自賠責保険の一括請求とは?
「一括請求」とは、自賠責保険と任意保険をまとめて請求する方法で、被害者にとっては煩雑な手続きが必要な損害賠償請求を、ひとつにまとめられる便利な方法。しかし加害者側の保険会社のペースで示談交渉が進められる可能性があるため、注意が必要です。
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自賠責保険の基本的な保険金受け取り方法の一括請求
メリットとデメリットを理解しておこう
自動車保険には自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)と任意保険の二種類があります。自賠責保険は法律で加入が義務付けられているもので、任意保険はその名称の通り運転者の任意で加入する保険です。
また、自賠責保険は被害者に最低限の補償が与えられるように制度化されたものであり、任意保険は加害者となってしまった場合に損害賠償金が支払えるように運転者に加入を勧めるものです。
一般的に自動車保険と呼ばれるものは任意保険を指す場合が多く、自賠責保険と自動車保険、といった区別をすることもあります。
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多くの場合は、自賠責保険と任意保険の両方に加入
自賠責保険は強制保険とも呼ばれるように、すべての車両が加入しているはずのものです。
加入していない車両を運転しただけでも処罰の対象となり、万が一、自賠責保険未加入車が事故を起こした場合でも、被害者は政府保証事業制度により、自賠責保険と同水準の損害賠償金を受け取ることができます。
任意保険の加入率は100%ではありませんが、対人賠償については全保有車両の74.1%、自家用車の場合は79.0%が加入(「2016年度 自動車保険の概要」損害保険料率算出機構発行、のデータより)しているため、多くの交通事故において、被害者は補償を受け取ることが可能となります。
交通事故が発生した場合、どちらに請求するのか?
交通事故の加害者がこれら二つの保険に加入していた場合、どちらに請求し、どちらから保険金が支払われるのでしょうか?
軽微な人身事故で損害賠償額が少額の場合、自賠責保険だけを利用して損害賠償が行われ、任意保険による支払いは行われません。人身事故で損害賠償金が自賠責保険の限度額を超える場合、その限度額を超えて不足する部分を任意保険が支払うということになります。
この損害賠償金の請求方法は、一般的なケースでは自賠責保険の保険会社と任意保険の保険会社の両方に請求を行う必要はなく、任意保険の保険会社だけに行い、まとめて損害賠償金を受け取ることができます。
これが一括請求と呼ばれるものです。
自賠責保険の示談交渉は誰が行うのか?
交通事故の示談交渉は、加害者と被害者が直接行うのではなく、加害者が加入する任意保険の保険会社担当員が、被害者、あるいは被害者が加入する任意保険の保険会社担当員が話し合いを進めるのが一般的となっています。
加害者本人で示談交渉を行うケースは、加害者自身が任意保険に加入していない場合か、任意保険の示談交渉サービスを付帯させていなかった場合、あるいは本人が望んで自身で交渉したいと申し出たことが考えられます。
被害者が本人で示談交渉を行うケースは、加害者の場合よりも多く、まったく被害者に責任のない事故の場合や、自動車保険に加入していない場合などが考えられます。自動車の運転をしない人が交通事故に巻き込まれることもありますから、自動車保険に入っていなくても当然で、いきなり示談という難しい交渉の場に立たされることになるのです。
自賠責保険の担当者は示談交渉の場に出てこない
自動車保険が自賠責保険と任意保険の二重構造になっていることはよく知られていますが、実際の示談交渉は任意保険の保険会社の担当者が行い、自賠責保険側の担当者が出てくることは、まずないと思って良いでしょう。
自賠責保険は損害保険会社が取り扱っていますが、自賠責保険を定める法律(自動車損害賠償保障法)によって定められた強制保険となるため、支払われるべき損害補償の金額や限度額、支払い基準は法律で定められています。
支払基準
第16条の3 保険会社は、保険金等を支払うときは、死亡、後遺障害及び傷害の別に国土交通大臣及び内閣総理大臣が定める支払基準(以下「支払基準」という。)に従ってこれを支払わなければならない。
この規定があるために、任意保険とは違い、被害者側と交渉する必要はないのです。
自動車保険の支払いは、任意保険会社が行う一括請求が基本
現在、交通事故で被害者に支払われる保険金は、加害者が加入する任意保険の保険会社が自賠責保険の分も含めて被害者にまとめて支払う一括請求が基本となっています。このシステムは、任意保険の保険会社が、自賠責保険で支払える分の保険金も被害者に支払い、後で保険会社が自賠責保険の会社に自賠責分を請求するということになっています。
手間が省け手続きが簡素な一括請求
一括請求では、加害者が加入する自賠責保険の保険会社に、被害者が損害賠償金を請求する手間が省けますので、多くの被害者がこの方式を選択しています。このシステムは任意保険のサービスとして行われているもので、保険会社によって「一括対応」や「治療費一括請求」などの呼称があります。
任意保険の示談代行サービスに組み込まれていることが多く、治療費は保険会社から医療機関に直接支払われ、通院にかかる交通費や休業損害などの賠償金は被害者に支払われます。
被害者が損害賠償金の請求を行うのは加害者が加入する任意保険会社だけとなり、手間が省けて便利なのですが、注意しなければならない点もありますので、以下で説明します。
手続きが楽な一括請求の裏側にある落とし穴
一括請求は、被害者の煩雑な損害保険金請求の手続きが楽になる、大変良いシステムであるようにも見えます。しかし往々にして加害者側の保険会社に頼りっきりになるため、十分に注意しておかないと、いつの間にかすっかり相手のペースになってしまう恐れがあります。
一括請求を選択したがために、「保険会社の都合で治療費を打ち切られる」「不利な条件で示談に応じなくてはいけなくなった」という可能性があるということを知っておきましょう。
交通事故による負傷の治療が長期間となっている場合
被害者が交通事故により負傷し、治療が長期にわたっている場合、一括請求を利用していると、自賠責保険の保険金支払い基準の上限に達しようかとする時点で、任意保険の保険会社が、被害者が入通院している病院に対し、治療費の支払い打ち切りを迫ることがあるようです。
自賠責保険による保険金の上限を超えてしまうと、任意保険の保険会社が保険金を支払わなくてはいけなくなりますから、考えられないことではありません。
また慰謝料や、自動車が壊れたなど物損の損害賠償の示談交渉が長引いている場合にも、被害者に不利な条件で示談を成立させるという交渉もしてくる可能性があります。
一括請求では、加害者が加入する任意保険の保険会社が保険金を支払わない限り、当然ながら被害者には損害賠償金は入ってこないのです。
後遺障害認定における「事前認定」の利用にも注意
後遺障害認定における「事前認定」とは、「一括請求」を利用する際に、早期に等級認定を行い、支払金額を確定させるものです。
これは症状固定を急がせるものでもありますので、後に傷害の状態が悪くなった場合には十分な慰謝料などを得られない可能性が出てきます。
一括請求による損害賠償金の支払いは、示談成立が条件となっていることにも留意が必要です。
認定された後遺障害の等級が満足できないもので、示談を成立させたくないと考えた場合には、損害賠償金が一切支払われないのです。
自賠責保険の請求は被害者でもできる
示談交渉が早期にまとまりそうにない場合は、治療費の補償を保険会社に任せず、自賠責補償の請求を自分で行う「被害者請求」をお薦めします。もともと自賠責保険と任意保険は別々の補償ですから、被害者が自賠責保険の請求を行っても問題ありません。
特に、保険会社が治療費の打ち切りなどほのめかしてきた場合などには、自衛手段として自賠責保険の「被害者請求」をするべきです。
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