に法定相続分を超える財産を相続できることを認める制度です。
この寄与分については、特別の寄与が本当にあったのかどうか、どの程度の寄与分を認めるかなど、そもそも判断が難しい部分があります。
一般的に、寄与分は、単に故人の身の回りのお手伝いをしたというレベルで認められることはありません。「特別の寄与」とは通常、無報酬で被相続人の介護に専念して長期間を過ごしていた、無報酬で家業を手伝い実際の資産拡大に大きく関与した、というレベルの貢献を指します。
そうした相続実務の基準は、必ずしも相続人本人が感じている実感とは一致しません。
相続人自身が「長年介護していたのに寄与分を認められない」「自分が費やした貢献に対して金額が不相当」と不満を抱えている場合、納得行かないからと、遺産分割協議への不参加・遺産分割協議書への押印拒否といった行動につながるおそれがあります。
遺産分割したくない相続人がいる
また、様々な理由で遺産分割をしたくないという相続人がいる場合もあります。
遺産分割をしたくない理由としては、たとえば、これらのことが考えられます。
- 遺産分割をすることにより家から出ていかなくてはならなくなる
- 現在財産を自分が管理しており、なるべくそのまま自分が引き継ぎたい
- 特定の相続人に相続財産を渡したくない
被相続人と同居していた相続人で、遺産分割をすることにより家から出て行かなくてはいけなくなるという相続人は、なかなか遺産分割協議に応じてくれません。不動産に限らず、財産管理を行っている相続人が理由をつけて財産の独り占めを図るケースもあり得るでしょう。
また、個人的な感情から特定の相続人に対して相続財産を渡したくないというケースもあります。
遺産分割協議が始まれば、渡したくない財産を渡さなければならなくなる可能性があると理屈では理解もしていることから、あえて対応を先延ばしにし、遺産分割協議に応じてくれないことがあります。
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相続人が遺産分割協議に応じない場合の対処法
では、こうした様々な事情から遺産分割協議に応じない相続人がいる場合、どう対処すればよいのでしょうか。
ここでは遺産分割協議に後ろ向きな相続人に対する対処方法を、順を追ってご紹介していきます。
対処法は大きく分けて3つ、コミュニケーションの方向性別をあわせて6つです。
話し合い(遺産分割協議)の呼びかけ
まずは遺産分割協議に応じない相続人がいるとしても、さまざまな提案を通して呼び掛けを行っていきましょう。
以下にご紹介する方法によって、呼びかけに応じてくれることもあります。
遺産分割協議は全員参加が必要であることを伝える
遺産分割協議は相続人全員で行う必要です。相続人が一人でも漏れていた場合に、その遺産分割協議は無効となり、再度遺産分割協議を行う必要があります。
話し合いに応じない相続人が、遺産分割協議は相続人全員で行うものであること自体を理解していない可能性もあります。
遺産相続を進めるためには、まず遺産分割協議を相続人全員で行う必要があることを伝えましょう。
遺産分割協議が進まず、相続税申告の手続が遅れると、最悪は相続税に延滞税が加算されます。相手にとっての負担増加にもつながり得る点も、協議実施を促す材料になるかもしれません。
書面でのやり取りを提案
遺産分割協議は必ずしも対面で行わなければならないものではなく、書面での実施も可能です。
遺産分割協議に応じたくない理由が、相続人同士で顔を合わせたくない、遠方に住んでいて移動の時間を確保することが難しい、というような場合は、書面への押印やり取りで遺産分割協議書を完成させることもできます。
対面することへの嫌気から遺産分割協議に応じてくれない相続人がいる場合には、書面でのやり取りを提案してみるのも良いでしょう。
相続放棄も提案を
遺産分割協議に応じてくれない相続人が相続放棄を行うのであれば、その相続人は相続人としてカウントされなくなります。そのため、残りの相続人で遺産分割協議を進めることができます。
もし何らかの理由で相続に関与したくない、ということであれば無理して遺産分割協議には参加させず、相続放棄を提案してみるのも良いでしょう。
ただし相続放棄が行えるのは相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内です。期限を意識して対応進める必要があるため注意して準備を進める必要があります。
遺産分割調停・審判の申し立て
遺産分割調停は、相続人同士での遺産分割協議がまとまらない際の一つの解決方法です。
遺産分割調停とは、遺産分割についての話し合いを家庭裁判所で行うものです。遺産分割調停では、相続人同士が直接話し合う必要はありません。
調停委員が間に入り、双方の意見を聞きながら話し合いを進めていきます。
遺産分割調停を用いても話し合いがまとまらなかった場合は、遺産分割審判へと移行します。
遺産分割審判は、裁判所に遺産分割の判断を委ね、双方の主張をふまえながら遺産の分け方を決定してもらいます。
弁護士に相談・依頼する
遺産分割協議への参加を渋る相続人との交渉に、弁護士に介入してもらうことで、家族同士の感情的な反発を避けた、建設的な話し合いを進めていける可能性が高まります。
一般的に、相続人同士の関係が険悪で、感情的な確執がある場合は、当人同士で話し合いをまとめていくことはなかなか難しいものです。弁護士という第三者が間に入ることで、相談者と相続人の状況をふまえ、相談者の利益も考慮しながら、トラブルを悪化させない適切な提案をもらえます。
もちろん弁護士は相続含む法律の専門家です。他の相続人との交渉だけではなく、適法で間違いのない形で遺産相続手続きを進めることができます。
弁護士に相談するタイミングは調停に進む前、当事者交渉の段階から依頼するのも、より穏便な解決を進める上でひとつの手です。
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遺産分割協議が進まないまま放置するリスク
では、遺産分割協議に応じてくれない相続人がいるために、話がなかなか進まずそのまま放置してしまうとどうなるのでしょうか。
実際には相続人にとって様々なリスクや不利益が発生することになります。
相続手続きが先に進まない
まず、遺産分割協議がまとまらなければ、相続手続きを先に進めることができません。
相続手続きのさまざまな場面で、遺産分割協議を元に作られた遺産分割協議書が必要となります。具体的には不動産の相続登記、被相続人の預金の相続手続きの場面で必要となります。
また相続税の申告が必要となるケースでは、遺言書がない場合には遺産分割協議書の写しを添付して提出する必要があります。
これらの相続手続きには、それぞれ期限が定められているため、遺産分割協議がまとまっていないと期限内にこれらの手続きを終わらせることができません。
相続税申告の期限を過ぎペナルティを受ける
相続税の申告は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に行わなければなりません。
もし期限を過ぎてしまうと加算税や延滞税というペナルティが課せられます。
また、期限を過ぎてしまうことで、小規模宅地等の特例、配偶者の税額軽減などの、相続税の税負担を大きく下げてくれる特例や税額控除が使えなくなってしまい、最終的に支払う相続税額が高くなってしまう可能性もあります。
相続財産を使い込まれるおそれ
遺産分割協議を進めずに放置している間に、相続財産が使い込まれてしまうというリスクもあります。
特に現金などの財産が残されている場合には、その現金が亡くなった被相続人のものなのか、残された相続人のものなのか区別がつきづらいことから、使い込みや隠蔽の対象となりやすくなります。
また遺産の使い込みについても時効があります。長期間、遺産分割協議を進められず放置することで、本来は不当利得にあたる使い込みに対処できなる可能性も出ます。
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二次相続で遺産分割が複雑化
遺産分割が行われない場合、財産(特に不動産)は基本的に相続人同士の共有状態とみなされます。
財産が共有状態のままその相続人が亡くなると、共有となっていた財産に対する権利は相続人の子供に引き継がれます。いわゆる二次相続の発生です。
相続人の子供が複数名いた場合、二次相続の発生にともない財産を共有する人の人数も増化します。
共有者間でのコミュニケーションはより取りづらくなり、財産を売却しようにも共有者全員の合意を取りづらくなるなど、対応が遅れることで相続手続の作業はより複雑化していきます。
相続人が遺産分割協議に応じない場合は弁護士に相談を
遺産分割協議に応じない相続人がいる場合には、弁護士に相談してみることがお勧めです。弁護士に相談した際のメリットとしては以下のものが挙げられます。
相談者の代理人として遺産分割協議に参加できる
弁護士は相談者の代理人として遺産分割協議に参加することができます。
遺産分割協議では高齢者や未成年者である相続人に代わり、家族や友人等の第三者が代理人として他の相続人と交渉することが認められています。
ただし、遺産分割協議が物別れに終わり、裁判所が絡む遺産分割調停・審判などの法的手続きに移行した場合、家族や友人等による代理は認められません。
遺産分割協議から調停・審判および裁判まで、法的解決を含む相続手続き全体に対して代理人になれるのは、弁護士だけです。
他の相続人・親族と対面せずに協議できる
弁護士に代理人を依頼することで、他の相続人・親族と対面せずに協議を進めることができます。
他の相続人・親族と関係が悪い場合、直接話し合っても話がなかなかまとまらない場合には、第三者の弁護士が間に入ることで、相続人どうしで顔を合わせることなく話し合いを進められます。
法律に則った正確で公平な遺産分割を実現できる
弁護士は法律のプロであるため、話し合いは必ず法律に沿った形で行われ、正確で公平な遺産分割を行うことができます。
特に、相続人の遺留分を超えるような遺産分割は、後々のトラブルに発展します。
弁護士に依頼することで、将来のリスクをはらむ遺産分割が進んでいる場合、事前に問題点を察知し、適切でスムーズな相続が実現できるよう、アドバイスを受けることが可能です。
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遺留分侵害額請求や寄与分もサポート
あるいは、遺留分を侵害する遺産分割が実行された場合、遺留分を侵害された相続人は侵害した相手に遺留分侵害額請求を行います。その際、当事者同士ではなく弁護士が入ることで交渉・請求手続きをよりスムーズに進めていくことができます。
また、遺留分と同様に相続人間のトラブルに発展しやすい寄与分の算定についても、弁護士が関与することで、相続人それぞれが納得できる適切な着地に向けて交渉を行います。
まとめ
相続人の1人、あるいは複数が遺産分割協議に応じない、あるいは話し合いを拒否するからといって遺産分割をしないまま放置するのは非常にリスクのある状態です。
適正な相続手続きを進められなくなる他、相続税や二次相続にともなう相続権の複雑化など後々に様々な影響が出ていきます。
遺産分割協議を巡って応じてくれない相続人がいる、将来問題が発生しそうで心配に感じる方は、お近くの弁護士までご相談ください。
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