物損事故とは?事故対応の流れと保険会社との交渉のポイントについて解説
軽微な物損事故でも、当事者は警察へ報告する等の必要な対応をしなければなりません。被害を受けた側は怪我をしていなくても車両の修理費や代車費用を損害賠償請求できます。慰謝料は基本的に請求できませんが特例はあります。今回は物損事故の対応の流れと請求可能な賠償金の種類について解説します。
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物損事故とは
物損事故とは、人の怪我がなく、物の損害だけが発生した交通事故のことです。交通事故が起きたものの幸いにも怪我人がおらず、事故を起こした車両、および、車両が衝突した建物、標識やガードレール等の公共物など、モノだけが破損する被害にあった事故を指します。
これに対し、交通事故で人が怪我をした、あるいは亡くなった場合は人身事故です。
物損事故の主な特徴は下記の4つです。
- 自賠責保険が適用されない
- 違反点数の加算なし
- 慰謝料の請求は原則できない
- 実況見分調書は作成されない
物損事故には違反点数は付かない
物損事故には罰金も特にありません。物損事故は行政処分上は違反点数付加の対象外で、無事故と同じ扱いとなります。
そのため、建造物損壊以外の単なる物損事故の場合には、免許の違反点数は付されません。
物損事故で自賠責保険は使えない
また、物損事故では自賠責保険が使えません。損害賠償等の支払いが高額となった場合は、任意保険でカバーする必要があります。
壊した物が重要な建造物であったり、火事を起こして延焼させてしまったりした場合は、多額の損害賠償請求を受けてしまうことがあります。
事故を起こさないのが良いのですが、任意保険の物損に対する補償部分を充実させておくことも必要です。
物損事故は人身事故と比べて損害賠償金額が少なく、被害者にとって不利な点が多くあります。
軽い事故だからと、初期対応や賠償請求の手続きを軽い気持ちで、雑に進めることは避けましょう。
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物損事故に遭った場合の対応の流れ
物損事故を起こしてしまったときや、物損事故の被害に遭ってしまったときの対応は、人身事故とほとんど変わりありません。
事故直後の初期対応
事故直後はまず、交通事故による怪我人がいないか確認します。ガードレールや塀などへの接触事故でも、飛散した破片で怪我をした人がいるかもしれません。怪我人を見つけたら速やかに119番へ連絡します。
自身や同乗者を含め、一人でも怪我人がいた場合は物損事故ではなく人身事故となります。救急車を呼ぶ必要がない程度の怪我でも必ず受診はしましょう。
また、二次被害を防ぐために安全な場所へ移動します。移動が難しい場合には後続車両にハザードランプや発炎筒等で合図を送るなどして知らせます。
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警察への連絡
物損事故の場合も人身事故と同じく、必ず警察へ連絡します。軽くこすっただけとか、少し車のボディがへこんだだけとしても、当事者同士で示談を行って、その場で解決してしまう、警察への届出をしないままその場を離れることは許されません。小さな事故や相手のいない単独事故の場合も届け出が必要です。
警察への届け出をしないと事故証明がもらえない
警察への届出は、道路交通法で報告義務として記載されています。警察への届け出を怠ると3月以下の懲役又は5万円以下の罰金が科せられます。
また、当然ですが警察への届け出をしなければ、警察が発行してくれる交通事故証明書(事故証明)が交付されません。そのため、任意保険への請求手続きは進まなくなります。
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保険会社への連絡
任意保険に加入している場合は保険会社へも連絡します。事故状況を伝えるとともに、補償内容を確認しましょう。
物損事故では自賠責保険が使えませんから、任意保険の対物賠償保険や車両保険での補償となります。
事故状況の記録
事故の状況は忘れないうちにメモします。停車位置やお互いのスピードや道路状況、事故直後の写真を記録します。事故時のドライブレコーダーがある場合は、上書きされないようにSDカードを抜くなどして保管します。
事故の状況を記録しておくことは、示談交渉で過失割合を決める際などに役立ちます。
加害者・目撃者の連絡先を聞く
初期対応、警察・保険会社への連絡を済ませた後は、加害者および目撃者の連絡先を確認しておきます。
警察は刑事上の問題を処理するだけで、物損事故で後に必要となる損害賠償などの措置は何も行ってくれません。損害賠償の請求は直接加害者側に行う必要があるため、加害者の連絡先はしっかり抑えておく必要があります。
免許証、車検証、自賠責保険証や任意保険証を提示させて、
- 加害者の氏名
- 住所
- 車のナンバー
- 車の所有者
- 自賠責保険および任意保険の会社名や連絡先 など
を確認しておきましょう。
また、事故現場を見ていた目撃者がいる場合は、連絡先や氏名、目撃した内容を聞き取ってメモします。メモがない場合は録音しておくのもよいでしょう。
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損害の算定資料の準備
相手方との示談交渉に必要な資料を集めます。過失割合のない被害者の場合は保険会社が示談交渉を代行してくれませんから、資料も自分で準備します。
車両の修理見積書や買い替えの場合の車両購入見積書、代車やレッカー費用の領収書などです。
示談交渉
相手方との示談交渉をします。
示談交渉は損害額や過失割合についての話し合いです。一般的には加害者側の保険会社から示談案が提示されますが、被害者側が納得できない場合はその内容について交渉します。最終的に合意すると示談成立となります。
物損事故で請求可能な賠償金の種類・内訳
物損事故では、事故によって生じた財産的損害に対して、損害賠償を請求できます。請求可能な賠償金は次のようなものです。
車両の修理費
物損事故によって車が損傷した場合、修理費を損害賠償請求できます。修理費用は基本的に実費で考えますが、妥当性のない費用については認められないケースもあります。
また、修理費相当が賠償されるのは、車両が修理可能な場合に限られます。
代車費用
車両を修理している間、代車の必要がある場合には代車費用も損害賠償請求できます。修理の場合1~2週間、買い替えとなった場合で1カ月程度の期間の費用が認められますが、保険会社の都合で手続きが滞った場合や修理部品の欠品など、個別事情によって期間が延びることはあります。
代車費用は必要性がなければ認められないので、電車やバス・タクシーの利用で代替えできることや他に使用できる車を所有しているなどの理由で損害賠償請求できないこともあります。
また、代車の相当性として、高級車を代車として使用することについては問題となることがあります。
車両修理中の交通費
代車ではなく、公共交通機関を代替とした場合には、その費用を損害賠償請求できます。ただし代車費用を上限とするのが一般的でしょう。
評価損
車両は修理をしても、修理前よりも価格が下がることがあります。修理によって完全に回復できなかった場合はもとより、完全に回復できたとしても、いわゆる事故車として隠れた不具合を懸念されることで買い手が付きにくくなり評価額が落ちるためです。格落ち損害とも呼ばれます。
新しい車両、高級車種では評価損が認められやすい傾向にあります。
休車損害
自家用車は代替交通機関や代車を利用すればよいのですが、トラックやタクシー、バスなどの営業車両では、業務に使用できなかったことによる損害が発生することがあります。
これは休車損害として請求できるのですが、予備の車両がないことや事故発生日以降に使用予定の業務が確定していることが前提です。
車の買換費用
修理不可能な場合や、修理費が車両の時価相当額と買い替え諸費用の合計額を上回るケースでは、全損として扱われ、車の買換費用を請求できます。逆に、車の買換費用より低い金額で修理が行える場合は、車の買換費用を請求することはできません。
レッカー代
物損事故によりレッカー移動を余儀なくされた場合は、レッカーにかかる費用も損害賠償請求できます。車両の保管料も妥当な範囲ならば損害として認められます。
積荷などの損害
車両に積んでいたパソコンやスマートフォンが破損したり、着用していた衣服が破れたり眼鏡が壊れた場合は、修理代や時価相当額が損害賠償請求の対象となります。
ただし、事故による破損かの判断が難しく、交渉が難航するケースもあります。
建物や塀などの破損に対する弁償費用
交通事故によって建物や塀を傷つけられたり壊されてしまったら、修理費用または時価相当額を損害賠償請求できます。建物の損壊によって修理中に仮住まいを余儀なくされた場合はその家賃についても損害と認められる可能性があります。
物損事故の場合、慰謝料は請求できないのが通常
物損事故の場合、基本的には慰謝料の請求はできません。物損事故での損害賠償請求はあくまで財産的損害に対するものに限られるからです。慰謝料は精神的損害に対する賠償ですので、通常は対象となりません。
物損事故で車が全損となった場合
物損事故で車両が修理不可能な状態になったり、修理費用が車両時価と買い替え費用の合計額を上回ったりした場合は、全損となり、「車両の時価と買い替え費用の合計」が損害額となります。
新車への買い替え相当額を請求できるわけではありませんから、注意しましょう。
物理的全損と経済的全損
全損には物理的全損と経済的全損があります。
物理的全損とは、車両が事故により修理できない状況になることをいいます。車両の本質的な構造部分が損傷するなど、物理的に回復不可能なことです。
これに対して経済的全損とは、修理は可能だが修理費用が車両の時価を超えてしまうケースです。車両の時価額は車種や年式、走行距離などから算定します。年式が古ければ当然時価額も下がりますので、請求できる額も少なくなってしまいます。
車の買替費用
全損となった場合は、車両の時価額に加え、買い替え費用を損害賠償請求できます。車両のスクラップとしての売却代金があれば、時価額から差し引きます。
買い替え費用とは新しく車両を取得する際に必要となる費用で、登録費用や車庫証明費用などがあります。
相手方の保険会社との交渉ポイント
物損事故は自賠責保険の適用がないため、被害者になってしまった場合は基本的に相手方の任意保険会社との交渉になります。
まず事故現場の写真を撮影し、詳細なメモを残すことが重要です。警察の事故証明書や目撃者の証言、ドライブレコーダーの映像など、可能な限り多くの証拠を収集しましょう。修理費用や損害賠償額の見積もりを複数の修理業者から取得し、保険契約内容をよく理解して適用される補償範囲を確認します。
限度額を超えるような多額の損害賠償が必要なケースで、相手方の保険会社からの示談案に納得できない場合は、弁護士に相談したほうがよいでしょう。
怪我があるのに物損事故で処理されている場合
交通事故によって怪我をしたら、たとえ軽い怪我でも人身事故になります。事故直後は気づかなかったけれど後に痛みがでてきてしまうケースや、相手方に物損事故での交渉を持ち掛けられて同意してしまうケースでは、あとから示談交渉で揉めてしまったり適切な損害賠償額を得られなくなるリスクがあります。
診断書を準備しすぐに人身事故への切り替えを
怪我があるのに物損事故で届け出がされている場合は、速やかに医師の診察を受けて診断書を取得しましょう。事故を管轄した警察署へ診断書を持参して人身事故への切り替えを申請します。
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物損事故でよくある質問
物損事故で違反点数や罰金は発生する?
物損事故は行政処分の対象ではありませんから、違反点数は加算されませんし、罰則もありません。免許の色もそのままです。
ただし、交通違反が原因での事故は、処分の対象となることがあります。事故後に必要な措置を講じず立ち去った場合は当て逃げとなり、刑事処分の対象です。事故時に免許不携帯が判明しても違反となります。
物損事故で慰謝料請求できるケースはある?
物損事故では慰謝料は請求できません。慰謝料は精神的被害を回復するためのものであり、物損事故では財産的被害のみが発生していると考えるからです。
ただし例外として下記のようなケースでは慰謝料を請求できる可能性があります。
ペットが死傷した
ペットの怪我は原則物損として扱われるが、ペットと家族との関係性や怪我の内容などから家族の精神的苦痛が極めて大きいと認められる場合は慰謝料を請求する余地があります。
家族の墓石などが壊された
墓石や芸術品など、代替えの利かない物が損壊した場合は慰謝料を請求できる可能性があります。
家を壊されて転居した
家を修理する間、仮住まいをしなければならなくなり、転居手続きや慣れない場所での生活に対する心労が多大と認められる場合は慰謝料の請求ができる場合があります。
物損事故は弁護士に相談した方がいい?
物損事故は人身事故と異なり慰謝料を請求できません。請求できるのは実際に発生した損害、破損した車の修理費等に留まり、損害賠償の金額が少ないケースが一般的なことから、弁護士へ示談交渉を依頼すると、弁護士費用のほうが高くついてしまうことがあります。
しかし、物損事故だとはいっても、下記のようなケースでは、弁護士へ相談することで損害賠償額を増額できる可能性があります。
もらい事故(過失割合10:0)の場合
自身に過失のない、いわゆる「もらい事故」では、加入している任意保険会社には利害関係が発生しないため、被害者に代わっての示談交渉をしてくれません。
被害者自身で交渉をするよりも弁護士に相談したほうが、交渉を有利に進めることができるでしょう。
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過失割合で争いがある場合
過失割合を巡って争いがある場合、過失割合は損害賠償額に大きく影響します。
弁護士のアドバイスを受けて示談交渉に対応していくことで、被害者に有利な過失割合を確保し、結果、損害賠償金を増額できる可能性は上がります。
過失割合の決め方について詳しくは下記の記事をご覧ください。
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事故による怪我がある場合
事故による怪我がある場合は、物損事故ではなく人身事故として損害賠償・示談交渉を進めていくことになります。
一度は物損事故として事故処理が進んでいた場合は、警察に診断書を提出し、人身事故への切り替え手続きが必要となります。
物損と人身事故では請求できる費用項目に違いがあり、請求できる金額感も大きく異なってきます。そのため示談交渉も含め弁護士に任せたほうがよいケースは多くあります。
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加害者側の態度が悪く不誠実
加害者側と事故を巡ってトラブルになった、不適切な態度をとられた場合、弁護士に相談したほうが事がスムーズに運ぶケースは少なくありません。
態度の悪い加害者への対応を弁護士が引き受けて売れるので、被害者は精神的な負担も少なく事故対応を進めていくことができます。
また、被害者が直接話し合うよりも、交渉相手が弁護士となることで加害者側の態度が軟化する場合もあります。
物損事故を起こしてしまったらお詫びはすべき?
相手の車両や家、塀などに車をぶつけてしまったら、速やかに連絡をとり謝罪をしましょう。
物損事故を起こしてしまったにもかかわらず、お詫びもせずにその場を離れてしまうと、警察に通報され、当て逃げ事件として刑事罰を負うおそれがあります。
ごくささいな事故でも、感情のもつれから大きなトラブルになるリスクがあるため、自分が事故を起こしてしまったなら、その事実を認め、素直に謝罪するようにしましょう。保険会社に示談交渉を代行してもらう場合も、きちんと謝罪することで相手方の処罰感情も和らぎ、手続きがスムーズに進むはずです。
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軽微な物損事故なら警察は呼ばなくても良い?
負傷者がいない軽い事故だからといって警察へ連絡しないで済ませてはいけません。
交通事故の当事者には報告義務があります。ぶつけた加害者はもちろん、たとえ被害者であっても、事故発生の報告を怠ると道路交通法の違反になります。
ガードレールや電柱など公共物にぶつかり破損した場合は?
相手方がない単独事故で、車をガードレールや電柱などの公共物にぶつけてしまった場合は、慌てず車両を安全な位置に移動させて二次被害を防ぎます。
警察へ連絡するとともに、加入している任意保険会社にも連絡します。
破損してしまった公共物の費用だけでなく、設置費用も賠償する責任が生じますが、対物賠償保険に加入していればカバーできます。保険会社へ確認しましょう。
まとめ
物損事故は、怪我人がいない物的損害のみ生じた交通事故のことです。怪我人がいないことから事故対応を軽視しがちですが、一度トラブルになってしまえば大きな精神的負担となります。事故後の対応を怠ったことで、本来受け取れるはずの補償や賠償金を受け取れなくなってしまうリスクもあります。
物損事故を起こしてしまった後は、まず適切な対応を心掛け、万が一トラブルに発展しそうな場合、あとから怪我をしていることが判明した場合などは、交通事故に詳しい弁護士に相談してスムーズな解決を目指すことをお勧めします。
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交通事故一人で悩まずご相談を
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