軽い交通事故でも人身事故にすべき?人身事故にしないでと言われたら

交通事故・軽い人身事故への対応

交通事故に遭った際、特に軽い接触程度の人身事故だと、相手から「人身にしないで」と言われることがあります。実際に事故の被害が軽い交通事故の場合、被害者はどう対応するべきなのでしょうか。

この記事では、軽い交通事故でも人身事故扱いにする重要性、物損事故から人身事故への切り替え方法について解説します。

軽い交通事故でも人身事故にすべき理由

軽い人身事故の場合、ケガの程度が軽いなどの理由から「物損でいいや」と考える人もいるかもしれません。しかし、少しでもケガがあるようであれば、後々の手続きが面倒になったとしても人身事故にしておくべきです。

その理由として、以下の3つがあげられます。

警察の実況見分で証拠を確保できる

人身事故の場合、警察官による実況見分などを通して詳細な資料が作成されます。

軽い交通事故の場合でも人身事故として扱われれば、事故の状況が詳しく公式の記録に残るのです。こうして作成された資料は、のちに賠償金を請求する際の証拠として使用できます。

一方、物損事故として扱われた場合、人身事故のときのような詳しい資料は作成されません。過失運転致死傷罪などの犯罪が成立する可能性がある人身事故とは違い、物損事故は犯罪にならないからです。そのため、物損事故は人身事故に比べると警察による事故後の手続きが簡略化されがちです。

具体的には、実況見分調書は作成されず、当事者の供述調書および簡易な図面のみを記載した物件事故報告書が作成される程度で事件処理が終わってしまいます。

事故の状況や被害状況が詳しく記録されないため、当事者間で事故時の状況や過失割合などに関して意見の食い違いが起きた場合に、自分に有利な内容を立証するのが困難になるリスクがあります。

物損事故だと自賠責保険が使えない

物損事故の場合、自賠責保険の補償が受けられません。

これに対して、人身事故として処理されると、自賠責保険によって最低限の補償が受けられます。具体的には、相手が任意保険に加入していなくても、ケガの治療費や後遺症に対する慰謝料などを自賠責保険から受け取ることが可能です。

つまり、人身事故として扱われるかどうかで、補償の手厚さが大幅に変わるのです。

ケガや後遺障害があった場合、慰謝料を請求できる

人身事故として処理されると、治療費や慰謝料の請求が可能になります。交通事故のケガや後遺症のなかには、「むちうち症」のようにあとから症状が現れるものもあります。そのため、その場で「痛みがないから」「ケガが軽そうだから」といって、物損事故として処理してしまうと、あとになって困るケースがあるのです。

物損事故として処理された場合、あとから身体症状が出た場合に治療費や慰謝料の請求ができなくなってしまいます。
目に見えるケガがなくても、後遺症が出る可能性があるのが交通事故です。

物損事故から人身事故への切り替え方法も存在しますが、余計な負担を避けるためにも事故直後から適切に対応することが重要です。

軽い交通事故の相手から「人身にしないで」と言われたら

交通事故の相手から「人身事故にしないでほしい」「警察は呼ばずに示談してほしい」とお願いされたとしても、安易にOKすべきではありません。

ケガをしている可能性があるのに物損事故にしてしまった場合、被害者側が大きな不利益を被るリスクがあります。

事故現場で直接示談に応じるのはNG

まず、事故現場で直接示談に応じるのはおすすめできません。

交通事故が発生した場合、道路交通法の規定では、当事者には警察を呼ぶ義務があると定められています。この規定に反した場合、道路交通法違反となり、罰則を受けることになります。

また、その場で示談に応じることは被害者にとっては非常にリスキーです。事故直後は事故の状況や被害の全容がわからないことも多くあります。被害者自身が思っていたよりも、重い後遺症が出ることもあるかもしれません。事故の全容や影響を正確に把握するには時間が必要です。それだけに急いで示談してしまうと、被害者側は大きなデメリットを被る可能性があります。

加害者には物損事故のメリットが大きい

加害者が「物損事故にしてほしい」と頼むのは、物損事故にする方が加害者側にとってメリットが大きいからです。

物損事故にしてもらうことによる加害者側のメリットとしては、次のようなものが考えられます。

物損事故は免許の違反点数が加算されない

人身事故の場合、加害者には免許の違反点数が加算されます。点数が加算され、一定以上になった場合、免許停止や免許取消といった行政処分を受ける可能性があります。人身事故では加算される点数が増えるがあるため、人身事故を起こすと免許停止や免許取消になるリスクが高くなります。

一方、物損事故の場合、違反点数が加算されることはありません。つまり、免許停止や免許取消を避けたい加害者にとっては物損事故にしたほうが得なのです。

刑事罰が発生しない

人身事故の場合、過失運転致死傷罪などの犯罪が成立し、加害者が刑事罰を受ける可能性があります。

一方、物損事故にはこのようなリスクがありません。このため、刑事責任を避けたい加害者にとって、物損事故として処理することのメリットは大きいといえます。

賠償金は物損の補償(実費)のみ

物損事故では、賠償金は車両の修理代金、代車費用などの実費に限られます。そのため、賠償金の相場は数万円~30万円と比較的低額になりやすい傾向があります。

これに対して、人身事故の場合は治療費や慰謝料、休業損害など、より広範な補償が必要になります。

つまり、加害者にとっては、物損事故で済ませられれば経済的負担が大幅に減少することになるのです。

人身事故にすることで被害者のリスクが減る

被害者側にとって、人身事故をわざわざ物損事故として処理してもらうメリットはほぼありません。

人身事故にしてもらうことで初めて、身体的な症状に対する補償が受けられます。また、人身事故では事故に関する捜査や記録もしっかり行われるため、どんな事故だったのかという証拠も残ります。つまり、人身事故を人身事故として処理してもらうことは、被害者にとっては自分の身を守ることにつながるのです。

補償の手厚さや当事者同士のトラブル防止といった点も考慮すると、被害者にとっては人身事故は人身事故として処理してもらった方が望ましいといえるでしょう。

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物損事故から人身事故に切り替える方法

最初は物損事故として処理されたケースでも、後から症状が現れた場合、別途手続きをすれば人身事故に切り替えることが可能です。

この手続きは、被害者が適切な補償を受ける上で非常に重要なものです。具体的には、病院の受診、保険会社への連絡、警察での手続きという流れになります。
切り替えができる期間の目安は事故の当日から10日以内です。そのため人身事故にしたいという場合は、急いで手続きを済ませる必要があります。

病院を受診し、診断書を作成してもらう

事故後、体に異常を感じた場合は直ちに病院を受診しましょう。事故から受診までの時間が経ちすぎていると、事故とケガの関連性を疑われるおそれがあります。

病院を受診する際には、交通事故に遭ったことや事故の内容、痛みや症状の様子などを伝え、事故によるケガの詳細や治療の必要性、事故とケガの因果関係が証明できるような内容の診断書を作ってもらいましょう。

診断書は、事故によるケガを証明するためには不可欠な書類です。事故とケガの関連性を疑いを生じさせないためにも、事故から遅くとも1週間以内には取得することが望ましいといえます。

保険会社に連絡する

次に、自分と加害者側、両方の保険会社への連絡を行います。加害者側の保険会社に黙ってケガを治療してしまうと、治療費や慰謝料の支払いをめぐって後々トラブルになるおそれがあります。

人身事故に切り替える場合は忘れずに自分と相手の保険会社に連絡しておきましょう。

診断書を持参して警察に届け出る

最後に、あらかじめ電話で予約した上で警察署に行き、物損事故から人身事故への切り替えを申請します。このとき診断書などが必要になります。詳しい持ち物については、予約の際の指示にしたがいましょう。

警察は提出された診断書や実況見分の結果などを基に、事故を人身事故として再分類するかを判断します。

なお、切り替えの手続きには被害者・加害者双方の参加が必要です。加害者が切り替えを拒否している場合は、その旨もあらかじめ警察に伝えておきましょう。診断書があれば、人身事故への切り替えが認められる可能性があります。

物損事故から人身事故への切り替えが認められなかった場合の対処法

警察に申請しても、物損事故から人身事故への切り替えが認められないケースもあります。この場合、被害者は他の手段を取る必要があります。ここでは、そのような状況に直面した際の対処法を詳しく解説します。

人身事故証明書入手不能理由書を保険会社に提出する

警察が物損事故から人身事故への切り替えを認めない場合、被害者は「人身事故証明書入手不能理由書」を保険会社に提出することで、保険会社からの補償を受けられる可能性があります。

この書類は、事故が人身事故であるにもかかわらず、警察から人身事故証明書を入手できなかった理由を説明するためのものです。

この書類を加害者の保険会社に提出し、保険会社が「事故が人身事故である」と認めれば、民事上は人身事故となり、慰謝料や治療費などを保険会社に支払ってもらうことが可能になります。

裁判所での立証を弁護士に相談する

警察や保険会社が人身事故としての扱いを認めない場合、最終的な解決策として裁判を起こすことが考えられます。

裁判内でケガと事故との関連性を立証できれば、賠償金の請求が可能になるからです。もっとも、裁判の手続きは複雑で専門的な知識が必要となります。そのため、できるだけ早い段階で弁護士に相談することが重要です。

弁護士は、事故の状況、受けたケガの内容、治療の経過などに基づいて事故が人身事故であることの立証を行い、被害者が適切な補償を受けられるようサポートします。少しでも不安を感じたら、一度相談してみることをおすすめします。

まとめ

軽い人身事故であっても、安易に物損事故として処理してしまうと被害者の将来に大きな影響を及ぼす可能性があります。

交通事故のケガや後遺症は目に見えるものばかりではありません。そのときはただの物損事故だと思っていても、あとから症状が出るケースもあります。

物損事故から人身事故への切り替えもできますが、場合によっては保険会社や警察との話し合いが難航するかもしれません。

このような場合、一般市民が自力で状況に対応するのは困難といえます。そこで、重要となるのが、弁護士のアドバイスです。

軽い交通事故であっても、どんな対応をするかによって事件の見通しは大きく変わります。適正な補償を受けるためにも、交通事故に遭遇した際は早めに弁護士に相談することをおすすめします。

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