後遺障害14級・主婦が認定を受けた場合の逸失利益はどうなる?

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専業主婦でももらえる!後遺障害14級の逸失利益

交通事故で後遺障害を負うと、通常は労働能力が低下し、本来なら得られたはずの収入が減少します。これを「逸失利益」と言いますが、「逸失利益」は、後遺障害慰謝料などと同じく加害者に損害賠償してもらうことが可能です。

そこで問題となるのは、専業主婦が交通事故で後遺障害を負った場合です。専業主婦には、労働の対価として目に見える収入があるわけではありません。専業主婦には、「逸失利益」を請求することはできないのでしょうか?

その答えはNOです。

専業主婦であっても、後遺障害の認定を受ければ逸失利益を請求できます。なぜならば専業主婦は、家事従事者として金銭的に評価されうる働きをしており、後遺障害によって今後の家事に支障が出るのであれば、それは本来得られたはずの利益が減少したのと同じことだからです。

本記事では、専業主婦が後遺障害14級の認定を受けた場合について、

  • 逸失利益の計算方法
  • 後遺障害部分の示談金総額(※後遺障害14級9号のケース)
  • 後遺障害の認定率

に分けて解説します。

逸失利益の計算方法~後遺障害14級の専業主婦の場合

後遺障害14級の専業主婦は、どのように逸失利益を計算すればよいでしょうか?

後遺障害14級の逸失利益計算式

弁護士が後遺障害14級の逸失利益を出す際には、下記の計算式を用います。

基礎収入✕労働能力喪失率✕労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数=逸失利益

これは後遺障害14級以外の他の等級であっても同じです。

基礎収入とは事故前に得ていた収入

基礎収入とは、事故前に得ていた収入を指します。

専業主婦には事故前に得ていた収入はありませんので、代わりに、厚生労働省が行った「賃金構造基本統計調査」(賃金センサス)に基づく全年齢女性の平均賃金を基礎収入とします。

なお、平成29年度の同調査では、全年齢女性の平均賃金は3,778,200円でした。

労働能力喪失率とは低下した労働能力の割合

労働能力喪失率とは、後遺障害を負ったことにより低下した労働能力の割合を、パーセンテージで表したものです。

例えば、後遺障害により寝たきりになったなど重度の症状がある場合には、労働はできませんので、労働能力喪失率は100%となります。

労働能力喪失率は、後遺障害等級別に一定の目安があり、後遺障害14級の場合には5%とされています。

労働能力喪失期間とは逸失利益の発生年数

労働能力喪失期間とは、後遺障害によって労働能力を喪失した期間を指します。逸失利益の発生する年数、と考えるとわかりやすいかもしれません。

労働能力喪失期間は、原則的には症状固定日から67歳までとしますが、むちうちなどで後遺障害14級9号「局部に神経症状を残すもの」と認定されている場合には、3年〜5年とする裁判例が多いです。弁護士が労働能力喪失期間を出す際には、通常5年で計算します。

ライプニッツ係数とは中間利息控除の指数

交通事故の後遺障害におけるライプニッツ係数とは、労働能力喪失期間から中間利息を控除した指数のことです。

逸失利益の賠償金は、将来発生するぶんまでまとめて支払われます。被害者は一足早く受け取った賠償金を運用し増やすこともできますので、利息を控除する必要があり、ライプニッツ係数はそのために用いられます。

交通事故の損害賠償実務では、ライプニッツ係数を算出する際、運用益を年利5%とします。これは民法の法定利率と同じです。例えば、労働能力喪失期間が5年であれば、年利5%を控除するためのライプニッツ係数は4.3295となります。

注意すべきは、2020年4月1日以降は、民法改正により法定利率が年利3%となるため、用いるライプニッツ係数も、これまでの年利5%ではなく、年利3%として計算した数値になるという点です。例えば、労働能力喪失期間が5年で、年利3%を控除するライプニッツ係数は4.5797です。その結果、被害者は、従来よりも受け取れる逸失利益が増えることとなります。

後遺障害14級9号の専業主婦の逸失利益計算をすると?

弁護士の計算では約81万円

後遺障害14級には、1号から9号までに分類される9つの症状があります。なかでも多いのは、「局部に神経症状を残すもの」とされる後遺障害14級9号です。交通事故被害でよくあるむちうちが後遺障害として認定される場合、後遺障害14級9号となるケースが多いです(後遺障害12級13号の場合もあります)。

後遺障害14級9号の専業主婦の逸失利益を、これまで見てきたデータをもとに弁護士方式で計算してみましょう。

後遺障害14級9号の専業主婦の場合
基礎収入 3,778,200円
労働能力喪失率 5%
労働能力喪失期間5年に対応するライプニッツ係数: 5年
労働能力喪失期間5年に対応するライプニッツ係数 4.3295(※年利5%とした場合)

基礎収入✕労働能力喪失率✕労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数=逸失利益
3,778,200円✕5%✕4.3295=817,885円

したがって、後遺障害14級9号の専業主婦がもらえる逸失利益は、弁護士が計算した場合、約81万円となります。

自賠責保険・任意保険が計算する逸失利益は、弁護士より低額

しかし、自賠責保険・任意保険が計算する逸失利益は、これよりずっと低額です。

まず自賠責保険ですが、自賠責保険では、後遺障害14級の後遺障害の補償について、逸失利益と後遺障害慰謝料を併せて最高75万円としています。自賠責保険の後遺障害慰謝料は32万円ですので、差し引き43万円ぶんが、逸失利益としてもらえる金額と捉えていいでしょう。

次に任意保険ですが、任意保険も、自賠責保険の金額と同じか少し高い程度の金額で逸失利益を計算することがほとんどです。

後遺障害14級9号の専業主婦の示談金総額

後遺障害14級9号で専業主婦がもらえる示談金総額はいくらでしょうか?

結論から言えば、

  • 治療費
  • 通院交通費
  • 入通院慰謝料
  • 休業損害
  • 逸失利益
  • 後遺障害慰謝料

などの費目を合算した金額が示談金総額になります。

後遺障害14級9号の専業主婦と言っても、入通院慰謝料や休業損害などは個別の事案によって大きく変わりますので、本章では、ある程度の相場が決まっている後遺障害の補償部分について説明します。

自賠責基準・任意基準・弁護士基準で異なる後遺障害慰謝料

後遺障害の補償部分には、逸失利益と後遺障害慰謝料があります。

後遺障害慰謝料には、「自賠責基準」、「任意基準」、「弁護士基準」の3つの基準があり、どの基準を使うかで得られる金額が増減します。

それぞれの金額を見てみましょう。

自賠責基準とは

自賠責基準とは、自賠責保険が用いる基準です。自賠責保険は被害者に対する最低限の補償でしかないため、自賠責基準は3つの基準のなかで最も低額となっています。後遺障害14級の後遺障害慰謝料は、さきにも少し触れましたが、32万円です。

任意基準とは

任意基準とは、任意保険会社が用いる基準です。その金額は、自賠責基準より高く弁護士基準より低く設定されています。任意基準は保険会社ごとに内部基準がありますが、こちらは公表されておらず、その詳細は不明です。しかし、かつてあった保険会社間の統一支払い基準(旧任意保険支払基準)では、後遺障害14級の後遺障害慰謝料は40万円でした。

弁護士基準とは

弁護士基準とは、示談交渉や裁判で弁護士が用いる基準で、3つの基準のなかで最も高額であり、後遺障害14級の後遺障害慰謝料は110万円です。弁護士は、後遺障害に関する深い見識を持ち、法的根拠に基づいた慰謝料の算出ができるため、保険会社や裁判所も、この基準を用いることを認める場合が通常です。

後遺障害14級の慰謝料比較表

後遺障害14級の慰謝料を比較すると以下のとおりです。

自賠責基準 32万円
任意基準 40万円(※旧任意保険支払基準)
弁護士基準 110万円

後遺障害14級9号の専業主婦の補償額総額

弁護士基準では約191万円

弁護士基準の場合、
逸失利益約81万円+後遺障害慰謝料110万円=約191万円
が後遺障害の補償額です。

すでに述べたとおり、自賠責基準では、逸失利益と後遺障害慰謝料を併せて75万円までしかもらえません。そう考えると弁護士基準では、自賠責基準の2.5倍もの後遺障害補償が受けられることになります(なお任意基準では、自賠責基準と同じか、少し多い程度の金額しかもらえません)。

専業主婦の後遺障害14級の認定率は?

専業主婦の後遺障害14級認定率は非公表

専業主婦の後遺障害14級の認定率はどれくらいでしょうか?

実は、後遺障害14級の専業主婦のケースを含め、後遺障害認定率の詳細はわかっていません。と言うのは、後遺障害等級認定件数は公表されているものの、そのおおもとである申請件数が公表されていないからです。

しかし、損害保険料率算出機構の「2017年度版自動車保険の概況」(※)によれば、2016年度に自賠責調査事務所で受け付けた自賠責保険の請求事案の件数は1,311,869件で、後遺障害認定を受けた件数は59,642件、そのうち後遺障害14級だけを取り上げると、認定件数は34,633件です。

自賠責保険の請求をしたからと言って、その全員が後遺障害等級認定を申請するとは限りませんが、この統計によれば、自賠責保険請求件数の4.5%が後遺障害等級認定を受けていることになり、後遺障害14級に限ると、自賠責保険請求件数の2.6%が後遺障害14級として認定されていることがわかります。

後遺障害14級の認定を受けるのは容易なことではないと言えるでしょう。

※参照元:https://www.giroj.or.jp/publication/outline_j/j_2017.pdf#view=fitV

後遺障害による専業主婦の逸失利益計算は弁護士に相談を!

まとめ:後遺障害14級の専業主婦は逸失利益をもらえる

これまでのまとめになりますが、専業主婦でも、後遺障害14級の認定を受ければ、逸失利益をもらえます。

後遺障害14級9号「局部に神経症状を残すもの」を例に挙げると、専業主婦の逸失利益は弁護士の計算で約81万円です。後遺障害慰謝料は弁護士基準で110万円でしたので、後遺障害14級9号の被害者は、弁護士に依頼すれば、後遺障害の補償部分だけで約191万円を受け取れることになります。

残念ながら、専業主婦の後遺障害14級の認定率は非公表ですが、2016年度の自賠責保険請求件数が1,311,869件に対し、後遺障害14級として認定されたのは34,633件だったことから推測すると、専業主婦が後遺障害14級の認定を受けるのは、そう易しいことではなさそうです。

後遺障害等級認定に詳しい弁護士に相談しよう

後遺障害14級の専業主婦の逸失利益についてお悩みの場合には、後遺障害に詳しい弁護士に相談するのがベストです。

なぜならば、後遺障害は、法的知識に加えて医学的知識を要する専門的な分野だからです。

医師が内科や外科と専門分野が分かれているように、弁護士にも、離婚を得意とする弁護士、相続を得意とする弁護士とさまざまですが、まずは後遺障害に特化した弁護士を探しましょう。

いまは、初回法律相談料を無料にしている弁護士も多いです。一人で悩まずに、専門家の手を借りて、スムーズな解決を目指しましょう!

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