ライプニッツ係数とは?逸失利益(損害賠償金)額の計算方法をわかりやすく解説

ライプニッツ係数のイメージ

ライプニッツ係数とは、交通事故の逸失利益や介護費用など「将来にわたって発生する賠償金」を計算するときに適用される係数です。

事故の賠償金を正しく計算するにはライプニッツ係数に関する知識が必須です。

この記事ではライプニッツ係数の意味や賠償金の計算方法をお伝えしますので、事故に遭われた方はぜひ参考にしてみてください。

ライプニッツ係数とは

そもそもライプニッツ係数とは何なのでしょうか?はじめて聞く方も多いでしょう。

ライプニッツ係数とは、交通事故で「将来にわたって発生する損害の賠償金」を計算するときに適用する係数です。

たとえば逸失利益や介護費用を計算する際にライプニッツ係数を適用します。

逸失利益

逸失利益とは、失われた利益です。具体的には交通事故で被害者に後遺障害が残ったり死亡したりしたときに発生します。

後遺障害が残った場合

事故で後遺障害が残ると、その人は事故前のようには働けなくなります。そうなると生涯収入が低下すると考えられます。

減収は将来にわたって発生し続けるので、ライプニッツ係数によって調整しなければなりません。

死亡した場合

被害者が死亡したら一切の収入を得られなくなります。そこで予定されていた生涯収入が損失になります。

生涯収入も本来なら将来にわたって発生しつづけるものなので、示談時に当初に一括で受け取るときにはライプニッツ係数で調整する必要があります。

介護費用

被害者に後遺障害が残ると、生涯にわたって介護が必要となるケースもよくあります。

そんなときには将来の介護費用を計算しなければなりません。

将来の介護費用も本来なら将来にわたって発生する損害なので、当初に一括で受け取る際にはライプニッツ係数で調整します。

ライプニッツ係数が必要な理由

なぜ逸失利益や介護費用などの将来にわたって発生する損害の場合、ライプニッツ係数で調整しなければならないのでしょうか?

それは、将来に発生すべきお金を示談時に一括で受け取ると、被害者が「得」をしてしまうからです。

ライプニッツ係数でまとめて受け取る将来分のお金の「利息」を控除する

将来にわたって受け取っていくお金を当初にまとめて受け取ると、本来よりも早めに運用ができてしまいます。
すると本来よりも多くの利益(利息分)を得られる結果となります。

そこでもらいすぎた「利息分」を控除するためにライプニッツ係数を適用して調整するのです。

ライプニッツ係数と損害賠償

賠償金の一種である逸失利益の計算にもライプニッツ係数を適用します。

逸失利益は交通事故の損害賠償のひとつ

逸失利益は交通事故によって発生する損害賠償金の一種です。
後遺障害逸失利益と死亡逸失利益の2種類があります。

後遺障害逸失利益は被害者に後遺障害が残った場合の逸失利益、死亡逸失利益は被害者が死亡した場合の逸失利益です。

どちらの場合にもライプニッツ係数を適用して賠償金額を調整しなければなりません。

逸失利益計算にライプニッツ係数を使う目的

後遺障害逸失利益も死亡逸失利益も、将来にわたって発生する損害です。
示談の際には通常これらを一括で受け取るので、就労可能年数をそのまま適用すると、被害者に運用利益が発生してしまいます。

そこで中間利息を控除するためにライプニッツ係数を適用して金額を調整するのです。

これが逸失利益計算の際にライプニッツ係数を適用する目的です。

就労可能年数とは

なおライプニッツ係数は「就労可能年数」に対応したものを使います。就労可能年数とは、「人が通常、働ける年数」です。

一般的には18歳から67歳まで働けるものと考えられています。

ライプニッツ係数の表

以下で年齢別のライプニッツ係数の表を示します。

人は18歳から67歳まで働ける前提で作成されているので、18歳未満の人と18歳以上の人とでライプニッツ係数が異なります。

それぞれに適用されるライプニッツ係数と年齢の対照表を確認しましょう。

18歳未満の人に適用する表
年齢(才) 幼児・児童・生徒・学生など右欄以外の働く意思と能力を有する者 有識者や家事従事者などの場合
就労可能年数(年) ライプニッツ係数 就労可能年数 ライプニッツ係数
0 49 14.980 67 28.733
1 49 15.429 66 28.595
2 49 15.892 65 28.453
3 49 16.369 64 28.307
4 49 16.860 63 28.156
5 49 17.365 62 28.000
6 49 17.886 61 27.840
7 49 18.423 60 27.676
8 49 18.976 59 27.506
9 49 19.545 58 27.331
10 49 20.131 57 27.151
11 49 20.735 56 26.966
12 49 21.357 55 26.774
13 49 21.998 54 26.578
14 49 22.658 53 26.375
15 49 23.338 52 26.166
16 49 24.038 51 25.951
17 49 24.759 50 25.730
18歳以上の人に適用する表
年齢(才) 就労可能年数(年) ライプニッツ係数
18 49 25.502
19 48 25.267
20 47 25.025
21 46 24.775
22 45 24.519
23 44 24.254
24 43 23.982
25 42 23.701
26 41 23.412
27 40 23.115
28 39 22.808
29 38 22.492
30 37 22.167
31 36 21.832
32 35 20.389
33 34 21.132
34 33 20.766
35 32 20.389
36 31 21.832
37 30 19.6
38 29 19.188
39 28 18.764
40 27 18.327
41 26 17.877
42 25 17.413
43 24 16.936
44 23 16.444
45 22 15.937
46 21 15.415
47 20 14.877
48 19 14.324
49 18 13.754
50 17 13.166
51 16 12.561
52 16 12.561
53 15 11.938
54 15 11.938
55 14 11.296
56 14 11.296
57 14 11.296
58 13 10.635
59 13 10.635
60 12 9.954
61 12 9.954
62 11 9.253
63 11 9.253
64 11 9.253
65 10 8.53
66 10 8.53
67 9 7.786
68 9 7.786
69 9 7.786
70 8 7.02
71 8 7.02
72 8 7.02
73 7 6.23
74 7 6.23
75 7 6.23
76 6 5.417
77 6 5.417
78 6 5.417
79 5 4.58
80 5 4.58
81 5 4.58
82 4 3.717
83 4 3.717
84 4 3.717
85 4 3.717
86 3 2.829
87 3 2.829
88 3 2.829
89 3 2.829
90 3 2.829
91 2 1.913
92 2 1.913
93 2 1.913
94 2 1.913
95 2 1.913
96 2 1.913
97 2 1.913
98 2 1.913
99 2 1.913
100 2 1.913
101 2 1.913

ライプニッツ係数による逸失利益の計算方法

具体的にライプニッツ係数を利用する場合、どのようにして逸失利益を計算するのかみてみましょう。

後遺障害が残った被害者の逸失利益の計算方法

まずは後遺障害が残った場合の後遺障害逸失利益の計算方法を確認します。

後遺障害逸失利益の計算式は以下の通りです。

後遺障害逸失利益=事故前の年収×労働能力喪失率×就労可能年数に対応するライプニッツ係数

労働能力喪失率とは、事故によって失われた労働能力の割合です。後遺障害の等級によって異なり、具体的には以下の通りです。

労働能力喪失率の表
等級 労働能力喪失率
1級 100%
2級 100%
3級 100%
4級 92%
5級 79%
6級 67%
7級 56%
8級 45%
9級 35%
10級 27%
11級 20%
12級 14%
13級 9%
14級 5%

事故前の年収

事故前の年収としては、実際の年収(給料や自営収入)を基準とし、家事労働者の場合などには賃金センサスを使って計算します。
事故前の年収が多ければ多いほど、被害者が受け取る逸失利益の金額は大きくなります。

死亡事故の場合の逸失利益の計算方法

死亡事故の場合の死亡逸失利益の計算式は以下の通りです。

死亡逸失利益=事故前の年収×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数

人が死亡すると一切働けない状態になるので、労働能力喪失率を考える必要はありません(あえていうなら100%です)。

ただし死亡すると生活費がかからなくなるので、生活費控除率を差し引かねばなりません。
生活費控除率は被害者の属性によって異なり、以下の通りとなります。

生活費控除率

被害者が一家の支柱であった場合
  • 被扶養者が1人名の場合 40パーセント
  • 被扶養者が2人以上の場合 30パーセント
被害者が一家の支柱以外であった場合
  • 女性の場合 30パーセント
  • 男性の場合 50パーセント

ライプニッツ係数を用いた逸失利益の計算例

実際にライプニッツ係数を使って逸失利益を計算すると、どのくらいの数字になるのか具体例でみてみましょう。

後遺障害が認められた30歳女性の場合

事故前の年収が500万円、後遺障害等級が10級となった30歳の女性の場合、後遺障害逸失利益の金額は以下の通りです。

500万円(事故前の年収)×27%(労働能力喪失率)×22.167(ライプニッツ係数)=2992万5450円

被害者は加害者に対し、後遺障害逸失利益として2992万5450円を請求できます。

事故により死亡した40歳男性の場合

事故前の年収が650万円、妻と子どもがいて一家の大黒柱だった男性が死亡した場合、死亡逸失利益の金額は以下の通りです。

650万円(事故前の年収)×(1-30%(生活費控除率))×18.327(ライプニッツ係数)=8338万7850円

男性の遺族は加害者に対し、死亡逸失利益として8338万7850円を請求できます。

ライプニッツ係数と新ホフマン係数の違い

ライプニッツ係数と並び、逸失利益としてもらいすぎたお金に対する中間利息の控除に使われる計算方式として、新ホフマン係数というものがあります。

ライプニッツ係数と新ホフマン係数の違いは、端的に言えば利息の計算方法の違いです。
ライプニッツ係数は複利での計算方法で、元本につく利息に対しても、利息がついていく形での計算になります。
新ホフマン係数は単利で、利息は常に元本のみにつきます。

同じ条件で計算すると、単利の新ホフマン係数よりも、複利のライプニッツ係数で計算した方が控除される額は大きくなります。

被害者の立場からすると、ライプニッツ係数よりも控除額が少ない新ホフマン係数で計算した方が、請求できる逸失利益の金額は大きくなります。

裁判実務ではライプニッツ係数が中心

ライプニッツ係数と新ホフマン係数について、現在の裁判所の判断としては、中間利息の控除額の計算方法として「どちらを使ってもかまわない」ということになっています。
実際、逸失利益の請求事件では、ライプニッツ係数を採用した判例・新ホフマン係数を採用した判例の双方が存在しています。

以前は、裁判所により採用する方式が異なる(東京地裁がライプニッツ方式、大阪地裁・名古屋地裁がホフマン方式)状況でした。
1999年、こうした地域間での違いの統一を図るため、東京・大阪・名古屋地方裁判所の共同で「交通事故による逸失利益の算定方法についての共同提言」が発表されました。(判例タイムズ1014号62頁)

この共同提言以降は、司法における中間利息控除の計算におけるデファクトスタンダードとしてライプニッツ方式が採用され、大半の裁判判例・示談交渉の場ではライプニッツ方式が使われているのが実際です。

ただし、被害者としては、その計算が正しく合理的であることさえ立証できれば、ライプニッツ方式よりもホフマン方式での計算した方が得です。
どちらの方式を採用するにしても、中間利息の控除を含む逸失利益の計算はかなり高度で複雑なため、弁護士に相談して依頼する方が良いでしょう。

民法改正によるライプニッツ係数の変更

実はライプニッツ係数は、近年の民法改正によって変更されています。

従来は「年率5%(法定利率)」を基準に設定されていましたが、法改正によって法定利率が変動制になったためです。
2020年以降は法定利率が3年毎の変動制となり、3年が経過するとそのときの景気の動向などによって見直されます。

2020年からの当初3年は「年率3%」と決定されました。
よって2022年の時点では年率3%の法定利率を前提としてライプニッツ係数が算定されます。
現時点(編注:2022年)で交通事故が起こったら、年率3%を基準にしたライプニッツ係数の表を適用する必要があります。

今後は法定利率が改定されると新しい法定利率に応じたライプニッツ係数の表をあてはめなければなりません。

従来の5%から3%へ変更

2020年3月31日の法改正前は法定利率が年率5%だったところ、2020年からは年率3%となりました。

よって被害者にとっては「控除される金額が減った」のです。
すなわち「法改正後は被害者の受け取れる金額が増額」されています。

ライプニッツ係数に関しては「法定利率が減ると控除額が減るので被害者が受け取れる金額が増える」という関係性を覚えておくと良いでしょう。

今後も3年毎の変更に注意

今の法定利率は年率3%ですが、今後も3年毎に法定利率の見直しが行われます。
次の変更時は2023年4月1日です。
ライプニッツ係数を計算する際には法定利率の変更を意識し、そのときに適用される法定利率を把握しておく必要があるといえるでしょう。

まとめ

ライプニッツ係数は交通事故の逸失利益や介護費用などの将来にわたって発生する損害を計算するときに必要な係数です。

現時点では年率3%を基準に算定しますが、今後は変更される可能性もあります。
交通事故で適正な賠償金を受け取るため、ライプニッツ係数について正しく理解しておきましょう。

自分ではライプニッツ係数を適用した逸失利益の計算に自信がない場合、交通事故に積極的に取り組んでいる弁護士に相談してみてください。
そのときの法定利率を基準とした正しいライプニッツ係数をあてはめ、適正な賠償金を算定してもらえるでしょう。

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