自賠責保険とは?~成り立ちと補償内容を解説
自賠責保険は、高度成長期に交通事故が急増し、被害者救済のために作られた制度。運転者には加入が義務付けられており、未加入での運転には厳しい罰則が科せられます。但し自賠責保険の補償だけでは損害賠償額は十分とは言えず、任意保険への加入も必須です。
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自賠責保険は、運転者に加入が義務付けられている強制保険
被害者の最低限の補償を可能にするもの
自動車保険には自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)と任意保険の二種類があります。自賠責保険が法律で加入が義務付けられている一方、任意保険は運転者の任意で加入するものとなります。そして一般的に、自賠責保険は被害者に最低限の補償が与えられるように制度化されたものであることは知られています。
しかし軽微な交通事故で損害賠償額が少額の場合は、この自賠責保険だけを利用して被害者に対する損害賠償が行われ、任意保険による支払いが行われないなどは、実際に交通事故に遭ってしまった経験がない限りは知らないことが多いのではないでしょうか。
本項では、交通事故における損害賠償において、基準的な存在とも言える自賠責保険について、成り立ちや制度、補償の内容などについて説明します。
自賠責保険の成り立ちは?
日本において損害保険としての自動車保険をスタートさせたのは、民間の保険会社でした。1914(大正3)年に、現在の東京海上日動が自動車保険の営業認可を受けたのが最初とされており、当時は自動車がまだ1,000台ほどしか走っていなかった時代だそうです。
※参考:東京海上日動の歴史
戦後の自動車普及で交通事故急増
しかし戦後、高度成長期を迎えた日本では、マイカーブームで急速に自動車が普及し、必然的に交通事故も急増し、社会問題にもなりました。
1950年代に入ると車両保有台数は増加し、1953(昭和28)年には乗用車、貨物車、二輪車を合わせて100万台を突破し、その2年後には170万台を超えるという急増ぶりを記録しました。同時に交通事故も、1950(昭和25)年には発生件数が3万3千件、死者数は4,202人、負傷者数は25,450人であったものが、1953年には発生件数が8万件を超え、死者数5,544人、負傷者数は59,280人に達しました。
※数値は、警察庁交通局「平成28年における交通事故の発生状況」および「平成17年警察白書」より抜粋
自動車保険が一般的ではなかった時代
そして当時は、自動車保険に加入して自動車を運転している人はまだ少なく、交通事故の被害者が何の補償も受けられずに困窮するという事態が多発しました。
そのため政府は、交通事故の被害者を救済することを目的とし、1955(昭和30)年に自動車損害賠償保障法を制定し、翌年には全ての自動車の運転者(正確には車両を所有する人)に対して、自動車損害賠償責任保険の加入を義務付けることになりました。
自動車損害賠償責任保険は、通称、自賠責保険と呼ばれ、運転者が任意に加入する任意保険(一般的には自動車保険と呼ばれるもの)とは違う仕組みと補償内容となっています。
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自賠責保険の加入は運転者の義務
自賠責保険は、強制保険とも呼ばれていて、自動車や原動機付自転車を含むバイクといった、運転免許が必要な乗り物を所有する運転者全員に加入が義務付けられています。
前述の通り、自賠責保険は自動車損害賠償保障法によって規定されているものです。
被害者の保護を図るための自賠責保険
自賠責保険は被害者に対して最低限の損害賠償を保証する制度であり、また、対象となる交通事故は人身事故に限ります。
自動車損害賠償保障法の第一章、総則に次のように定められています。
自動車損害賠償保障法の目的
第1条 この法律は、自動車の運行によって人の生命又は身体が害された場合における損害賠償を保障する制度を確立することにより、被害者の保護を図り、あわせて自動車運送の健全な発達に資することを目的とする。
自賠責保険未加入の運転者には、厳しい罰則
また以下のように、自賠責保険に未加入の自動車は、運行の用に供してはならない(運転してはならない、させてはならない)と定められています。
責任保険又は責任共済の契約の締結強制
第5条 自動車は、これについてこの法律で定める自動車損害賠償責任保険又は自動車損害賠償責任共済の契約が締結されているものでなければ、運行の用に供してはならない。
自賠責保険に未加入の自動車を運転した場合の罰則は厳しく、事故を起こさなくても、運行しただけで1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられ、自賠責保険証明書を所持していなかった場合にも30万円以下の罰金となります。
いわゆる無保険車の運転はまた、行政処分点数が6点となり、即座に免許停止処分が科せられます。
自賠責保険の補償対象は?
自賠責保険による補償の対象となるのは、交通事故の当事者が死亡、または負傷を負ってしまうという人身事故のみとなり、自動車や物だけを破損した物損事故に保険金は支払われません。
自動車が大破するような大事故であっても、近年の自動車は安全性が高く、技術が向上したエアバックなどの安全装置のおかげで被害者が怪我をせずに済んでしまえば、自賠責保険は使えない、ということになります。
物損事故で済ませよう、に注意!
交通事故が起きてしまい、当事者双方に負傷をしたような様子がなく、軽く自動車が傷ついてしまっただけなので、物損事故で済ませようと言い出す当事者がいます。警察にも届けずに、その場において当事者同士で修理費のやり取りを約束してしまったら、ここで示談が成立したと見なされる可能性があります。
交通事故の典型的な症状であり、後で症状が出てくるむち打ち症を負っていた場合、すぐに物損事故で済ませようと合意してしまうと、自賠責保険どころか、任意保険による保険金も出ないことになってしまいます。
このようなケースでは、必ず自分が負傷を負っているかもしれないと疑い、警察を呼び事故の報告をし、すぐに病院で治療を受けておきましょう。
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自賠責保険の損害賠償金は?
自賠責保険による保険金は、法令によって限度額が定められているのが特徴です。そのため、どの保険会社で契約をしても、支払われる保険金の額に差はありません。
死亡の場合は3,000万円が上限
自賠責保険で補償されるのは、1つの事故につき被害者1名あたり、死亡の場合が最高3,000万円まで、傷害による損害は最高120万円まで、後遺障害による損害の補償は等級によって75万円~4,000万円までと、上限額が決められています。
また、自賠責保険の目的は被害者の救済となっていますので、1回の事故で死者が2人出てしまった場合でも、被害者一人ひとりに対して最高3,000万円まで補償金が支払われます。
同じ人間が何度事故を起こしても、この補償金額の上限が下がる事はありません。
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自賠責保険は、最低限度の補償額!
但し、交通事故における損害賠償額の現在の相場を考えると、この自賠責保険の上限額で収まるケースが少ないのが現状です。死亡事故の損害賠償金額が1億円を超えてしまうことは普通にありますので、この差額を補完するために任意保険の活用は必須です。
また、自賠責保険には示談交渉代行サービスやロードサービスといった、気の利いたものもありません。
運転者の立場とすれば、万が一のために任意保険には必ず加入しておいた方が良いでしょう。
その他の自賠責保険の特徴は?
自賠責保険は任意保険のように、多額の補償を可能にしたり、事故の際の細やかなサービスを提供したりというものはありませんが、自賠責保険特有の特徴を理解しておけば、事故相手がもし自賠責保険にしか加入していなかった場合に役立ちます。
被害者が、保険会社に直接請求を行える
交通事故の被害者となってしまった場合、加害者が加入している保険会社に直接保険金を請求することが可能です。
示談交渉を進めるうちに、加害者の誠意のない態度を続け示談に応じない時に活用することができます。
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仮渡金の制度がある
被害者が治療費などの出費が必要となった場合、示談が合意に達していなくても、当座の出費にあてるための仮渡金を受ける制度があります。
以上のように自賠責保険は、被害者救済のための最低限の補償しか与えてくれませんが、交通事故の損害賠償に関してはなくてはならない制度なのです。
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