後遺障害の等級認定における加重とは?
過去に交通事故が原因で、または他の事故や要因で障害を持っていた人が、新たに交通事故遭って後遺障害が残ってしまった場合、「加重」のルールで後遺障害の等級認定が行われます。申請は難解となるため、確実な補償を受けるためには弁護士などへの相談が必要。
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もともと障害があるのに、交通事故で後遺障害が残ってしまったら?
一般的に、交通事故による後遺障害の認定申請や等級の取り決めは、もともと健康な状態であった人が事故に遭った場合を想定して定められています。
しかし、もともと障害を持っていた人や、一度交通事故に遭って後遺障害を持っていた人が、再び交通事故に遭って負傷し、後遺障害が残ってしまうケースも考えられます。その場合は、どのように後遺障害の等級が認定され、補償金が支払われるのでしょうか?
もともと障害があった場合や、過去の事故が原因で後遺障害を持っていた人が、再び交通事故で後遺障害を背負ってしまった場合、等級認定や自賠責保険で補償される限度額は、「加重」という考え方で計算されます。
自動車損害賠償保障法施行令に定義されている「加重」の考え方
法的には、この「加重」は、以下のように定められています。
(自動車損害賠償保障法施行令 第二条2項)
法第十三条第一項の保険金額は、既に後遺障害のある者が傷害を受けたことによって同一部位について後遺障害の程度を加重した場合における当該後遺障害による損害については、当該後遺障害の該当する別表第一又は別表第二に定める等級に応ずるこれらの表に定める金額から、既にあつた後遺障害の該当するこれらの表に定める等級に応ずるこれらの表に定める金額を控除した金額とする。
少し分かりにくいのですが、「加重」障害とは、既に障害がった人が交通事故に遭ってしまい、もともとの障害が悪化した時に適用されるものです。
保険金は差し引かれて支払われる
基本的には、障害が悪化していないと新たな後遺障害の認定は行われないわけですから、「加重」と認定された場合には、新たな後遺障害に対する保険金から、もともとあった障害の保険金額が差し引かれた金額が支払われることになります。
もともとあった障害は、交通事故に原因するものに限りません。
後遺障害の部位によって「加重」は判断される
等級認定と支払われる保険金は、後遺障害の部位によって変わってくるので注意が必要です。
「加重」が適用されるのは、条文にもあるように、同一部位に限定されます。
もともと障害がある人が、交通事故で後遺障害が残った場合に想定されるケース
もともと障害を持っていた人が交通事故に遭い、後遺障害が残ってしまう場合には、次のようなケースが考えられます。
- 同じ部位に後遺症が残ってしまった場合
- 部位は違うが、同じ系列に後遺症が残った場合
- 部位も系列もまったく違う場所に後遺症が残った場合
ここで言う部位とは、身体の一部分を示す10種類(眼、耳、鼻、口、神経系統の機能または精神、頭部・顔面部・頸部、外生殖器を含む胸腹部臓器、体幹、上肢、下肢)に分類され、系列とは、障害のある部位を機能ごとに35のグループに分けたものです。
例えば、脊柱の変形障害と運動障害は同じ部位の後遺障害となるので、1つの後遺障害として見なされます。
同一系列の後遺障害も別々に判断されず、1つの後遺障害として認定が行われるのです。
それぞれのケースについて、具体例を見てみましょう。
同じ部位に後遺症が残ってしまった場合
もともと障害があった部位に、交通事故で負傷を負い、それが後遺障害になってしまったケースになります。
例えば、最初の事故で背骨が圧迫骨折して変形(第11級7号の後遺障害)し、次の事故では同じく背骨にダメージを負って、運動障害が残ってしまった(第6級5号の後遺障害)場合を想定します。
このように、以前から後遺障害が残っていた部位へ、さらにダメージを負って後遺障害の症状が重くなった時には、重い後遺障害の等級に支払われる保険金限度額から、過去に支払われた保険金を差し引いた金額が、自賠責保険の補償限度額になります。
このケースで保険金が支払われるのは、最初の後遺障害の等級より2度目の後遺障害の等級が上がった場合のみと規定されています。
2度目の事故で、後遺障害の程度が軽くなることはないという考えが原則となっているからです。
部位は違うが、同じ系列に後遺症が残った場合
これは、2度目の事故により残った後遺障害が、体の部位は違っても、もともとあった障害と同系列の障害となった場合です。
例えば、右手の親指を切断(第9級12号の後遺障害)していて、次の事故で右腕のひじから下を切断してしまった(第5級4号の後遺障害)というようなケースです。このケースでは、2つの後遺障害を「併合」して、等級の認定が行われます。
そしてその等級における保険金と、過去の後遺障害で支払われた保険金との差額が支払われるのです。
このケースでは、後遺障害が第9級と第5級ですので「併合」されて第4級になります。併合第4級の保険金から、第9級の保険金を差し引いた金額が、自賠責保険で支払われる限度額となるのです。
部位も系列もまったく違う場所に後遺症が残った場合
もともと後遺障害を持っていた人が、次の交通事故に遭って、今度は全然別の部位に後遺障害が残った場合ですが、このケースでは「加重」は考慮されません。
例えば、右腕に後遺障害を持っていた人が、次の事故で左足に後遺障害が残ったというような場合です。
この場合、2度目の事故で残ってしまった後遺障害だけが等級認定の対象となります。
既往症があるケースでは、どう判断されるのか?
後遺障害というほどではなくても、交通事故に遭ってしまう前に何らかの持病があり、それが事故によって悪化した場合はどうなるのでしょう?
さまざまなケースがあり、個別で判断される
事故前からリウマチや椎間板ヘルニア、うつ病、PTSD、脊柱管狭窄、骨粗しょう症などの持病、特に機能障害につながるような症状があった場合、賠償金額の減額(素因減額)となる可能性があります。
このような場合には、適切に対応しないと必要以上に減額されたり、後遺障害の認定が難しくなってしまったりすることがありますので、弁護士などの専門家に、必ず相談するようにしましょう。
「加重」の後遺障害の認定手続きは、弁護士に相談しましょう
交通事故による後遺障害が残ってしまった場合、その後の生活の補てんのため、少しでも上の等級の後遺障害認定を得て、適正な損害賠償金を得たいと思うのが普通でしょう。
特に「加重」に相当するようなケースでは、交通事故に2度も遭ったことで、精神的な苦痛も重なり、複雑な申請にも困難が生じることが考えられます。
「加重」は示談交渉も難しくなる
交通事故前の状況を的確に証明しなければならないため、「加重」に相当する後遺障害が残ってしまった場合には、示談交渉も難しくなってきます。
最近の示談交渉では、加害者と被害者が直接話し合うことは滅多になく、多くのケースでは、加害者が加入している保険会社の担当員と被害者の交渉となります。
そのような状況では、いくら勉強したと言っても、後遺障害の認定がなされるかどうかわからない状況では、加害者側の保険会社のペースで進んでしまうことも考えられます。
特に、2度の交通事故に遭ったということは、保険金の二重取りが懸念されるということから、保険会社の調査はかなり厳しく行われることが想定されます。
被害者に残ってしまった後遺障害の等級認定が難しい時、複数の後遺障害が残った場合に行われる「併合」の時、等級表に掲載されていない症状がある場合の「相当」の時、そしてもともと障害があった場合の「加重」の時などには特に、弁護士などの専門家に相談することをお薦めします。
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