後遺障害の等級認定における併合とはどのような状態?
交通事故による後遺障害は目なら目の障害、足なら足の障害と、部位別に1つの障害として等級表に記載されています。しかし体に残る障害は1つとは限らず、その場合は「併合」というルールで等級が認定される。個人での申請は難しく、弁護士などへの相談が必要です。
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交通事故で残る後遺障害は1つとは限らない!
その場合はどう等級認定を行う?
交通事故で負った怪我が、完治が見込めずに後遺障害として一生残る場合があります。
この場合の損害補償金額は後遺障害等級によって認定されますが、後遺障害になる症状は1つとは限りません。
後遺障害の等級と症状が明記されている等級表に記載されている症状は、目なら目の障害、足なら足の障害と部位別にひとつの障害だけです。これら複数の後遺障害が残ってしまった場合、等級認定はどうなるのでしょうか?
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「併合」によって、新たな等級が認定される
大きな事故であれば、残ってしまう後遺障害が目と手足など、複数に至るケースがあります。
被害者は、健康だった頃と比べて、より不便な生活を送らなくてはならなくなってしまいます。しかし、別々の後遺障害に対し、それぞれ別個に慰謝料などを請求することはできないのです。このような場合は、障害ごとの等級を合わせて、最終的な等級が認定されます。
これは「併合」と呼ばれます。
非常に難しい「併合」の理解。弁護士に相談を
本項では、基本的な「併合」のルールや、例外事項について説明しますが、後遺障害は被害者それぞれさまざまな症状があるため、一概には言えないことが非常に多いものです。
しっかりと医師の治療を受け、後遺障害の診断をもらい、弁護士などの専門家に相談して手続きを進めることが良策です。
複数の後遺障害の等級認定には、「併合」のルールが適用される
交通事故による後遺障害は1つとは限りません。等級表にはそれぞれの症状が掲載されていますが、そのうち複数の後遺障害が残ってしまった場合、等級認定は、「併合」というルールによって決められます。
「併合」の基本は、重い方の等級がさらに上がること
後遺障害の等級は、症状が重い方が等級の数が小さくなっています。そのため、複数の後遺障害の症状がある場合、重い方の症状の等級の数がさらに小さくなる(等級が上がる)のが基本です。
一方で、複数の後遺障害があるからといって、あらゆる後遺障害が「併合」できるというわけではありません。特に、症状が最も軽い第14級だけの場合、併合しても等級が変わらないケースがあります。
自動車損害賠償保障法施行令に定められている「併合」の基準
後遺障害の等級認定における「併合」の基準は、自動車損害賠償保障法施行令(第二条の三、ロ~ホ)において以下のように定められています。
(自動車損害賠償保障法施行令、第二条の三から抜粋)
ロ 別表第二に定める第五級以上の等級に該当する後遺障害が二以上存する場合における当該後遺障害による損害につき
重い後遺障害の該当する等級の三級上位の等級に応ずる同表に定める金額
ハ 別表第二に定める第八級以上の等級に該当する後遺障害が二以上存する場合(ロに掲げる場合を除く。)における当該後遺障害による損害につき
重い後遺障害の該当する等級の二級上位の等級に応ずる同表に定める金額
ニ 別表第二に定める第十三級以上の等級に該当する後遺障害が二以上存する場合(ロ及びハに掲げる場合を除く。)における当該後遺障害による損害につき
重い後遺障害の該当する等級の一級上位の等級に応ずる同表に定める金額(その金額がそれぞれの後遺障害の該当する等級に応ずる同表に定める金額を合算した金額を超えるときは、その合算した金額)
ホ 別表第二に定める等級に該当する後遺障害が二以上存する場合(ロからニまでに掲げる場合を除く。)における当該後遺障害による損害につき
重い後遺障害の該当する等級に応ずる同表に定める金額
等級 | 後遺障害 | 保険金額 |
---|---|---|
第一級 | 一 両眼が失明したもの 二 咀嚼及び言語の機能を廃したもの 三 両上肢をひじ関節以上で失つたもの 四 両上肢の用を全廃したもの 五 両下肢をひざ関節以上で失つたもの 六 両下肢の用を全廃したもの |
三千万円 |
第二級 | 一 一眼が失明し、他眼の視力が〇・〇二以下になつたもの 二 両眼の視力が〇・〇二以下になつたもの 三 両上肢を手関節以上で失つたもの 四 両下肢を足関節以上で失つたもの |
二千五百九十万円 |
第三級 | 一 一眼が失明し、他眼の視力が〇・〇六以下になつたもの 二 咀嚼又は言語の機能を廃したもの 三 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 四 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 五 両手の手指の全部を失つたもの |
二千二百十九万円 |
第四級 | 一 両眼の視力が〇・〇六以下になつたもの 二 咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの 三 両耳の聴力を全く失つたもの 四 一上肢をひじ関節以上で失つたもの 五 一下肢をひざ関節以上で失つたもの 六 両手の手指の全部の用を廃したもの 七 両足をリスフラン関節以上で失つたもの |
千八百八十九万円 |
第五級 | 一 一眼が失明し、他眼の視力が〇・一以下になつたもの 二 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 三 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 四 一上肢を手関節以上で失つたもの 五 一下肢を足関節以上で失つたもの 六 一上肢の用を全廃したもの 七 一下肢の用を全廃したもの 八 両足の足指の全部を失つたもの |
千五百七十四万円 |
第六級 | 一 両眼の視力が〇・一以下になつたもの 二 咀嚼又は言語の機能に著しい障害を残すもの 三 両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になつたもの 四 一耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの 五 脊柱に著しい変形又は運動障害を残すもの 六 一上肢の三大関節中の二関節の用を廃したもの 七 一下肢の三大関節中の二関節の用を廃したもの 八 一手の五の手指又はおや指を含み四の手指を失つたもの |
千二百九十六万円 |
第七級 | 一 一眼が失明し、他眼の視力が〇・六以下になつたもの 二 両耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの 三 一耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの 四 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 五 胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 六 一手のおや指を含み三の手指を失つたもの又はおや指以外の四の手指を失つたもの 七 一手の五の手指又はおや指を含み四の手指の用を廃したもの 八 一足をリスフラン関節以上で失つたもの 九 一上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの 十 一下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの 十一 両足の足指の全部の用を廃したもの 十二 外貌に著しい醜状を残すもの 十三 両側の睾丸を失つたもの |
千五十一万円 |
第八級 | 一 一眼が失明し、又は一眼の視力が〇・〇二以下になつたもの 二 脊柱に運動障害を残すもの 三 一手のおや指を含み二の手指を失つたもの又はおや指以外の三の手指を失つたもの 四 一手のおや指を含み三の手指の用を廃したもの又はおや指以外の四の手指の用を廃したもの 五 一下肢を五センチメートル以上短縮したもの 六 一上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの 七 一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの 八 一上肢に偽関節を残すもの 九 一下肢に偽関節を残すもの 十 一足の足指の全部を失つたもの |
八百十九万円 |
第九級 | 一 両眼の視力が〇・六以下になつたもの 二 一眼の視力が〇・〇六以下になつたもの 三 両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの 四 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの 五 鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの 六 咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの 七 両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの 八 一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になつたもの 九 一耳の聴力を全く失つたもの 十 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 十一 胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 十二 一手のおや指又はおや指以外の二の手指を失つたもの 十三 一手のおや指を含み二の手指の用を廃したもの又はおや指以外の三の手指の用を廃したもの 十四 一足の第一の足指を含み二以上の足指を失つたもの 十五 一足の足指の全部の用を廃したもの 十六 外貌に相当程度の醜状を残すもの 十七 生殖器に著しい障害を残すもの |
六百十六万円 |
第十級 | 一 一眼の視力が〇・一以下になつたもの 二 正面を見た場合に複視の症状を残すもの 三 咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの 四 十四歯以上に対し歯科補綴を加えたもの 五 両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になつたもの 六 一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になつたもの 七 一手のおや指又はおや指以外の二の手指の用を廃したもの 八 一下肢を三センチメートル以上短縮したもの 九 一足の第一の足指又は他の四の足指を失つたもの 十 一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの 十一 一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの |
四百六十一万円 |
第十一級 | 一 両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの 二 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの 三 一眼のまぶたに著しい欠損を残すもの 四 十歯以上に対し歯科補綴を加えたもの 五 両耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になつたもの 六 一耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの 七 脊柱に変形を残すもの 八 一手のひとさし指、なか指又はくすり指を失つたもの 九 一足の第一の足指を含み二以上の足指の用を廃したもの 十 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの |
三百三十一万円 |
第十二級 | 一 一眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの 二 一眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの 三 七歯以上に対し歯科補綴を加えたもの 四 一耳の耳殻の大部分を欠損したもの 五 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの 六 一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの 七 一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの 八 長管骨に変形を残すもの 九 一手のこ指を失つたもの 十 一手のひとさし指、なか指又はくすり指の用を廃したもの 十一 一足の第二の足指を失つたもの、第二の足指を含み二の足指を失つたもの又は第三の足指以下の三の足指を失つたもの 十二 一足の第一の足指又は他の四の足指の用を廃したもの 十三 局部に頑固な神経症状を残すもの 十四 外貌に醜状を残すもの |
二百二十四万円 |
第十三級 | 一 一眼の視力が〇・六以下になつたもの 二 正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの 三 一眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの 四 両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの 五 五歯以上に対し歯科補綴を加えたもの 六 一手のこ指の用を廃したもの 七 一手のおや指の指骨の一部を失つたもの 八 一下肢を一センチメートル以上短縮したもの 九 一足の第三の足指以下の一又は二の足指を失つたもの 十 一足の第二の足指の用を廃したもの、第二の足指を含み二の足指の用を廃したもの又は第三の足指以下の三の足指の用を廃したもの 十一 胸腹部臓器の機能に障害を残すもの |
百三十九万円 |
第十四級 | 一 一眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの 二 三歯以上に対し歯科補綴を加えたもの 三 一耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になつたもの 四 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの 五 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの 六 一手のおや指以外の手指の指骨の一部を失つたもの 七 一手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなつたもの 八 一足の第三の足指以下の一又は二の足指の用を廃したもの 九 局部に神経症状を残すもの |
七十五万円 |
備考 一 視力の測定は、万国式試視力表による。屈折異状のあるものについては、矯正視力について測定する。 二 手指を失つたものとは、おや指は指節間関節、その他の手指は近位指節間関節以上を失つたものをいう。 三 手指の用を廃したものとは、手指の末節骨の半分以上を失い、又は中手指節関節若しくは近位指節間関節(おや指にあつては、指節間関節)に著しい運動障害を残すものをいう。 四 足指を失つたものとは、その全部を失つたものをいう。 五 足指の用を廃したものとは、第一の足指は末節骨の半分以上、その他の足指は遠位指節間関節以上を失つたもの又は中足指節関節若しくは近位指節間関節(第一の足指にあつては、指節間関節)に著しい運動障害を残すものをいう。 六 各等級の後遺障害に該当しない後遺障害であつて、各等級の後遺障害に相当するものは、当該等級の後遺障害とする。 |
条文では少し分かりにくいので、具体的に説明していきましょう。
後遺障害の「併合」に関する基本ルール
後遺障害の「併合」は、次の基本的なルールに基づいて認定が行わる場合と、特殊な扱いが行われるケースの両方があります。
まず、「併合」の基本的なルールは、以下の4つです。
- ① 第5級以上に該当する後遺障害が2つ以上ある場合は、最も重い等級のランクを3つアップさせる(条文のロ)
- ② 第8級以上に該当する後遺障害が2つ以上ある場合は、最も重い等級のランクを2つアップさせる(条文のハ)
- ③ 第13級以上に該当する後遺障害が2つ以上ある場合は、最も重い等級のランクを1つアップさせる(条文のニ)
- ④ 14級の後遺障害が2つ以上ある場合は、いくつ障害があっても14級(条文のホ)
但し、すべての後遺障害がこの等級通りに「併合」されるわけではありませんのでご注意ください。
適用されないケースについては、後述します。
以上の基本ルールが適用される具体的な例
複数の後遺障害がある場合、普通は第5級と第12級などと、違う等級の症状になることが多いと考えられます。
2つ以上の後遺障害があり、それぞれの等級が異なる時、認定の基本となるのは、重い方の等級になります。
上記「併合」ルールが適用されるケース
複数の後遺障害が、それぞれ第4級と第5級に該当する場合は、第4級から3段階上がり、第1級に認定されます(上記ルール①が適用)。
第3級と第8級の後遺障害が残った場合は、第3級が2段階上がり、第1級に認定されます(上記ルール②が適用)。
第5級と第10級の後遺障害が残った場合は、重い方の第5級が1段階上がり、第4級の後遺障害となります(上記ルール③が適用)。
「併合」ルールが適用されないケースは?
以上のようなルールに従って、原則的に複数の後遺障害がある場合の等級認定は行われますが、等級により、または症状によっては適用されないケースがあります。
例外的なケースについて、見ていきましょう。
「併合」ルールの制限
上記のルールに従って複数の後遺障害は等級分類されますが、併合によって第1級以上になってしまっても、第1級以上の補償基準はありませんので、認定される等級は第1級となります。
また一方で、後遺障害等級が第13級と第14級だった場合は、重い方の第13級に認定されるだけで、等級の繰り上がりはありません。
要介護の等級と後遺障害等級は異なる
ちなみに、これらの「併合」ルールは、介護の必要がない後遺障害等級にのみ適用され、要介護認定の第1級と第2級には適用されません。
要介護の後遺障害第1級と第2級の違いは「常に介護が必要」と「随時介護が必要」ですので、両方の症状が同時に存在することはあり得ないので、併合は出来ないのです。
第14級の取り扱いについて
基本ルールにも定められていますが、第14級の後遺障害は、いくつあっても第14級のままです(ルール④)。
最も症状が軽く、後遺障害認定においては最も事例が多い第14級ですが、併合14級と呼び名が変わるだけで、等級の繰り上げはありません。
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「併合」の結果、序列を乱す結果になる場合
「併合」のルールに従って計算された結果、そのまま等級を繰り上げると、その等級よりも軽い症状なのに、同じ等級になってしまうことがあります。
その場合は、直近上位、または直近下位の等級で認定されることになります。
組み合わせ等級が定められている場合
例えば、右上肢と左上肢に同じ後遺障害が残ってしまった場合は、両方の等級を「併合」するのではなく、等級表に定められている両上肢の障害の等級で認定されます。
派生する症状に関しては「併合」されない
例えば足に偽関節が残り、長さが短縮し、知覚異常や疼痛がある場合、それぞれの等級が「併合」されるのではなく、これらの症状は派生関係にあると見なされ、これらの症状のうち最も重い等級で認定されることになります。
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