人身事故の加害者への厳罰化が進む自動車運転死傷処罰法

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佐藤 學(元裁判官、元公証人、元法科大学院教授)

人身事故

人身事故を起こした加害者は、自動車運転死傷処罰法に基づき、刑事上の責任を問われます。違反行為をし、交通事故を起こした場合には、加害者の不注意の程度と交通事故の種別(被害の程度)に応じて、事故の原因となった違反行為の基礎点数に交通事故の付加点数が加算され、内容によっては運転免許の効力の停止や取消しなどの処分を受けます。加害者の自賠責保険、任意保険から、被害者には治療費や慰謝料などが支払われます。

人が怪我したり、死亡したりした交通事故は”人身事故”

交通事故の分類は、警察庁の「交通事故統計における用語の解説」では、「交通事故」とは、「道路交通法(以下「道交法」といいます)2条1項1号に規定する道路において、車両等及び列車の交通によって起こされた事故で、人の死亡又は負傷を伴うもの(人身事故)並びに物損事故をいう」としています。また、道交法67条2項では、「交通事故」とは、「車両等の交通による人の死傷若しくは物の損壊をいう」としています。そこで、本記事では、車両の交通による死傷を「人身事故」、車両の交通による物の損壊を「物損事故」とします。

そうすると、人身事故と物損事故は、“人が死傷した”のか“物が壊れた”のかという簡単な判断で分類できます。

救急車や警察を呼ぶような事故はたいていの場合”人身事故”

交通事故救急車や警察を呼ぶような交通事故が起こった場合、普通は車が無傷だったなどということはありませんし、巻き込まれた人も傷ひとつ負わなかったということは考えられません。

車やガードレールなどの物は壊れたけれど、事故に巻き込まれた関係者の中に、すぐ病院へ行かなければならないような重症者が出なかった場合には、物損事故として処理されることがないとは言えません。

一方、事故に巻き込まれたことによって、人が怪我をしたり、人が死んだりした場合は、壊れた車や物に関係なく、人身事故となります。

人身事故を起こしてしまったら

交通事故では、初期対応が重要です。冷静ではいられない状況ですが、しっかりした対応が、後々の補償交渉などを上手に進めるために必要です。

まずは救護措置と二次災害防止に尽力

車両同士の事故の場合、相手車両の被害者だけでなく、自己車両に同乗者がいれば同乗者の怪我の有無を確認し、明らかな怪我がなくても、事故の衝撃が大きく、強打したり圧迫されたりしている可能性があれば、すぐに119番に通報し救急車を呼びましょう。

救護措置を行わないひき逃げは、10年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金が科され(道交法117条2項)、より重い罪を背負うことになります。

二次災害の防止

自分が乗っていた車が動かせるならば、二次災害を防ぐために安全な場所に移動させます。やむを得ず車を道路上に止めておかなければならない状態であれば、ハザードランプを点滅させるとともに、発炎筒や停止表示器材(三角表示板)を置くなどして、後続車に危険を知らせ、追突などの二次災害がおきないように対処しましょう。

110番で警察に連絡

交通事故が発生した際には、警察への報告義務があり、事故報告を怠れば加害者は3月以下の拘禁刑又は5万円以下の罰金が科されます(道交法119条1項17号)。

なお、加害者が処罰を恐れて報告しないこともありますので、被害者からも必ず報告しておくことが大切です。
事故報告を怠った場合は、保険金請求に必要な交通事故証明書が取れなくなりますので、注意しましょう。
交通事故証明書の発行には、警察への事故報告が必須だからです。

そして、交通事故証明書は、交通事故の被害に遭った事実を証明する最も確実で簡易な方法ですので、被害者は、軽傷のケースや物損事故の場合でも、自ら警察に連絡するとともに、それが難しい場合には、加害者に対して事故報告を促すようにしましょう。

警察、加害者、被害者の三者で行うこと

明らかな怪我がない場合、物損事故にするか、人身事故にするかを判断します。

加害者としては、物損事故にしたいところですが、被害者の心情を慮れば、その場で示談の交渉を進めることはおすすめできません。

警察官は、通常、事故直後に、可能な限り、加害者や被害者の立会いの下で、事故現場の実況見分を行います。そして後日、実況見分の結果が記載された実況見分調書が作成されますが、この調書は、示談交渉や裁判で重要な証拠として扱われます。

また、加害者や被害者は、実況見分が後日行われるような場合は、事故直後の記憶が鮮明なうちに、現場の見取図や事故の経過などについてメモを残すとともに、写真などの記録を取っておくことも大切なことです。

人身事故を起こしてしまった場合の責任

以下では、人身事故について説明します。

人身事故を起こした場合、加害者は、一般に

  • 行政上の責任
  • 民事上の責任
  • 刑事上の責任

の3つの責任を問われます。

行政上の責任~運転免許の効力の停止や取消しなどの処分

人身事故の加害者には、事故の原因となった違反行為の基礎点数に、人身事故の付加点数が加算され、累積点数が一定の基準に達した場合、公安委員会から運転免許の効力の停止や取消しなどの行政処分が下されます。

付加点数は、人身事故を起こした場合に、加害者の不注意の程度と人身事故の種別(被害の程度)に応じて、事故の原因となった違反行為の基礎点数に加算される点数です。
事故が専ら加害者の不注意によって発生したか否かにより、死亡事故は20点か13点、負傷者の負傷の治療に要する期間が3月以上又は後遺障害が存する傷害事故は13点か9点などのように付加点数が決められ、加害者の不注意の程度と人身事故の種別(被害の程度)に応じて、付加点数が上記の基礎点数に加算されます。

民事上の責任~損害を賠償する義務が生じる

人身事故を起こし、他人の生命・身体を侵害した場合、加害者には、これにより他人が被った損害を賠償する義務が生じます。
損害には、治療費、逸失利益、慰謝料などがあるほか、被害者に後遺障害が残り、後遺障害等級の認定がされた場合は多額の賠償額となります。

刑事上の責任~拘禁刑、罰金が科される

人身事故により他人の生命・身体を侵害した場合、加害者は、自動車運転死傷処罰法に規定される過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪などに問われ、拘禁刑又は罰金が科される可能性があります。

人身事故は、刑事事件として処理される

物損事故の場合は物が壊れただけで、被害者と加害者の間に発生するのは、損害賠償という民事問題だけです。しかし、事故によって怪我人や死亡者が出た場合、その事故は刑事事件として立件されることになります。

刑事事件といっても、危険運転致死傷罪の場合は別として、過失運転致死傷罪の容疑であれば、住居不定、罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれのいずれかに当たればともかく、加害者がその場で逮捕されたとしても、実務上、勾留にまで至ることは余りありません。

交通事故の場合はほとんどが在宅捜査

交通事故の場合、加害者は在宅捜査と呼ばれる、基本的には普通にそれまで通りの社会生活を送りながら、警察や検察庁に呼び出されて取調べを受け、場合によっては起訴されて裁判を受け処罰を受ける、という流れになります。

厳罰化が進む自動車事故

ここで、自動車事故に関する法令の改正状況を見てみましょう。

平成25年11月に、自動車の運転による死傷事件に対して、運転の悪質性や危険性等の実態に応じた処罰ができるようにするため、自動車運転死傷処罰法(以下「法」ともいいます)が成立し、平成26年5月に施行されました。この法では、従来の危険運転致死傷罪が刑法から移されて規定されるとともに(当時の法5条1号~5号)、通行禁止場所の進行に関する新たな規定も追加され(当時の法2条6号)、さらに、従来の危険運転致死傷罪より刑の軽い、危険運転致死傷罪が新たに新設されました(法3条)。
また、従来の自動車運転過失致死傷罪が刑法から移されて過失運転致死傷罪として規定されるとともに(法5条)、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(法4条)及び無免許運転による加重の罪(法6条)が新設されました。

そして、令和2年6月に、いわゆるあおり運転に関する規定が、危険運転致死傷罪の新たな類型として追加され(当時の法2条5号・6号。同年7月施行)、さらに、令和8年6月25日、後述する通り、飲酒類型(基準数値)、高速度類型、殊更滑走等類型に関する規定が、危険運転致死傷罪の新たな類型として改正(法2条1号)、追加され(法2条4号・6号)、同年7月21日から施行されています。

自動車(自動二輪と原動機付自転車も含みます)の運転により起こした死傷事件に関し、罪名、罰条、刑罰の関係は、下記表の通りです。

自動車運転死傷処罰法の罪名・罰条・刑罰
罪名 罰条 刑罰
危険運転致死傷 法2条 人を負傷させた場合:15年以下の拘禁刑
人を死亡させた場合:1年以上の有期拘禁刑
危険運転致死傷 法3条 人を負傷させた場合:12年以下の拘禁刑
人を死亡させた場合:15年以下の拘禁刑
過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱 法4条 12年以下の拘禁刑
過失運転致死傷 法5条 7年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金(ただし、その傷害が軽いときは、その刑を免除することができる)
無免許運転による加重 法6条 1項 6月以上の有期拘禁刑
2項 人を負傷させた場合:15年以下の拘禁刑
人を死亡させた場合:6月以上の有期拘禁刑
3項 15年以下の拘禁刑
4項 10年以下の拘禁刑

また、危険運転致死傷罪(法2条・3条)と過失運転致死傷罪(法5条)に限った場合、これらの罪の判決結果は次のようになります。

実刑・全部執行猶予の割合(罪名別)

令和7年版犯罪白書(令和6年の統計)によれば、危険運転致傷罪(法2条・3条)の判決総数が342人で、うち実刑が29人(実刑率8.5%)、全部執行猶予が313人(全部執行猶予率91.5%)、危険運転致死罪(法2条・3条)の判決総数が18人で、うち実刑が17人(実刑率94.4%)、全部執行猶予が1人(全部執行猶予率5.6%)、過失運転致傷罪(法5条)の判決総数が2,761人で、うち実刑が47人(一部執行猶予1人を含みます。実刑率1.7%)、全部執行猶予が2,714人(全部執行猶予率98.3%)、過失運転致死罪(法5条)の判決総数が1,058人で、うち実刑が50人(実刑率4.7%)、全部執行猶予が1,008人(全部執行猶予率95.3%)となっています(同白書の「4-1-3-4表 交通事件・通常第一審における有罪人員(懲役・禁錮)の科刑状況」参照)。

そこで以下において、過失運転致死傷罪に比べ、比較的実刑率の高い危険運転致死傷罪(法2条・3条)のうち、法2条の危険運転致死傷罪の主な態様について、見てみることにします。

危険運転致死傷罪の主な態様

  • 薬物の影響により正常な運転が困難な状態での走行(2号)
  • 制御困難な高速度での走行(3号)
  • 進行制御技能なしでの走行(5号)
  • 人車の通行を妨害する目的をもって、重大な交通の危険を生じさせる速度で、走行中の車の直前に進入(割り込み)し、その他これに著しく接近する運転(7号)
  • 赤信号や警察官の手信号などを殊更に無視し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度での運転(10号)
  • 飲酒類型(1号)、殊更滑走等類型(4号)、高速度類型(6号)は後記参照

上述した自動車運転死傷処罰法の改正状況は、飲酒運転、高速度運転や無免許運転のような悪質で危険な運転によって、重大な事故の発生が後を絶たないため、自動車の運転に対する社会の眼が厳しくなってきたことを受けて行われたものです。この一連の法改正により、運転手の安全意識向上も期待されるところです。

令和8年7月の法改正で危険運転の要件に数値基準が入った

危険運転致死傷罪は、「正常な運転が困難な状態」などの要件の判断が難しく、適用されるかどうかが事件ごとに分かれることが問題視されていました。そこで令和8年7月21日施行の改正自動車運転死傷処罰法により、次の見直しが行われています。

  • 飲酒類型:呼気1リットルにつき0.5ミリグラム以上(血液1ミリリットルにつき1.0ミリグラム以上)のアルコールを保有する状態での走行は、一律に対象となる(1号)
  • 殊更滑走等類型:車体を横滑りさせながらカーブを曲がる、二輪車の前輪を浮かせて走るといった行為が新たに対象に加わった(4号)
  • 高速度類型:最高速度が時速60キロメートル以下の道路では最高速度を時速50キロメートル超える速度以上、時速60キロメートルを超える道路では時速60キロメートル超える速度以上での運転は、一律に対象となる(6号)

数値基準に届かない場合でも処罰されないわけではなく、個別の事情によっては危険運転致死傷罪が成立し得ますし、成立しない場合でも過失運転致死傷罪や道交法違反の罪に問われます。

参考:法務省「危険運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法)の法改正Q&A」

加害者が物損事故にしたがる理由

実際のところ、飲酒運転などの悪質な運転をした挙句の事故ではなく、上述したように、危険運転致死罪は別として、初めての人身事故であれば、有罪となっても執行猶予がつく可能性が高く、いきなり加害者が刑務所へ入れられることは少ないのが現状です。とは言え、小さな事故でも、人身事故は刑事事件として処理されるため、起訴されれば、前科がつくのです。

任意保険で支払える損害賠償金なら、物損事故で済ませたいと思うのが普通でしょう。

保険会社は人身事故にしたがる?

交通事故を物損事故として処理した場合、自賠法は人身損害についてのみ適用されるため、物的損害については自賠責保険が使えないケースとなります。保険会社は、そうした事態を避けようと、被害者の怪我の程度が軽い場合でも、人身事故として処理しようとします。
そうした場合、被害者から警察に診断書が提出されれば、怪我の重さに関係なく、刑事事件になってしまうので、加害者は嫌がります。

警察は物損事故で済ませようとする傾向?

また、警察は、どのような怪我でも刑事事件として立件すれば、煩雑な実況見分や調書作成を余儀なくされるため、その場で怪我が確認されなかった場合や明らかに軽い怪我の場合には、物損事故で済ませようとする傾向が強いとも言われています。

三者三様の思惑が絡み合う現場での判断

被害者が明らかに怪我をしていて、救急搬送が必要な事故の場合は、物損事故扱いの余地がないため、何の迷いもなく、警察や保険会社は人身事故として処理するでしょう。加害者も、刑事事件として立件され、正式裁判で処罰されることに異論はないはずです。

しかし、怪我の程度が軽い場合であっても、警察が人身事故扱いで刑事事件として立件し、検察官が略式命令の請求をすれば、正式裁判は開かれずに、加害者は略式手続きで処理され、罰金で終わるのが一般です。加害者は、被害者と損害賠償の交渉をする一方で、当然とはいえ、刑事事件でも責任を追及されることになるのです。

被害者は、最終的に民事裁判で勝訴したとしても、加害者が十分な保険に加入していなかったり、本当にお金を持っていない場合には、多額の賠償金は受け取れない可能性があります。
被害者は、人身事故の加害者への厳罰化とは別に、民事的な解決が必要になりますので、ご相談事があれば、法律の専門家である弁護士の助言を得るようにしましょう。

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