交通事故で労災保険を使う場合の注意点とは

労災保険とは、業務上で発生した事故の補償を行う制度。仕事中や通勤中の交通事故にも使用することが可能で、自賠責保険とどちらを利用するかは自由に選ぶことができます。一般的には自賠責保険を優先とされるが、労災保険を優先させた方が良いケースもあります。

労災保険は、業務上の事故の補償を行う制度

交通事故においては、自賠責保険と比較して使用を考える必要がある

仕事中や通勤中に交通事故に遭ってしまうことは、自動車を使用する労働者にとって珍しいことではありません。その場合、すべての車両に加入が義務付けられ、強制保険と呼ばれる自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)の他に、労災保険(労働者災害補償保険)を使うことができます。

自賠責保険と労災保険は、基本的にどちらか一方しか使えませんので、使い分けや利用方法を理解しておかないと、交通事故の損害に対して正当で十分な補償を受けられない可能性があります。

まず、労災保険の仕組みから見ていきましょう。

労災保険とは?

労災保険とは、労働者が業務上の理由で、あるいは通勤の途中などで負傷したり、病気になったり、死亡した時に、必要な保険給付が行われるものです。

労働者を1人でも使用している事業所は加入しなければならず、労働基準法による労働者であれば、アルバイト、パート、日雇い労働者でも適用されます。

一方で事業所の代表権のある人、および業務執行権を有する役員には適用されませんが、法人の取締役などという立場でも、代表者の指揮監督を受けて労働に従事し、賃金を受け取っていれば、その部分で適用されるものです。

労働者災害補償保険法で定められる労災保険

自賠責保険は、自動車損害賠償保障法によって定められていますが、労災保険は、労働者災害補償保険法によって規定されるものです。同法第一章の総則の第1条から第2条には、「労災保険とは?」という問いに対する答えが、条文で定められています。

第1条

労働者災害補償保険は、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかった労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。

第2条

労働者災害補償保険は、政府が、これを管掌する。

第2条の2

労働者災害補償保険は、第一条の目的を達成するため、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に関して保険給付を行うほか、社会復帰促進等事業を行うことができる。

自動車を運転する運転者が加入する自賠責保険とは違い、労災保険は事業所が加入します。また、労災保険は厚生労働省の管轄となり、自賠責保険は国土交通省の管轄となっています。

労災保険と自賠責保険の管轄は違いますが、どちらも国が補償を行うものなので、基本的には両方を一緒に使うことはできません。

労災保険と交通事故

労災保険は業務上の災害に対して補償が行われるものですが、交通事故において労災保険を使うケースとして考えられるのはどのようなものか、簡単に説明します。

交通事故は、労災保険における「第三者行為災害」にあたります。

「第三者行為災害」とは、労災保険給付の原因となる災害が第三者の行為によって生じたものです。

例えば仕事で道路を通行中に建設現場からの落下物に当たって怪我をするとか、通勤途中に交通事故に遭ってしまうようなものです。

自賠責保険と労災保険、どちらを使う?

前述の通り、自賠責保険と労災保険の両方を、同一自由による事故において一緒に使うことはできません。労災保険と自賠責保険の支払いのどちらを先に受けるのかは、被災した労働者(被害者)または死亡事故の場合は遺族が自由に選ぶことができるとされています。

一方で、交通事故による負傷の治療費や、休業補償をどちらの保険を使って補償を受けた方が有利なのかは、ケースバイケースとなり、一概には言えないのです。

休業補償の補償額は自賠責保険の方が高額となるため、一般的には交通事故においては自賠責保険の利用が推奨されています。

基本的には自賠責保険を使用して、自賠責保険を使っていても、後に申請すれば受け取れる労災保険の「休業特別支給金」を上積みして補償を受けるのが有利とされています。

詳しくは、次の項で説明します。

労災保険の補償範囲は?

自賠責保険と労災保険の補償範囲をおおまかに比べてみましょう。

自賠責保険の補償範囲

  • 治療関係費、文書料、休業損害および慰謝料などの合計限度額が120万円
  • 後遺障害による損害は、後遺障害等級により異なるが限度額が4,000万円
  • 死亡による損害は、葬儀費、逸失利益、慰謝料などの合計限度額が3,000万円

労災保険の補償範囲

  • 治療費は全額補償
  • 休業損害補償は、平均賃金の80%を補償
  • 死亡時の一時金、遺族年金、傷病年金、障害年金が支払われる

自賠責保険が被害者の最低限の補償を行うことに対して、労災保険は労働者災害補償保険法に「労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護」と定められているように、労災保険は手厚い補償を受けることが可能となっています。

一般的には、自賠責保険を優先させた方が良いとされる

それでも、一般的に自賠責保険の使用が推奨されるのは、多くの場合は交通事故の加害者が任意保険にも加入しているからです。

自賠責保険の補償限度額を超えた部分は、任意保険によって補償されるため、最低限の補償であっても自賠責保険を使った方が良いのです。また、自賠責保険を利用したからといって労災保険から何も補償が受けられないわけではなく、休業特別支給金は申請すれば受け取ることが可能となっています。

しかし、労災保険を優先させた方が良いケースが存在しますので、次項で説明します。

労災保険を優先させた方が良いケースとは?

仕事中や通勤途中の交通事故で、自賠責保険よりも労災保険優先させて使用した方が良いケースは、次のような場合です。

自分の過失割合が大きい場合

交通事故の責任の所在を示す過失割合が、自分側に7割以上ある場合においては、自賠責保険の支払額は2割~5割減額されてしまいます。

一方で労災保険は、過失割合によって支給額を減らすという考え方はありません。交通事故で怪我をした本人に責任があったとしても、怪我は怪我として補償が受けられるのです。

過失割合が7割を超えるような、自身が加害者となってしまうケース、あるいは過失割合で相手方と揉めているような時には、自賠責保険よりも労災保険を使った方が良いでしょう。

自動車の所有者が運行供用責任を認めない場合

自賠責保険は、自動車の所有者が事故を起こした場合に損害が補償されます。

盗難車であったり、所有者の許可なく当該自動車を運転して事故を起こしたりした場合は、自動車の所有者が運行供用責任を認めないでしょう。この場合は所有者の自賠責保険に請求を行うことが困難となるため、労災保険を先に使った方が良いでしょう。

相手が無保険者、あるいは対人補償保険が不十分な場合

交通事故の相手が無保険だった時も、労災を使った方が良いと考えられます。

自賠責保険に未加入というケースは自動車の場合はほとんどないはずです。しかし、原付バイクなどでは保険を切らしたまま乗っている人もいるようです。

このような相手との事故に遭ってしまった時は、当然ながら自賠責保険では補償されませんので、労災保険を使った方が良いでしょう。

また、自賠責保険だけにしか加入していない場合、任意保険に加入していても対人補償が無制限ではない契約だった場合も、補償範囲や金額で揉める可能性がありますので、労災保険を使った方が良いケースがあります。

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