あおり運転の具体例や対策について解説!運転で気をつけるべきことは?

あおり運転
近年、危険な「あおり運転」による事故が相次いで社会問題となっていましたが、ついに道路交通法が改正されて「あおり運転」を処罰する「妨害運転罪」が新設されました。自動車だけではなく自転車によるあおり運転も禁止されます。この記事ではあおり運転に対する罰則や対策方法を解説します。

あおり運転とは

あおり運転とは、極端な幅寄せや急停車、クラクションを鳴らすなどの危険な方法で他の車両の通行を妨害する運転です。

あおり運転が行われると、被害車両があせってハンドル・ブレーキ操作を誤ったり車両同士が接触したりして重大な事故につながる危険が発生します。2017年には東名高速道路であおり運転の被害に遭った夫婦が死亡する痛ましい事故が起こり、マスコミでも大きく取り上げられて社会問題となりました。

あおり運転については、従来も一応処罰規定がありましたが「充分ではない」と指摘されていました。そこで法改正が行われ、あおり運転に対する罰則や行政処分が強化されて危険なあおり運転の根絶がはかられています。

あおり運転の具体例

あおり運転とみなされる代表的な行為として、具体的には下記のようなものがあります。

  • 車間距離を詰める
  • 幅寄せ
  • クラクションやパッシング
  • 前に割り込んで急ブレーキ
  • 蛇行運転
  • つきまとい
  • 停車して進路を妨害

車間距離を詰める

後ろから車間距離を詰めて前方のドライバーにプレッシャーをかけます。

幅寄せ

隣を走行している車が接近してきて運転を妨害します。追い越しの際にわざと幅寄せをしてプレッシャーをかける悪質な車両もあります。

クラクションやパッシング

不必要にクラクションを鳴らしたりパッシングやハイビームを使ったりして対象のドライバーへプレッシャーをかけます。

前に割り込んで急ブレーキ

急に被害車両の目の前に割り込み急ブレーキをかけます。衝突の可能性もある危険な行為です。

蛇行運転

被害車両の前方を右や左に蛇行して走行し、ドライバーを困惑させます。被害車両の後方で蛇行運転をして前方ドライバーを威圧するパターンもあります。

つきまとい

いつまでも後ろにぴたっとついてつきまとうことにより、対象ドライバーへプレッシャーをかけます。

停車して進路を妨害

道路の前方に停車し、後方車両が前に進めないように妨害する行為です。2017年に東名高速道路で発生した交通事故もこの類型で、被害車両はあおり運転加害者が前方で停車したために停車せざるを得なくなりました。そこへ後ろから走ってきた大型トラックに追突されて死亡したものです。

あおり運転をするドライバーの心理

そもそもあおり運転の加害者は、なぜ危険で迷惑な嫌がらせ行為をするのでしょうか?その心理をみてみましょう。

  • 急いでいる
  • 運転が下手な相手に対するイライラ
  • 日頃のストレス
  • 相手の顔が見えないので抵抗感が低い
  • 攻撃的な性格

急いでいる

1つには、単純に「急いでいる」場合があります。時間までに必ず目的地に行かなければならないにもかかわらず前方車両がもたもたしていると、イライラが募って「早く行け!」と言いたくなってしまいます。車を走らせていると相手を怒鳴りつけるのは難しいので車間距離を詰めるなどの行動に出ます。

運転が下手な相手に対するイライラ

あおり運転をする人は、自分の運転に自信のある方が比較的多数です。自分はスムーズに運転できるのに、運転の下手な相手がもたついていると苛ついてあおりたくなってしまいます。

日頃のストレス

現代人は、毎日の生活の中でたくさんのストレス要因を抱えているものです。会社や家庭で嫌なことがあったり人間関係がうまくいっていなかったりミスや失敗をしてしまったりすると、そのストレスを運転にぶつけてしまいます。

相手の顔が見えないので抵抗感が低い

人間は、相手の顔が見えていれば決してできないような酷いことでも、顔が見えないと平気でしてしまうものです。「人を傷つけている」という実感を持てないためです。車に乗っていると、相手の恐怖におびえる顔は見えません。想像力が低く他者への共感力のない人は、抵抗感なしにあおり運転をしてしまいます。

攻撃的な性格

もともと攻撃的な性格の人、ハンドルを握ると攻撃的な本性が顕れるタイプの人は、あおり運転の加害者になりやすいといえるでしょう。

あおり運転の厳罰化による変更点

あおり運転による危険で痛ましい交通事故が発生し、全国的に大きな社会問題となったことから今般法改正が行われ、罰則や行政罰(免許の点数)が強化されました。具体的にどのような規定になったのか、みてみましょう。

  • 道路交通法の「妨害運転罪」の新設
  • あおり運転(道路交通法違反)への罰則の設定
  • 自動車運転処罰法の改正

道路交通法の「妨害運転罪」の新設

車両の交通を規制する法律は「道路交通法」です。従来の道路交通法には

  • 車間距離を維持しなければならない
  • 急ブレーキを踏んではならない

という規定はありましたが「あおり運転」そのものを取り締まる規定が存在していませんでした。危険行為については刑法の「暴行罪」を適用するしかなかったのです。
それでは「前方に停止される」などの嫌がらせ行為を規制できないので、法改正が行われて「妨害運転罪」が新設されました。

妨害運転罪になる10つの類型

妨害運転罪となるのは以下の10類型の危険な運転方法です。

  • 極端に車間距離を詰める(車間距離不保持)
  • 急な進路変更(進路変更禁止違反)
  • 急ブレーキ(急ブレーキ禁止違反)
  • 危険な方法による追い越し
  • 対向車線にはみ出す(通行区分違反)
  • 執ようなクラクション(警音器使用制限違反)
  • 執ようなパッシング(減光等義務違反)
  • 幅寄せ、蛇行運転(安全運転義務違反)
  • 高速道路での低速走行(最低速度違反)
  • 高速道路での駐停車(高速自動車国道等駐停車違反)

改正道路交通法は2020年6月2日に成立、6月30日に施行されています。

あおり運転(道路交通法違反)の罰則

道路交通法の妨害運転罪の罰則は、以下の2種類です。

通行妨害目的で危険を生じさせる違反行為

他の車両の通行を妨害する目的で、上記の妨害運転罪に該当する危険な行為を行った場合の罰則や行政罰です。

罰則 3年以下の懲役または50万円以下の罰金
懲役や罰金の刑事罰が適用されます。刑事裁判となり、有罪判決が出たら一生消えない前科がつきます。

違反点数25点
免許の点数が25点加算されます。1回で免許取消しとなり、欠格期間は2年となってその間は免許の再取得ができません。

高速道路上における停車など、著しい危険を生じさせた場合

妨害運転罪に該当する行為を行い、他の車両を高速道路上に停車させるなど著しい危険を発生させるとさらに重いペナルティが適用されます。

罰則 5年以下の懲役または100万円以下の罰金
通常の妨害運転罪よりも重い刑事罰が適用されます。刑務所へ行かなければならない可能性も高くなり、一生消えない前科がつきます。

違反点数 35点
通常の妨害運転罪よりも高い点数が加算されます。あおり運転1回で免許取消しとなり、欠格期間は3年となってその間は免許の再取得が認められません。

自動車運転処罰法の改正

あおり運転厳罰化に合わせて「自動車運転処罰法」も改正されました。

自動車運転処罰法は、交通事故が発生した場合の加害者への刑罰を定める法律です。今回改正されたのは「危険運転致死傷罪」に関する規定です。

危険運転致死傷罪は、故意とも同視できるような特に危険な運転方法によって交通事故を起こしたときに適用される罪で、刑罰も非常に重くなっています。アルコールによる酩酊状態、極端なスピード違反や危険な信号無視のケースなどで適用されます。

危険運転致死傷罪に追加されたあおり運転のケース

今回の改正により、危険運転致死傷罪に該当するあおり運転のケースとして以下の2つが追加されました。

車の通行を妨害する目的で、一定以上のスピードで走行している車の前方で停止したり著しく接近したりする行為

対象車両が一定以上のスピードで走行しているときに、その車の走行を妨害しようとして前方に割り込んで急停車したり幅寄せをしたりする行為です。

高速道路や自動車専用道路で、走行中の自動車の前方で停止したり著しく接近したりして対象車両に停止や徐行させる行為

高速道路や自動車専用道路では、走行中の自動車の前方に割り込んで停止したり幅寄せしたりして、相手車両に停止や徐行をさせると危険運転になります。

従来と何が変わったのか

従来の危険運転致死傷罪でも「危険な速度を出しながら、人や車の通行を妨害する目的で走行中の車の直前に進入したり著しく接近したりする行為」が禁止されていました。

ただこの規定では、「(加害者が)危険な速度を出している」ことが要件となっており「前方で停車」「徐行」している場合は処罰の対象外となっていたのです。
つまり被害車両の前に割り込んで停車した場合には危険運転致死傷罪が適用されない問題がありました。

加速時だけでなく割り込み停止や幅寄せも処罰の対象に

そこで今回改正が行われ「危険な速度を出しながら」という要件が取り除かれて「停車した場合」も含めて処罰対象とされたのです。

東名高速道路のあおり運転死亡事件の反省点を踏まえ、高速道路上で割り込み停止や幅寄せを行った場合についても処罰対象となると明文化されています。

危険運転致死傷罪の罰則

あおり運転で交通事故を起こし「危険運転致死傷罪」が適用された場合の罰則は、以下の通りです。

被害者がけがをした場合

15年以下の懲役刑

被害者が死亡した場合

1年以上20年以下の懲役刑

道路交通法と自動車運転処罰法の関係

あおり運転によって交通事故を起こすと、道路交通法違反と危険運転致死傷罪の両方が成立します。このように刑罰が2つ重なる場合の取扱いはどうなるのでしょうか?

道路交通法と自動車運転処罰法の罪は、法律上「併合罪」となります。併合罪の場合、重い方の刑罰の長期が1.5倍になります。ただし両方の刑罰の合計を超えることはできません。

自動車運転処罰法の危険運転致死傷罪と道路交通法の妨害運転罪を比べると危険運転致死傷罪の方が重いので、こちらの刑罰が1.5倍となります。ただし危険運転致死傷罪と妨害運転罪の刑罰の合計を超えられないのでその制限が適用されます。

具体的には以下の通りです。

被害者がけがをした場合

懲役18年または懲役20年

被害者が死亡した場合

懲役23年または懲役25年

懲役18年や懲役23年となるのは原則的な妨害運転罪が成立する場合、懲役20年や懲役25年となるのは高速道路上で被害者を停車させるなど特に危険なあおり運転をした場合です。

あおり運転厳罰化でドライバーが注意すべきこと

あおり運転について詳細な禁止規定が定められ、刑罰も厳しくされたため、ドライバーとしても「加害者」になってしまわないよう充分注意が必要です。マスコミで報道されるような悪質な運転でなくても、急いでいるとついつい「あおり行為」をしてしまう可能性もあります。
安全に車を運転するため、以下のような点に注意しましょう。

  • 余裕をもった予定を組む
  • 疲れた状態で運転しない
  • あおり運転を避けやすい運転をする

余裕をもった予定を組む

普段は安全運転をする方でも「〇時までに〇〇へ行かねばならない」など急いだ気持ちで運転していると、どうしても他の車に苛立ちを感じるものです。焦ったり急いだりすると危険な運転をしてしまうので、目的地へは余裕をもった予定を組みましょう。

疲れた状態で運転しない

寝不足や疲労状態で運転すると、どうしても余裕がなくなって他の車に対する怒りが募りやすくなります。また寝不足の場合「居眠り運転」をして結果的に「蛇行運転」などの危険な行為につながってしまうおそれがあります。身体が疲れているときには運転を避けましょう。

あおり運転を避けやすい運転をする

具体的には以下のような点に注意して運転すると、あおり運転を避けやすくなります。

  • 追い越し車線を走り続けず、追い越しが終わったら速やかに元の車線に戻る
  • 追いつかれたら早めに道を譲る
  • 車距離を十分にとる
  • 急な割り込みをしない
  • 急発進や急停車をしない

あおり運転厳罰化で自転車も対象に

今回の道路交通法改正で「自転車」のあおり運転も摘発対象とされました。

従来も、自転車による危険行為が14個の類型に分けられて禁止されていましたが、今回の改正で自転車の「妨害運転」が15番目の危険行為として新たに規定され、規制対象となったのです。

自転車で禁止される「妨害運転」は、以下のようなものです。

  • 逆走して進路を妨害する
  • 幅寄せ
  • 進路変更
  • 不必要な急ブレーキ
  • ベルを執拗に鳴らす
  • 車間距離の不保持

14歳以上の人が自転車で危険行為を繰り返して3年の間に2回以上摘発されると、「安全講習」を受講しなければなりません。
公安委員会からの命令に背いて受講しなかった場合、5万円以下の罰金刑が科されます。

あおり運転の回避に効果的な対策は?

あおり運転の被害になるべく遭わないように、以下のような対策をしましょう。

  • 道を譲る
  • 一定以上の速度で運転する
  • 急停車や急な割り込みをしない
  • ドライブレコーダーを設置

道を譲る

自分がゆっくり走っていて周囲にスピードを出している車があったら、速やかに道を譲りましょう。
いつまでも前を低速度で前方を走っていると、後方車両のドライバーがイライラしてきて車間距離を詰められるおそれが高まります。

一定以上の速度で運転する

法定速度を大幅に下回るスピードで運転していると、周囲の車のドライバーをいらつかせてしまう可能性があります。スピード違反をしてはいけませんが、違反にならない程度の一定以上の速度で走行しましょう。

急停車や急な割り込みをしない

急停車や急な割り込みをすると、後ろの車両のドライバーの怒りを買う可能性があります。周囲の状況に気を配りつつ、急停車や割り込みをしない運転を心がけましょう。

ドライブレコーダーを設置

あおり運転の被害を受けても、加害者は「そんなことはしていない」としらを切る可能性があります。被害者と加害者の認識が食い違う場合、どちらが正しいのかを証明しなければなりません。
そのため、必ずドライブレコーダを設置しておきましょう。ドライブレコーダーは相手が逃げてしまった場合の捜査にも役立ちます。

あおり運転の被害を受けた場合の対処方法と相談先

もしもあおり運転の被害を受けてしまったら、以下のように対処しましょう。

  • サービスエリアやパーキングエリア(PA)などの安全な場所へ避難
  • 窓を開けない、車外に出ない
  • 警察に110番通報する
  • 弁護士に相談

サービスエリアやパーキングエリア(PA)などの安全な場所へ避難

あおり運転をされると、恐怖を感じてその場で停車してしまう方もおられます。しかし停車すると後方車両に追突されるなど事故の危険が高くなります。特に高速道路上での停車は極めて危険です。
あおられたら、あせらずにサービスエリアやパーキングエリア、駐車場などの安全な場所まで移動しましょう。

窓を開けない、車外に出ない

あおり運転をされて相手に近くに来られたとき、窓を開けたり車外に出たりすると危険です。相手から暴行を受ける可能性がありますし、後ろから来た車両にはねられてしまう危険も発生します。ドアはロックして窓を開けず、車外に出ないようにしましょう。

警察に110番通報する

被害に遭ったらすぐに警察に通報してください。同乗者がいれば走行中に通報できますし、お一人の場合にはどこかへ止めて110番通報すると良いでしょう。その間もドアはロックして車外には下りないようにしてください。

弁護士に相談

あおり運転による交通事故に巻き込まれたら、現場対応が済んで状況が落ち着いた後に相手と示談交渉しなければなりません。
あおり運転の加害者と示談を進めていくのは恐ろしさを感じるかもしれませんし、相手に保険会社がついていてもスムーズに示談が進まない可能性があります。困ったときには弁護士に相談してみてください。

あおり運転の罰則と対処法まとめ

あおり運転への規制が強化された今、加害者にも被害者にもならないよう充分注意が必要です。万一被害に遭ったらすぐに警察に連絡して対応してもらいましょう。

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