遺産相続の期限。遅れた場合のデメリットと対処方法も詳しく解説

遺産相続期限

遺産相続では、相続放棄や遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)などの法的な手続きや、準確定申告、相続税の申告納税などの税金の手続きに期限があります。過ぎてしまうと重大な不利益が及ぶので、早めに手続きを済ませましょう。不動産登記などは期限はありませんが、やはり早くしないとリスクが高いです。遺産相続の手続きでわからないことがあったら、弁護士に相談しましょう。

遺産相続の手続きの簡単な流れ

遺産相続をするときに必要になる手続きの中には、期限があるものもたくさんあります。期限を過ぎると、その手続きができなくなったり、高額な税金を払ったりしなければならなくなるおそれがあります。

期限がある手続きを個別に検討する前に、まずはざっと相続の流れを確認しましょう。これを理解しておくと、それぞれの手続きがどこで登場するかがわかるので、把握しやすくなります。

  • 被相続人の死亡
  • 死亡届、火葬
  • 遺言書探し、検認
  • 相続人調査
  • 相続財産調査
  • 相続放棄、限定承認(熟慮期間3ヶ月)
  • 準確定申告(相続開始後4ヶ月)
  • 遺産分割協議開始
  • 遺産分割調停、審判
  • 遺留分侵害額請求(相続開始と遺留分侵害があったことを知ってから1年間)
  • 相続財産の分配にまつわる手続き、預貯金払い戻しなど
  • 不動産の相続登記(相続開始後3年)
  • 相続税の申告、納税(相続開始後10ヶ月)
  • 相続税の軽減措置の適用(相続税申告期限後3年)

多少前後する場面はありますが、基本的に上記の流れとなります。印をつけた手続きが期限のある手続きであり、()内が具体的な期間です。

遺産相続で期限のある手続き

それでは、遺産相続で期限のある手続きにはどのようなものがあり、期限を過ぎるとどうなってしまうのでしょうか?また、期限を過ぎないための対処方法も押さえておくと役立ちます。以下で、遺産分割の期限がある制度、および期限が気になる制度について、詳しく見ていきましょう。

相続放棄、限定承認の期限

相続放棄

遺産相続で期限がある手続きとしては、相続放棄と限定承認が代表的です。これらの手続きは、主に遺産の中に借金が含まれる場合に選択されます。

相続放棄とは

まず、相続放棄から見てみましょう。相続放棄は、プラスの資産もマイナスの負債も含めて、一切の遺産相続をしないことです。遺産の中に借金やその他の負債が含まれているとき、そのまま遺産を相続すると、借金も相続してしまうことになります。

相続に借金が含まれると借金も返済しなくてはならない

すると、相続人はその借金を返済しなければなりません。このように、遺産をそのまま相続することを単純承認と言いますが、単純承認が嫌なら、相続放棄によって一切の遺産相続を放棄するか、次に紹介する限定承認をしなければなりません。

また、相続放棄をすると、自分ははじめから相続人ではなかったことになるので、遺産分割協議に参加しなくても良くなります。他の相続人に相続分を集中させたいときなどにも相続放棄をすることで、自分の相続分を他の法定相続人に配分することができるので、有効です。

限定承認とは

次に、限定承認とはどのような制度なのかを見てみましょう。限定承認とは、相続財産の全体的な調査をして、その財産から債権者や受遺者に必要な支払をして、残りがあれば相続人が受けとる手続きです。

限定承認をすると、プラスの資産とマイナスの負債を差し引きして、あまりがあったら相続人が受けとることができますし、もし借金が上回っていたら借金を相続することはありません。そこで、やはり遺産の中に借金がある場合に効果的な制度です。

限定承認をする場合、相続人が全員共同で行う必要があります。

相続放棄、限定承認の期限(熟慮期間)は3ヶ月以内

このように、遺産の中に借金がある場合には、相続放棄や限定承認によって借金の相続を免れる必要性が高いですが、これらの手続きには期限があります。具体的には、「自分のために相続があったことを知ってから3ヶ月以内」とされています(民法915条)。この期間のことを、熟慮期間と言います。

熟慮期間の基本的な考え方

熟慮期間については、「自分のために相続があったことを知った」についての解釈が問題となります。まず、遺産相続が開始したこと(被相続人が死亡したこと)を知ったことが必要です。ただ、そうはいっても、遺産がまったくないと信じていたならば、相続放棄をする動機はありません。そこで、被相続人が死亡したとしても、相続財産があることを知らず、知らないことに正当な理由がある場合には、熟慮期間のカウントは開始されないと考えられています。

そこで、熟慮期間は、

  1. 遺産相続が開始したこと
  2. 何らかの相続財産があること

の2点を知ったときからカウントを開始する、と考えるとわかりやすいです。

過失があると、熟慮期間が進行してしまう

ただし、相続財産があることを知らなかったとしても、そのことに過失がある場合には、熟慮期間のカウントが開始されてしまうので、注意が必要です。

たとえば、1人暮らしの父親が亡くなったと知って、自宅を見に行ったとします。父親は、年金暮らしで貯金もなく、賃貸住宅に住んでいたので、何の遺産もないと考えました。あまり関心がなかったため、父親の自宅にはポストにたくさん郵便物が届いていたけれども、放置して戻ってきたとします。

ところが、実はポストに届いていたのは、大量の父親に対するサラ金からの請求書でした。このようなケースでは、子どもが「借金があると知らなかった」と言っても、通用しない可能性が高いです。

自分が相続人になっているなら、借金をはじめとした相続財産がないか、しっかりと調査して確認することが重要です。

相続放棄の熟慮期間を過ぎた場合

相続放棄、限定承認の検討・判断を行う熟慮期間を過ぎると、相続人は被相続人の相続財産を単純承認したものとみなされ、税務や債権に関する手続きはそのまま進行します。
実際に相続放棄の熟慮期間を過ぎてしまったAさんのケースをご紹介します。

Aさん(50代 男性)は、父親が亡くなりましたが、父親とは生前にほとんど関わったことがありませんでした。父親が亡くなったことを聞き、父親が住んでいた自宅に行きましたが、特に郵便受けをチェックしたり自宅のタンスなどを調べたりすることもなく、片付けをして、その場にあった時計などの物品を持ち帰り、そのまま帰宅しました。そのまま何もせず、半年が経ちました。すると突然、父親にお金を貸していたと言うサラ金から、「支払い通知書」が届いてしまいました。Aさんが驚いて「借金があるなんて知らない」と言うと、「あなたが知っているか知らないかは関係がない。払ってもらわないと困る」「たくさん督促状も送っていたのだから、当然知っているはずだ」と言われました。Aさんは、相続放棄をしようとしましたが、すでに期間が過ぎています。その後、他のサラ金などからもたくさん督促状が届き、合計で500万円もの負債があるとわかりました。

Aさんは、これらを全部支払わなければなりませんが、そんなお金はなかったので放置していると、サラ金からどんどん裁判を起こされて、裁判所で支払い命令が大量に出てしまいました。そして、サラ金はAさんの勤務先を突き止めて給与の差押えをしたり、Aさんの預貯金を差し押さえてしまったりしたので、Aさんは生活ができなくなりました。Aさんは、最終的に自己破産をせざるを得なくなり、すべてを失いました。

このように、Aさんは早めに相続放棄や限定承認をしなかったがために、人生が完全に狂ってしまいました。
思わぬ相続や借金問題に悩まされることのないよう、必ず期限内に申述の手続きをしましょう。

相続放棄・限定承認の申述の方法

それでは、具体的に相続放棄や限定承認をしたいときには、どのような手続きをとれば良いのでしょうか?

このとき、「相続放棄の申述」(相続放棄の場合)または「限定承認の申述」(限定承認の場合)という手続きが必要です。これらは両方とも、家庭裁判所において行いますが、利用する家庭裁判所は、被相続人の最終の住所地を管轄する家庭裁判所です。

具体的に申述をするときには、「相続放棄(限定承認)の申述書」という書類を作成して提出します。申述書については、家庭裁判所に書式があるため、それをダウンロードして利用しましょう。

このとき「相続を開始したことを知った日」を書く欄がありますが、ここで3ヶ月を過ぎていると、どうして3ヶ月以内に相続放棄をしなかったのかが問題になります。

被相続人の戸籍謄本や住民票除票、相続人の戸籍謄本などの書類を添付する必要があり、収入印紙800円と1000円くらいの郵便切手を提出する必要があります。このようにして、期限内に相続放棄や限定承認の申述をしたら、熟慮期間を過ぎる心配はしなくて良くなります。

熟慮期間を延ばしてもらう方法

相続のパターン

以上のように、借金を相続したくないなら熟慮期間内に相続放棄や限定承認をしなければなりませんが、この期間を延ばしてもらうことはできないのでしょうか?

相続放棄や限定承認をすべきか単純承認すべきかを判断するときには、遺産の中にどのような相続財産があるのかが重要なファクターとなりますが、実際にはどのような相続財産があるのかがすぐにはわからないことが多く、3ヶ月経っても迷ってしまうケースもあります。

このように、熟慮期間内に対応を決められない場合には、熟慮期間を延ばしてもらう方法があります。具体的には、家庭裁判所に対し、熟慮期間伸長の申立を行います。申立が認められたら、3ヶ月~半年くらいの期間、熟慮期間が延長されます。延長されている期間内に再度申立をして、さらに延長をしてもらうこともできます。

延長してもらえる場合

熟慮期間伸長の申立をして、期間延長が認められるのは、相続財産が複雑であったり、相続人が多数で複雑な場合であったり、相続人が海外在住で手続きをすすめにくかったりなど、何らかの事情がある場合です。

また、熟慮期間中に再度の延長はできますが、いったん熟慮期間が経過してしまったら、その後に熟慮期間伸長の申立をしても、延ばしてもらうことはできません。延長をしてほしかったら、必ず3ヶ月の熟慮期間内に申立をしなければならないので、注意しましょう。

熟慮期間伸長の申立をする方法

熟慮期間伸長の申立をするときにも、被相続人の最終の住所地を管轄する家庭裁判所で手続きをします。申立書に必要事項を記載して、被相続人の戸籍謄本、住民票除票、相続人の戸籍謄本などの必要書類を添えて提出します。費用は、収入印紙800円と連絡用の郵便切手です。

熟慮期間伸長の申立の注意点

熟慮期間伸長の申立をするとき、一点注意点があります。それは、「必ずしも認められるとは限らない」ことです。伸長の申立をして、「延長してもらえるから大丈夫」とたかをくくっていると、実際には延長が認められず、相続放棄(限定承認)ができなくなるおそれがあります。そこで、よほどのことがない限り、熟慮期間伸長の申立には頼らず、熟慮期間内に相続放棄または限定承認をしてしまうことをおすすめします。

相続放棄や限定承認の期限が心配なら弁護士に相談を

法律相談

以上のように、借金を相続しないためには相続放棄や限定承認の申述をしなければなりませんが、自分で対応していると、知らない間に熟慮期間を過ぎてしまうおそれがありますし、熟慮期間伸長の申立をしたから延長されると思い込んでいたら、延長が認められずに熟慮期間を過ぎてしまうおそれもあります。

そうなったら、自分自身の預貯金や給料から借金支払いをしなければなりませんし、支払いができなければ裁判をされて差押をされてしまうおそれがあります。

リスクを避けるためには、早い段階から弁護士に相談しておくべき

弁護士であれば、必ず熟慮期間に間に合うようにアドバイスしてくれますし、相続放棄や限定承認の申述自体を依頼することもできます。
特に限定承認では、申述後も相続財産管理人による清算が行われるので、弁護士に依頼して相続財産管理人に就任してもらったら、その後の手続きがスムーズになるのでおすすめです。

相続放棄や限定承認の期限が心配なら、まずは一度、相続問題に強い弁護士に相談しましょう。

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遺産相続

準確定申告の期限

確定申告

相続手続きで期限が必要な手続きの2つ目は、準確定申告です。以下で、詳しく見てみましょう。

準確定申告とは

準確定申告とは、被相続人が確定申告をしなければならない義務を負っていた場合に、相続人らが代わって確定申告を行うことです。典型的なのは、被相続人が個人事業を営んでいたケースです。この場合、被相続人は毎年確定申告を行っています。

一事業年度分を、翌年の2月16日~3月15日の申告期限内に申告書を提出する方法で申告を行うのが普段の方法です。しかし、年度途中で本人が死亡したら、誰も確定申告する人がいなくなります。そうであっても、年度途中までの売上げや経費は発生しているのですから、確定申告して所得税の支払をしなければなりません。

そこで必要になるのが、準確定申告です。

死亡した本人が自分で確定申告することができないので、相続人が代わって行います

準確定申告は、被相続人が確定申告すべき場合に行うものなので、被相続人が事業者以外の場合にも必要になるケースはあります。

たとえば、被相続人が給与所得者でも2000万円を超える収入があったら準確定申告が必要ですし、医療費の控除を受けたい場合などにも準確定申告しなければなりません。

準確定申告の期限は4ヶ月以内

相続人が準確定申告をするとき、期限があるので注意が必要です。

具体的には、「相続開始後」4ヶ月以内となります

この期限については、相続放棄の熟慮期間のようなややこしい解釈はなく、はっきり「死亡後(死亡日の翌日から数えて)4ヶ月」です。そこで、「死亡したことを知らなかった」などと言っても基本的に通用しません。

また、準確定申告をすると、赤字でない限り、所得税も発生しますが、そうなったら所得税の支払いもしなければなりません。準確定申告にもとづく所得税の納税期限も、申告期限と同様4ヶ月です。申告はしたけれどもお金がない、という場合にも、やはり期限切れになってしまいます。

準確定申告の期限を過ぎた場合

準確定申告の期限を過ぎると、延滞税・無申告加算税など追徴課税を受けるおそれがあります。
今度は、期限を過ぎてしまったBさん(40代 男性)のケースを見てみましょう。

Bさんの父親は雑貨屋を経営していました。Bさん自身はサラリーマンで、自営業の税金のことはよくわかりません。相続が起こったので、とりあえず兄弟と遺産分けをして、そのまま普段通りに生活をしていたのですが、ある日突然、税務署から、納税の連絡書が送られてきました。Bさんは、「相続税が発生しないのにどうして税金の支払い督促されるのか?」と疑問に思いましたが、税務署に尋ねると「被相続人が事業を営んでいたので、相続人が準確定申告をしなければなりません」と言われました。Bさんは、確定申告のやり方がわからないため、「後でいいか」と思って放置していたら、今度は税務署から「差し押さえ予告通知」が届いてしまいました。Bさんは驚いて税理士に相談に行き、急いで準確定申告の手続きをしたのですが、既に期限が過ぎていたので、無申告加算税や延滞税を加算されてしまいました。その税率は、20%や14.6%という高金利だったので、かなりの出費になりました。

このように、税金を滞納すると税金が高額になる上、差押を受けるおそれもあるので、デメリットやリスクが高すぎます。相続人が事業を営んでいたのであれば、忘れずに、早めに準確定申告の手続きをしましょう。

準確定申告の方法

準確定申告をするときには、被相続人の死亡時の納税先の税務署において、準確定申告書を作成して提出します。準確定申告書は、相続人が連名で署名しますが、他の相続人がいることを記載した上で、それぞれの相続人が別々に申告することも可能です。また、準確定申告をするときには、各相続人の氏名や住所、被相続人との続柄などの事項を記載した付表という書類を作成して提出する必要もあります。

そして、申告によって定まった所得税を、金融機関や税務署などにおいて支払ったら納税が完了します。

遺留分侵害額請求の期限

相続人

相続で期限がある手続きとしては、遺留分侵害額請求が重要ですので、以下で詳しく見てみましょう。

遺留分とは

遺留分とは、法定相続人に認められる最低限の遺産の取得分のことです。遺産相続が起こっても、すべての場合で遺留分が問題になるわけではありません。これは、遺言や贈与があったときにクローズアップされる問題です。

一般的に、法定相続人であれば、法定相続分が認められるので、割合に応じて遺産をもらうことができるはずです。しかし、遺言において、すべての遺産を愛人に遺贈するとか、すべての遺産を特定の相続人に相続させる、などと書かれていると、もともと相続人であったものも、遺産を受けとることができなくなってしまいます。

このようなことは、相続人の期待を裏切るものであり、また、被相続人に近しいものに遺産を取得させようとする法律の考え方とも合わないので、被相続人と一定の関係にある相続人には、遺留分が認められるのです。

遺留分が認められる相続人は、兄弟姉妹以外の法定相続人です。遺留分を侵害された法定相続人が、侵害した分を含む多くの財産を受け取った受遺者・受贈者に対して、遺留分に相当する金銭を請求することを、法律的に「遺留分侵害額請求」といいます。

遺留分の請求期限は相続開始から1年、または相続開始から10年

それでは、遺留分侵害額の請求期限はいつまでとなっているのでしょうか?これについては、

  1. 遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間
  2. 相続開始の時から10年

と規定されています(民法1048条)。

これらの解釈は、どのようになるのでしょうか?①と②に分けて、見てみましょう。

まずは、1の期間です。これは、「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から」ですから、

  • 被相続人が死亡したこと
  • 遺言や死因贈与、生前贈与があったこと

の2つの事実を知ったときから計算すると良いです。そのときから1年が経過すると、遺留分侵害額請求ができなくなります。

次に、2の期間を見てみましょう。これは、「相続開始の時から」ですから、単純に被相続人が死亡したときから10年が経過すると、遺留分侵害額請求ができなくなります

こちらのケースでは、相続人が被相続人の死亡や遺言の存在を知っているかどうかは問題になりません。たとえ、被相続人が死亡したことや、自分が相続人になっていることを知らなくても、死亡後10年が経過したら遺留分の請求はできなくなってしまうのです。これは、いつまでも遺留分の請求ができることにすると、法律関係が安定しないため、10年も経過したら権利を制限しようという目的によります。

遺留分侵害額請求の請求期限を過ぎた場合

遺留分侵害額請求の請求期限を過ぎた場合、すなわち相続人に認められた遺留分侵害額請求権の期限切れということになるので、当然ですが、本来自分が受け取れるはずの遺留分を請求することができなくなります。
今度は、期限を過ぎてしまったCさんのケース(50代 女性)をご紹介します。

Cさんは、先日母親が亡くなったのですが、母親は内縁の夫と暮らしていました。内縁の夫には遺産相続権がないので、Cさんは遺産を受け取れると思っていたのですが、実は母親は、内縁の夫にすべての遺産を遺贈するという遺言書を残していたのです。Cさんは驚きショックを受けましたが、そのうち内縁の夫と話し合いをして、遺産を渡してもらおうと考えながら、日にちが過ぎてしまいました。気づけば1年半以上が経過したため、「そろそろ言わなきゃ」と思い、内縁の夫に連絡を入れました。すると、相手からは「遺言は有効だし、すでに遺留分を請求できる期間が過ぎているから、遺産は返せない」と言われてしまいました。Cさんは、何のことかわからず弁護士に相談に行くと、もともとCさんには遺留分侵害額請求権があったけれども、母親の死亡後1年以内に遺留分請求をしなかったので、もはや請求できなくなっていると言われました。Cさんは大変驚きましたが、もはやどうしようもないので、泣き寝入りするしかありませんでした。内縁の夫は、Cさんが子どもの頃に過ごした大切な実家の土地建物まで相続して、母親の遺産を使って悠々自適に過ごしているので、Cさんは悔しくてたまらない毎日を送っています。

このように、遺留分侵害額請求の期限を過ぎてしまったら、遺産を一切返してもらうことができなくなります。この件でも、もしCさんが住んでいる家が母親名義だったなら、内縁の夫から家を追い出されてしまうかもしれないのです。そのようなことになったら、大変な不利益が及ぶので、遺留分は必ず請求期限内に行使すべきです。

遺留分侵害額請求の方法

実際に遺留分侵害額請求をしたいときにはどのような手続きをとれば良いのか、見てみましょう。
遺留分侵害額請求の方法について、法律上の決まりはありませんから、任意の方法で請求することができます。口頭で「遺留分を返して下さい」と言っても、一応有効ということです。

しかし、実際にはこのような方法はすべきではありません。
遺留分には期限があるため、期限内に本当に請求が行われたかどうかが、後日に重要な問題になることがあります。
もし、口頭で「遺留分を返してほしい」と告げただけでは、期限後に相手が「そんなことは聞いていない」と言い出した場合、期限内に遺留分侵害額請求した証拠を確保できません。
口頭での催促を相手が認めなければ、遺留分侵害額請求の期限が切れたことになり、請求が封じられてしまうおそれがあります。

内容証明郵便で遺留分請求通知を送ろう

そこで、遺留分侵害額請求をするときには、必ず確実な証拠が残る方法でしなければなりません。
具体的には、内容証明郵便によって、相手に請求通知書を送ります。内容証明郵便を使うと、確定日付が入りますし、郵便局と自分の手元に、相手に送ったのと全く同じ写しが残るので、確実に期限内に遺留分侵害額請求をしたことが明らかになります。

配達証明をつけよう

また、このとき「配達証明」というサービスを利用することをお勧めします。配達証明とは、相手にいつ郵便が届いたのかを郵便局が証明してくれるサービスです。内容証明郵便が相手に届いたら、郵便局から葉書が送られてきて、そこには「〇〇年〇〇月〇〇日に送達されました」などと記載してあります。これをつけておくと、後になって相手から「内容証明郵便を受けとっていない」と言われるおそれがなくなります。

配達証明は、オプションサービスになっていて、内容証明郵便で発送をしても当然についてくるものではなく、自分で「配達証明をつけて下さい」と言わないといけないので、覚えておきましょう(郵便局員から「配達証明つけますか?」と聞いてくれることはあります)。

このようにして遺留分侵害額請求通知書さえ送ったら、期限内に請求をしたことになるため、期限の徒過を心配する必要はなくなり、その後話合いや調停、訴訟などによって具体的な遺留分の返還方法を決定することになります。

遺留分侵害額請求の期限を過ぎそうな場合の対処方法

それでは、遺留分の請求期限を過ぎそうな場合、どのように対応したら良いのでしょうか?

この場合、とにかく早めに内容証明郵便で遺留分請求通知書を作成して、相手に対して発送すべきです。通知書には、以下のような内容を記載します。

遺留分侵害額請求通知書の文例

「私は、被相続人○○○○(〇〇年〇月〇日死亡)の子どもで、同人の法定相続人ですあり、〇分の〇の遺留分を有しています。ところが、被相続人は貴殿に対し、すべての財産を相続させる旨の遺言書を残しています。この遺言書は私の遺留分を侵害しますので、私は本書をもって、貴殿に対し、遺留分の侵害額請求をいたします。」

すぐに作成できる内容なので、とにかくこれを作って発送してしまえば良いのです。

口頭でも有効だから、期限が迫っているならそれでも良いだろう、などと考えると、後日遺留分請求を封じられる可能性が高いので、おすすめではありません。

期限があと1週間などの状態であっても、弁護士に依頼したら早急に遺留分侵害額請求通知書の作成と発送をしてくれるので、有効に遺留分侵害額請求権を守ることができます。期限が間近に迫っていて自分では対処が難しい場合には、すぐに弁護士に相談に行くことをおすすめします。

遺留分の問題で悩んだら弁護士に相談しましょう

以上のように、相続の場面では、準確定申告や遺留分の期限にも注意が必要です。特に、遺留分侵害額請求は、比較的多くのケースで必要になる手続きです。期限内に明確に権利行使をしておかないと、法定相続人であるにもかかわらず遺産を受けとることができなくなって、納得できない思いを抱えることになってしまいます。

遺留分侵害額請求を確実に行うには、内容証明郵便による請求通知が必要

ここで、内容が間違っていたり、やり方を間違ったりすると、有効な遺留分侵害額請求ができていないと言われて、後に遺産を返してもらえなくなるおそれもあります。また、遺留分侵害額請求の期限が過ぎそうな場合には、なおさら自己判断で対応するのは危険です。そこで、遺留分の問題で悩んだら、弁護士に相談することをお勧めします。

弁護士に依頼したら、確実に期限内に遺留分の請求をしてくれますし、その後の相手との交渉にも対応してくれます。話合いでは解決できない場合、遺留分侵害額請求調停や訴訟などの手続きを使って確実に遺留分を取り戻してくれるので、安心です。自分に遺留分があるのではないか?と思うなら、早めの段階で一度相続問題に強い弁護士に相談しておきましょう。

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遺産相続

相続税申告の期限

相続で期限がある手続きとしては、相続税の申告が重要です。以下で、見てみましょう。

相続税が発生するケース

遺産相続をした場合でも、必ずしも相続税が発生するとは限りません。相続税が発生するのはどのようなケースなのか、まずは確認しておきましょう。

相続税は、遺産の総評価額が「相続税の基礎控除」を超える場合に発生します。基礎控除とは、基本的に認められる税金控除の金額です。そして相続税の場合、基礎控除は以下の通りの金額です。

3000万円+法定相続人数×600万円

そこで、相続人が2人なら3000万円+600万円×2人=4200万円、相続人が3人なら3000万円+600万円×3人=4800万円までなら、相続税が課税されません。それを超える遺産があると、相続税の申告と納税が必要になります。

相続税の申告・納税の期限は、相続開始後10ヶ月

相続税の申告と納税には、期限があるので注意が必要です。

具体的には、相続開始後10ヶ月となっています

この場合も、準確定申告と同様、「相続人が知っていたかどうか」などは問題になりません。相続開始後10ヶ月できっぱり期限が来てしまうので、注意が必要です。

また、10ヶ月は、申告だけの期間ではなく、納税期間でもあります。そこで、10ヶ月以内に相続税の申告をして、支払いもしなければならないのです。

相続税は現金預金で支払いをするので、「お金がない」と言っても支払いを免れることや待ってもらうことはできません。
たとえば、後にも詳しく説明をしますが、遺産のほとんどが不動産などのケースでは、手元に相続税を支払うお金がないこともあるので、注意が必要です。遺産相続をするときには、相続税対策のためなどで現金を不動産に換えることもよくありますが、全部を換金性の低い財産に換えると相続税の支払いが大変になるので、相続税支払いに足りる程度は、流動資産の形でもっておくべきです。

相続税申告期限に遺産分割が間に合わない場合

相続税の支払期限は相続開始後10ヶ月ですが、相続税はそれぞれの相続人が相続した分に応じて支払うことが普通です。ところが、遺産分割協議が長びくことも多く、期限内に終わらないことが多いです。このように、相続税の申告期限までに遺産分割が間に合わない場合、相続税の申告と納税を待ってもらうことができるのでしょうか?

実は、この場合でも、相続税の申告と納税の期間は、変わらず相続開始後10ヶ月以内です。申告の際には、法定相続分に応じて相続税を計算し、納税をします。ただ、「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類に必要事項を記入して申告書と一緒に提出したら、その後3年以内に遺産分割協議ができた場合、遺産分割協議の内容通りに相続税の配分を変えてもらうことができます。そのためには、相続税の更正請求という手続きを利用します。

相続税の更正請求をすると、払いすぎた人は払いすぎの分の相続税を還付してもらうことができますし、不足している人は、追加で支払いをすることになります。

遺産分割協議が整っていないからと思って、10ヶ月以内に相続税の申告と納税をしないで放置していたら、無申告扱いになってしまうので、十分注意しましょう。

相続税申告期限を過ぎた場合

相続税の申告・納税の期限を超えたまま放置すると、最悪は相続財産の差し押さえに合う可能性があります。
以下で、Dさん(60代男性)のケースを見てみましょう。

Dさんは、定年退職をして年金生活を送っていますが、高齢の母親が亡くなりました。母親は資産家だったため、大量の不動産を相続しました。相続人は、Dさんを含めて兄弟3人だったので、不動産を分けようとしましたが、あまりにたくさんあるのと、誰がどの不動産をもらうかで意見が合わず、なかなか遺産分けが進みませんでした。遺産分割ができないので相続税の支払いもできないまま10ヶ月の期間が過ぎました。すると、ある日突然税務署から、相続税の申告の督促書が届きました。Dさんは、税務署に対し、「遺産分割ができていないから申告できません」、と言うと、税務署は、「それでも申告と納税が必要です」、と答えました。本当なら、期限内に、「申告期限後3年以内の分割見込書」をつけて、申告をしなければならなかったと言うのです。Dさんが「わけがわからない」と思って放置していると、今度は税務署から、財産差押の通知書が届き、本当に遺産の不動産を差し押さえられてしまいました。

Dさんたち兄弟は驚いて、早急に相続税の申告をしましたが、今度は手元に現金がないため、支払いができませんでした。必死でお金を工面してようやく相続税の支払いをしましたが、高額な無申告加算税と延滞税を課税されてしまいました。

無申告加算税は、基本的に納税額が50万円までなら15%、50万円を超えると20%となります。延滞税は申告をしても支払いをせずしなかったときに発生するもので、その金額は、期限日から2ヶ月まえは年利7.3%ですが、それを超えると年利14.6%になります。Dさんのケースでは、無申告加算税が20%、延滞税は14.6%となりました。

このように、相続税を延滞すると、大変な不利益が及ぶので、必ず期限内に申告と納税を済ませましょう。

相続税の軽減措置適用の期限

遺産相続に関連する期限としては、相続税の軽減措置に関するものもあるので、以下で見てみましょう。

相続税の軽減措置とは

相続税は、基本的に相続税の基礎控除を超えると発生するものですが、それ以外にもさまざまな控除や軽減などの制度が設けられています。

配偶者控除

たとえば、配偶者の場合、配偶者が相続した遺産については、配偶者の法定相続分または1億6000万円までの相続分について、相続税が不要になります。これを、相続税の配偶者控除と言います。

小規模宅地の特例

もう1つの代表的な相続税の軽減措置として、小規模宅地の特例があります。これは、被相続人が事業用や居住用に使っていた宅地を相続する際、事業を継続したり住み続けたりなどの一定の要件を満たしたら、330平方メートルの部分まで最大80%までの相続税の評価源をしてもらえるという制度です。

そして、これらの特例を受けるためには、原則として相続税の申告納税期限内に、相続税の申告と納税を行う必要があります。すなわち、相続開始後10ヶ月以内に手続きをしなければならない、ということです。そこで、相続税の申告期限までに遺産分割協議が間に合わない場合には、配偶者控除や小規模宅地の特例による減額を受けられないことになってしまいそうです。

期限後に遺産分割する場合の対処方法

ただ、相続開始後10ヶ月以内に法定相続分に応じた内容の相続税の申告書を提出し、その際、「申告期限後3年以内の分割見込書」を作成して提出しておくと、後に遺産分割協議を成立させて相続税の更正請求をしたとき、控除や軽減制度の適用を受けることができます。

その更生請求は、相続税の申告納税期限から3年以内に行う必要があります。

相続開始後から数えると、相続税申告納税の期間が10ヶ月、その後3年間なので、3年10ヶ月以内に遺産分割協議を成立させて相続税の更正請求をしたらよい、ということになります。その場合の更正請求は、遺産分割が成立してから4ヶ月以内に行う必要があります。

この期間内にもやむを得ない事情によってどうしても遺産分割協議が整わない場合には、相続開始後3年10ヶ月から数えて2ヶ月以内に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出し、遺産分割に関する判決の確定日などの翌日から数えて4か月以内に遺産分割されたら、特例の適用を受けることができる可能性があります。この場合、遺産分割の日から4ヶ月以内に相続税の更正請求をしなければなりません。

相続税の支払期限内に支払えない場合の対処方法

相続税の支払期限

相続税が発生した場合、支払期限についても注意が必要です。まず、相続税は相続開始後10ヶ月以内に申告と納税をする必要があります。これは、遺産分割協議が期限内に成立しておらず、3年以内の分割見込書を提出する場合でも同じです。いったんは必ず納税をしなければなりません。

支払をしないと、延滞税を加算されますし、財産を差し押さえられてしまうおそれもあります。このとき、差押の対象になるのは、遺産だけには限定されません。相続人自身の財産も差押の対象になります。たとえば、相続人自身の家や土地、預貯金や生命保険などが差し押さえられて、相続税支払いに充てられる可能性があるということです。そのようなことになったら大変なので、相続税は必ず期限内に支払いましょう。

支払いができない場合の対処方法

ただ、遺産の大部分が土地や建物のケースなど、どうしても10ヶ月以内に相続税の全額を支払うのが難しいケースがあります。この場合、延納や物納という方法を利用することができます。

延納とは

延納とは、相続税の支払期限を延ばしてもらい、分割払いをする方法です。ただ、どのような場合でも利用できるわけではなく、次の要件を満たす必要があります。

  • 相続税の金額が10万円を超えている
  • 金銭での納税が困難な金額である
  • 延納申請書及び担保提供関係書類期限内に提出する
  • 相当な担保を提供する(ただし、延納税額が100万円以下であり、延納の期間が3年以下である場合には不要)

また、延納をするときには、高額な利子税が課税されることにも注意が必要です。ケースにもよりますが、1.2%~6.0%までの利子がかかるので、総支払額としてはかなり大きくなってしまいます。また、延納が認められるのは、どうしても現金で支払いが出来ない場合のみです。現金があるけれどもゆっくり支払いたいから延納をしたい、と言うことは認められません。

物納とは

次に、物納をご紹介します。物納とは、相続税をどうしても支払えない事情がある場合に、物をもって相続税の支払に充てる方法です。利用するためには、次の要件を満たす必要があります。

  • 延納をしても、金銭で納税することが困難
  • 物納の申請をした財産が物納できる財産であり、物納制度で定まる順位が守られている
  • 物納に適格な財産である
  • 物納申請書と物納手続関係書類を期限内に提出した

そして、物納できる財産は種類が限られている上、順位があります。

  • 第1順位の財産 不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等
  • 第2順位の財産 非上場株式等
  • 第3順位の財産 動産

このようなことから、不動産が物納の対象として利用されることが多いです。

ただ、物納する場合、評価額はそれぞれの資産の相続税評価額になるため、注意が必要です。たとえば、土地の場合、相続税評価額は市場価格の約8割ですし、建物は市場価格の約7割です。そこで、物納すると、計算としては損になります。どうしても売却できない事情があったり、どうしても期限に間に合わなかったりする場合は仕方がありませんが、できるだけ自力で市場価格で売却をした上で、売却金によって相続税を支払う方が得になります。

以上のように、相続税を支払う現金を用意していないと、さまざまな不利益を受けるおそれが高いです。遺産相続が起こる予定があるなら、手元に資金を残しておきましょう。

遺産分割の期限

以上が期限のある手続きについての説明ですが、相続の際に「遺産分割協議に期限はないの?」という質問がよくあるので、お答えします。

遺産分割に期限はない

まず、遺産分割に期限はありません。遺産分割協議でも調停でも審判でも同じです。ただ、相続税の項目でも説明をしたとおり、相続税の申告期限内に遺産分割協議ができない場合、いったん法定相続分に応じて相続税を支払わなければならないので、注意が必要です。

遺産分割を進めず放置するデメリット

遺産分割に期限がないからといって、いつまでも遺産分割協議をせずに放置しておくと、様々なデメリットがあります。

いつまでも相続の手続きができず、財産が放置される

この場合、いくつかのデメリットやリスクがあります。まず、いつまでも具体的な遺産の相続ができません。不動産の名義変更や預貯金の払い戻し、株券の名義変更など、すべて遺産分割協議書が必要な手続きです。遺産分割協議書は、遺産分割協議が成立したときに作成するものですから、遺産分割協議が成立しないと、遺産分割協議書もありません。

そこで、遺産分割協議をしないで放置していると、不動産の名義変更も預貯金の払い戻しも株券の名義変更も、何の手続きもできないままになります。被相続人の遺産は、既に亡くなっている被相続人名義で放置されて、誰も使えない状態になるのです。このようなことは非常に大きな損失です。

コストがかかり続ける

この問題は、不動産の場合に特に顕著です。名義変更をしないと、せっかく不動産があっても活用することはできません。名義が被相続人である以上、売却をしたり抵当権を設定したりすることはできませんし、誰が相続するのか決まっていなかったら賃貸に出すことも困難だからです。

ただ、名義変更をしなくても、コストはかかります。

毎年の固定資産税や都市計画税は発生しますし、管理もしなければなりません。管理不行き届きで人に迷惑をかけたら、たとえ名義が被相続人であっても、実質的な所有者である相続人らが責任を負うためです。

2度目の相続が起こって権利関係が複雑になる

また、遺産分割協議をせずに放置していると、今の相続人が亡くなって、2度目の相続が起こる可能性があります。そうなると、相続関係が余計にややこしくなり、一体誰が相続人になるのか非常に決めにくくなります。

相続財産が失われることもある

さらに、時間の経過により、相続財産が失われてしまうこともあります。たとえば、骨董品や貴金属などの動産や現金がある場合、早期に遺産分割協議をして分けてしまったら明確ですが、何十年も放置していると「そういえばあの宝石類はどこに行ったんだろう?」ということになります。現金も同じです。なくなってしまったら、後から「あったはずだ」と言っても取り返しがつかないことが多いです。

このように、遺産分割協議をせずに放置していると、さまざまな問題があるので、なるべく早期に話し合いをして遺産分割協議を成立させましょう。

不動産の相続登記の期限

次に、期限が問題になる相続手続きとして、不動産相続登記があります。
不動産相続登記とは、不動産を相続したときに、被相続人から相続人へと登記名義を移すことです。一般的に「名義変更」とか「名義書換」と言われることも多いです。

不動産相続登記の期限は相続開始から3年以内

相続した不動産の相続登記は、相続の開始を知ってから3年以内に行う必要があります。

相続登記について、以前は特別な期限は存在しませんでした。不動産登記法の改正により2024年4月1日より義務化されました。

以前は期限がなかった影響から、実際には既に何十年も前に亡くなった人の名義のまま放置してある不動産がたくさん存在しています。
そうした未登記不動産も、相続登記義務化の対象となっており、改正法の施工された2024年4月1日を基点に3年(2027年4月1日)までの期間が履行期間とされています。

不動産の相続登記を行わず放置するデメリット

不動産相続登記の義務化にともない、相続した不動産をいつまでも登記をせずに放置した場合のリスクは上がっています。
発生しうるデメリットをそれぞれ見ていきましょう。

10万円以下の過料が発生する

正当な理由なく、相続登記を行わなかった場合、10万円以下の過料の支払いが命じられます。

法律の施工からまだ3年間を経過していないため、実際の過料の適用がどうなるかは不透明ですが、今後は未登記のまま放置するコストが明確に発生していくことになります。

なお、命じられるのは行政法上の義務違反に対する過料であり、刑事訴訟法上の罰則として請求される罰金ではないため、前科は付きません。

共同相続人が勝手に相続登記をする

共同相続人がいる場合、不動産を勝手に共有名義に登記されるおそれがあります。
不動産は、遺産分割協議が成立するまでの間、相続人の共有状態になります。このときの持分割合は、法定相続分に従います。
そこで、共有持分に応じた相続登記であれば、遺産分割協議書がなくてもできるのです。

共有持分の相続登記で第三者に財産を売却されてしまうおそれ

もし、自分が相続人になっているのに相続登記をせずに放置していたら、他の共同相続人は、法定相続分に従った共有登記をしてしまう可能性があります。
そうなったら、第三者から見ると、不動産は相続人全員の共有だと思いますので、相続人のうちの1人が、勝手に自分の持分(のように見える部分)を第三者に売却してしまうおそれがあります。

そうなると、買い主が先に不動産の所有権移転登記を備えてしまったら、相続人は買い主に対し、売買の無効を主張できなくなってしまうおそれが高いです。

つまり、せっかく遺産分割協議によって自分が不動産を取得することにしても、早めに登記をしなかったがために、勝手に不動産を売却されて、自分の権利を主張することも出来なくなってしまうのです。このようなことは、大変なデメリットです。

2度目の相続が起こり、手続きが複雑になる

また、不動産の相続登記をしないまま、2度目の相続が起こると状況がさらに複雑になります。この場合、不動産の所有者は、もともとの被相続人(=不動産の名義人)の孫です。

このとき、孫が不動産の名義変更をするためには、被相続人から父親への名義変更をしてその後あらためて孫への相続登記をしなければなりません。

被相続人からいきなり孫への相続登記はできないのです。すると、非常に膨大な書類や資料が必要になります。
また、父親の代で行われた遺産分割協議書が必要になりますが、その書類が手元になかったら、孫はそもそも父親が権利者だったことを証明できず、不動産を全部相続することはできなくなってしまうおそれが高いです。

このように、不動産の相続登記をせずに放置していると、多くの問題が起こります。
遺産分割協議を済ませて自分が権利者になったなら、なるべく速やかに法務局に行って相続登記をすることをおすすめします。

まとめ

以上のように、相続の際、期限がある手続きはたくさんあります。それぞれとても重要な権利に関するものであり、期限を過ぎると多大な不利益があります。
相続放棄ができなくなったら借金を相続しなければなりませんし、遺留分侵害額請求の期限を過ぎたら大切な遺産相続権が失われてしまいます。
さらに、準確定申告の所得税や相続税などの税金の申告や納税が遅れると、多額の延滞税などが課税されるおそれがあるので重大な不利益を受けます。
特別な期限の定めのない遺産分割協議や期限が3年と長い不動産登記も放置するといろいろなデメリットがあるため、やはりなるべく早く手続きをすべきです。

遺産相続手続きを早めに、確実に進めるなら弁護士に相談を

自分ではスピーディーに手続きを進められないときには、弁護士に相談することがおすすめです。弁護士であれば、ケースごとに適切な方法を判断してくれて、期限に遅れないように確実に手続きをしてくれるから、安心です。相続税などの税金問題については、弁護士ではなく税理士に相談しましょう。

相続問題に直面して困惑している方がいたら、悩むより先に、一度相続問題に強い弁護士に相談すると良いです。今は、多くの弁護士が遺産相続問題についての無料相談を実施しているので、ネットのホームページを検索して探すと便利です。

遺産相続問題に力を入れている事務所を見繕って、電話やメールで連絡を入れると、簡単に相談の申込ができるので、構える必要はありません。相続問題で疑問があるなら、まずは弁護士の無料相談を受けてみましょう。

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