過失割合9対1の交通事故~注意すべきケースと計算方法、納得できない場合の対処法

過失割合9:1の交通事故
過失割合9対1の交通事故では、被害者にも過失が認められる分、もらえる損害賠償金の金額も減少します。

9対1でも被害者にも過失が認められた場合、損害賠償金が減額されたり、場合によっては相手への支払いが発生したりするため、過失割合が0の場合に比べると被害者にとっては負担が重くなります。

ここでは加害者の過失割合が9割、被害者の過失割合が1割だった場合の損害賠償金の計算方法や過失割合に納得できない方法の対処法について紹介します。

過失割合9対1の場合、交通事故の損害賠償金は減額する

過失割合とは、交通事故の原因となった過失を、当事者の責任の大きさに応じて分配したものをいいます。

交通事故は当事者の一方、あるいは両方の不注意(過失)が原因で起きるケースも多いものです。

一般的には、過失が大きい側が「加害者」、過失が小さい側(あるいは過失が0である側)は「被害者」と呼ばれますが、実際には被害者側になったとしても過失が0ではない場合もあります。

被害者の過失分は、損害賠償金の過失相殺に

たとえば、信号がない交差点での直進車同士の衝突事故の場合、優先道路を走っている車は優先されるため、そうでない道路を走っている車の方の過失が重いと評価されます。
もっとも、優先道路を走っていた方の車も周囲の様子に少し注意すれば、衝突事故は避けられたかもしれません。

過失の大小はあるものの、どっちの当事者が一方的に悪いとは言い切れない交通事故も多いのです。

過失割合9:1の場合、被害者の損害賠償金は1割減額に

こうした被害者にも過失が認められる交通事故では、「加害者の責任の方が大きいけれど、被害者にも多少の責任がある」ということで、損害賠償金が減額されます。これを過失相殺といいます。

先ほどの例であれば、優先道路ではない道路を走っていた車(加害者)の割合が9割、優先道路を走っていた車(被害者)の過失割合が1割となるのが基本です。

そのため、被害者の損害賠償金は1割減額されることになります。

過失割合9対1の損害賠償金額の計算方法

過失割合9:1の事故における損害賠償金の考え方
こうした過失割合9対1の場合、被害者が受け取れる損害賠償金の金額の計算方法について見てみましょう。

損害の総額を算出する

まず、被害者側・加害者側それぞれの損害の総額を算出します。

この損害には、ケガの治療費や慰謝料、後遺症が残った場合の賠償金、休業補償、物損によって受けた損害など、事故が原因で生じたさまざまな損害が含まれます。

ここでは仮に、

  • 被害者側の損害:1000万円
  • 加害者側の損害:500万円

という想定で話を進めることにしましょう。

総額から過失相殺する

過失割合が加害者9割、被害者1割ということですので、それぞれの損害の総額から、自分の過失分を相殺して、自分が相手方に請求できる損害賠償金の金額を算出します。

被害者が請求できる損害賠償金

まず、被害者側が請求できる損害賠償金の金額は次のようになります。

  • 1000万円×(1-0.1)=900万円

加害者が請求できる損害賠償金

一方、加害者側が請求できる損害賠償金の金額はどうなるでしょうか。

  • 500万円×(1-0.9)=50万円

被害者側は加害者側に900万円、加害者側も被害者側に50万円の損害賠償金を請求できることがわかりました。

なお、相手方が請求できる金額の方が自分の請求できる金額より多い場合、逆に差額を相手に支払わなければなりません。

既払金がある場合は差し引く

すでに相手方が自分に支払ったお金がある場合は、その分を差し引いて最終的にもらえる損害賠償金の金額を算出します。

今回のケースで、加害者側が100万円をすでに払っているのであれば、被害者が最終的にもらえる損害賠償金の金額は

  • (900万円-50万円)-100万円=750万円

となります。

損害賠償金の支払い方によっても計算方法は変わる

損害賠償金の支払い方法には、相殺払いとクロス払いがあります。
最終的に受け取れる金額(支払う金額)はどちらの方法も同じですが、一時的な持ち出し金額には大きな違いが現れる可能性があります。

相殺払い

相殺払い
相殺払いとは、相手に請求できる分から自分が請求できる分を引いた差額を請求する形で損害賠償金を計算する方法です。

残額が多い方が相手にお金を支払えばいいので、精算処理が楽というメリットがあります。
また、自分の支払う分の限度では相互に支払いが終わっているため、相手方の不払いによるリスクを減らせるのもメリットです。

ただし、相殺払いをするためには、当事者双方の合意が必要になります。合意ができない場合は相殺払いを利用することはできません。

クロス払い

クロス払い
一方、クロス払いは自らに生じた損害賠償金を、被害者・加害者お互いが相手に現実の支払いをする方法です。
相互が保険会社に加入している場合は、クロス払いが一般的です。

クロス払いの場合、自分も相手に実際にお金を支払う必要があるため、自分の保険を利用しないのであれば一時的に持ち出しが発生する可能性があります。

過失割合9対1の損害賠償金の注意点

加害者より被害者が支払う賠償金が高くなるケースもある

加害者の損害賠償金額が被害者を上回るケース
加害者が高級車に乗っていたり、死亡したりした場合、加害者側の損害額が大きくなります。

相手方の過失割合が9割だとしても、トータルの損害額が大きければ加害者側が被害者側に請求できる賠償金の金額も大きくなるでしょう。

加害者の損害額が大きく、被害者に支払いが発生する場合の例

たとえば、車同士の事故で加害者が死亡し、加害者側の損害額が5,000万円となったとします。
幸い被害者側はケガをしただけで済み、被害者側の損害額は500万円で済みました。

過失割合が9対1の場合、それぞれの損害賠償金の金額がどうなるかについて見てみましょう。

被害者側の損害賠償金額例

被害者側が請求できる損害賠償金の額は以下のようになります。

  • 500万円×90%=450万円
加害者側の損害賠償金額例

続いて、加害者側が請求できる損害賠償金の額は次のようになります。

  • 5,000万×10%=500万円

なんと、加害者側の損害額が大きかったことから、被害者側も加害者側に500万円支払うことになってしまいました。

被害者側がもらえる損害賠償金は450万円ですので、双方もらえる損害賠償金を差し引いて計算したとしても、被害者側は加害者側に50万円を支払わなければなりません。

過失割合1割の差で、損失は大きな違いに

もし加害者側の過失割合が10割であれば、加害者側は一切損害賠償金を受け取れません。
そのため、被害者側は500万円を受け取れるはずでした。
過失割合が1割違うだけで、最終的な結果は大きく変わります。

自動車保険を使うと賠償金を保険料の増額が上回る場合も

保険でカバーする賠償金の金額より、保険料の増額負担の方が高くなる可能性も
相手に自分の任意保険から賠償金を支払うことになった場合については、過失割合が低い側ならではの注意点があります。

過失割合が1割の場合、保険でカバーする賠償金の金額より、保険料の増額負担の方が高くなる可能性があります。
事故による損失を補うための保険であるのに、保険を利用することで以後の費用負担が大きくなるのでは本末転倒です。

支払う賠償金の金額によっては、保険を使わずに処理した方がトータルの出費が減る可能性もあります。
保険を使う前に、保険を使うことで以後の保険料がどれくらい増えるかを確認しておきましょう。

物損事故の弁護士依頼は費用倒れに注意

物損事故
保険会社との示談交渉を弁護士に依頼しようという方もいるかもしれません。
しかし、1割とはいえ過失割合があると、最終的にもらえる損害賠償金が減ってしまいます。

特に、もともと損害賠償金が低くなりやすい物損事故の場合、弁護士を依頼すると費用倒れになるケースも少なくありません。

弁護士への依頼を検討するのであれば、正式依頼の前にもらえるであろう賠償金の金額と弁護士費用の見積もりを確認しておくことをおすすめします。
見積もりは、依頼する前の法律相談の段階で行ってくれるケースが一般的です。
弁護士・法律事務所によっては、初回相談無料の範囲で見積もりを行ってくれるところもあります。

交通事故で過失割合が9対1になるケース

交通事故の過失割合は、過去の判例を参考に決められる場合が多いです。
ここでは過失割合が9対1となる典型的なケースを紹介します。

自動車同士の9対1事故

自動車同士の事故で、基本的に過失割合が9対1となるのは次のようなケースです。

なお、徐行をしなかった、速度違反があったなど実際の状況によっては過失割合が変動する可能性があることにご注意ください。

信号機のない交差点で直進車同士が衝突した事故の場合

信号機のない交差点で直進車同士が衝突した事故の場合
信号機のない交差点で直進車同士が衝突した事故の場合、基本的に優先道路を走っていた車の過失割合が1、そうでない道路を走っていた車の過失割合が9となります。

青信号で交差点に入った右折車が赤信号になるのを待って右折しようとしたところに直進車が赤信号を無視して突っ込んできた場合

青信号で交差点に入った右折車が赤信号になるのを待って右折しようとしたところに直進車が赤信号を無視して突っ込んできた場合
交通状況によっては交差点に青信号で侵入した後、赤信号になるのを待って右折しなければいけないことがあります。

こうした状況では、右折車の基本的な過失割合は1、赤信号を無視した直進車の過失割合は9となります。

交差点で右折車が非優先道路から優先道路に出たところで優先道路を直進する車と衝突した場合

交差点で右折車が非優先道路から優先道路に出たところで優先道路を直進する車と衝突した場合
優先道路を走行していた直進車は徐行義務がなく、非優先道路を走っている車に優先します。

したがって右折車が9、直進車が1というのが基本的な過失割合です。

道路外に出るため右折した車が直進車にぶつかった場合

道路外に出るため右折した車が直進車にぶつかった場合
道路外に出ようとするための右折は交通の流れに逆らう運転操作です。そのため、このようなケースでは右折車の過失が重くなります。

この場合の基本的な過失割合は右折車が9、直進車が1となります。

追越禁止の道路で追い越しをした車が非追越車に追突された場合

追越禁止の道路で追い越しをした車が非追越車に追突された場合
追越禁止の道路で追い越した車の過失が重くなります。この場合の過失割合は追越車が9、非追越車が1となります。

車とバイクの9対1事故

車とバイクの事故については次のようになります。

優先道路を走行していたバイクと非優先道路を走行していた車が交差点で衝突した場合

優先道路を走行していたバイクと非優先道路を走行していた車が交差点で衝突した場合
優先道路を走行していた車両の過失は軽く、そうでない道路を走行していた車両の過失は重いとされます。

この場合の過失割合は車が9、バイクが1となります。

一方通行違反をして交差点に差しかかった車と、直進してきたバイクが衝突した場合

一方通行違反をして交差点に差しかかった車と、直進してきたバイクが衝突した場合
この場合の過失割合は車が9、バイクが1となります。

青信号で交差点に侵入したバイクが右折待ちをしていたところに赤信号を無視した直進車が衝突した場合

青信号で交差点に侵入したバイクが右折待ちをしていたところに赤信号を無視した直進車が衝突した場合
この場合、赤信号を無視した直進車の過失が重いという判断になります。過失割合はバイクが1、車が9となります。

直進するバイクを車が追い越してそのまま左折しようとした場合

直進するバイクを車が追い越してそのまま左折しようとした場合
交差点に近い場所でバイクを右から車が追い越し、そのまま左折しようとして衝突した場合、追い抜く側はバイクの存在をわかっていると思われます。そのため、そのまま左折しようとするのは過失が重いと判断されます。
そこで、過失割合はバイクが1、左折車が9となります。

道路外に出ようとした車に直進してきたバイクが衝突した場合

道路外に出ようとした車に直進してきたバイクが衝突した場合
この場合、交通の流れに逆らい、道路外に出ようとした車の過失が重くなります。

したがって過失割合は車が9、バイクが1となります。

なお、車が道路外から道路に入ってきた場合も同様です。

停車中の車がドアを開けたところにバイクがぶつかった場合

停車中の車がドアを開けたところにバイクがぶつかった場合
バイクとしては車のドアが開けられることは予測しにくいので、車の過失割合が大きくなります。過失割合は車が9、バイクが1となります。

車と歩行者の9対1事故

車対歩行者の事故でも、過失割合が9対1となるケースがあります。

青信号で右左折した車と歩行者の事故の場合

青信号で右左折した車と歩行者の事故の場合
歩行者が青信号で横断をはじめたところ、青信号で右左折した車とぶつかったケースです。

過失割合は歩行者が1、車が9となります。

交通整理の行われていない交差点における衝突事故の場合

交通整理の行われていない交差点における衝突事故の場合
交差道路が優先道路である場合または交差している道路の幅が通行している道路より明らかに広いときには車に徐行義務があり、注意義務が加重されます。
そのため、車の過失割合が9、歩行者が1となります。

広い道から狭い道に向かって右左折する場合、一時停止規制のある道路を歩行者が横断している場合、丁字路交差点で歩行者が直線路を歩いている場合も同様に考えます。

歩行者が車道を歩いていた場合

歩行者が車道を歩いていた場合
歩道上に障害物があり、やむを得ず歩行者が車道にはみ出して歩かなければならないときがあります。

このときに車が歩行者にぶつかってしまった場合、過失割合は歩行者が1、車が9となります。

また、歩道・車道の区別がない幅8m未満の道路において、歩行者が道路の中央部分を歩いていた場合も同様に考えます。

車と自転車の9対1事故

車と自転車の事故でも、過失割合が9対1となるケースは珍しくありません。

車が道路外に出るために右折したところで自転車と衝突した場合

車が道路外に出るために右折したところで自転車と衝突した場合
直進してきた自転車と衝突した場合の過失割合は、自転車が1、車が9となります。

前方にいた車が進路変更し、後ろを直進していた自転車が衝突した場合も同様に考えます。

青信号で横断している自転車と右左折車が接触した場合

青信号で横断している自転車と右左折車が接触した場合
歩行者信号が青で自転車が横断をしているときに、右左折してきた車が接触した場合は、車の過失が重くなります。

過失割合は自転車が1、車が9です。

左折車が自転車の巻き込み事故を起こした場合

左折車が自転車の巻き込み事故を起こした場合
左折を開始した車が、後ろから直進してきた自転車を巻き込むような形で接触事故を起こした場合です。

左折車の過失割合が9、自転車の過失割合が1となります。

交通事故の過失割合が9対1に納得がいかない場合

過失割合は双方の話し合いで決めるものなので、納得できないのであれば相手方と交渉する必要があります。

自分で保険会社と交渉する

まず考えられるのが、被害者自身が相手の保険会社と交渉することです。

しかし、保険会社の担当者は交渉のプロです。
一般的に、被害者自身が交渉し、相手から譲歩を引き出すのは困難といえます。

自分の保険会社担当者に交渉してもらう

次に考えられるのが、自分の保険会社の示談代行サービスを利用することです。
この方法のメリットは加入している保険会社の担当者に示談交渉を任せられることです。

ただし、被害者が自分の過失を0と主張する場合、示談交渉を保険会社に任せることはできなくなります。
保険会社からの持ち出しがなくなることで、保険会社自らが被害者の交渉を代理することができなくなるためです。

弁護士に交渉を依頼する

弁護士に交渉をお願いするという選択肢もあります。

示談交渉では、事故の状況を検証した上で、法的な知識や証拠に基づいて説得力ある主張をする必要があります。

過失割合9:1の状況における交渉・手続きに慣れているのは、やはり法律の専門家である弁護士です。
過失割合で納得できないのであれば、一度弁護士に相談して、意見を聞いてみるのもよいでしょう。

過失割合9対1は交渉でどう変わる?

相手方の保険会社に「過失割合9対1」と提示された場合、交渉することで過失割合を自分の側に修正・変更してもらえる可能性があります。

それでは、どのような修正・変更がありえるのでしょうか。具体的に見てみましょう。

過失割合9対1から9対0への変更

まず、考えられるのが片側賠償です。これは加害者に被害者への損害賠償を放棄してもらい、過失割合を9対0にするものです。

被害者の損害額からは被害者からの過失割合が相殺されたままになりますが、被害者が加害者に対して支払いをする必要がなくなるのがメリットです。
また、過失が0になるので自分の保険を使わずに済み、保険等級が下がることもありません。

一方、被害者の過失が考慮される分、加害者にとってもも支払額が減るというメリットがあります。

加害者・被害者どちらにもメリットがあることから、双方譲らない場合に折衷案として提案されることも多い方法です。

過失割合9対1から10対0への変更

自分に落ち度はない、と考えるのであれば、自分の過失割合は0であると主張することも考えられます。

その分相手との交渉は難航しやすくなりますが、被害者の損害が全額認められるという意味で被害者側のメリットは大きいといえるでしょう。

被害者にとって、過失割合9対1は交渉の影響が大きいバランス

過失割合9対1は、被害者側に1割の責任が認められた状態です。
責任全体の10分の1ながら、被害者側にこの1の責任があるかないかで、交通事故の問題解決の手続きは大きく変わります。

過失割合1があることで、請求できる損害賠償額は9割に減り、あわせて加害者側の損害の1割を負担することになります。
9:1だからといって、シンプルに「損害賠償も1割減」に留まることはまずないのです。
加害者側の損害額が大きいものだった場合、被害者なのに自分が賠償金を支払わねばならないケースすらありえます。

自らに否がない事故である確信があるならば、10対0または9対0に持ち込み、被害者側の責任をなくすための交渉を行う価値は非常に大きい事例と言えるでしょう。

また被害者側の責任が0となる場合は、保険会社による示談交渉代行は利用できなくなります。
こうした状況もふまえると、過失割合9対1からはじまる示談交渉はまず弁護士に相談するのも、以後の示談交渉や手続きをスムーズにするための、ひとつの手です。

まとめ

交通事故の過失割合がどうなるかは、最終的な損害賠償金の金額に大きく影響します。
たとえ過失割合が9対1でも、その1割分の負担が被害者の方にとっては大きいものです。

保険会社の提示する過失割合は必ずしも絶対的なものではなく、交渉次第で修正・変更の余地があるケースも少なくありません。

もし保険会社の提示した過失割合に納得できないようであれば、一度弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

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