交通事故を起こした加害者に処罰を望まない場合でも示談交渉はしっかりと
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交通事故弁護士相談広場編集部
交通事故の加害者は、事故発生直後にいきなり3つの責任を負うことになります。
被害者に対する賠償義務が科せられる民事責任、裁判を経て禁錮に処せられる場合もある刑事責任、また免許取り消しや反則金支払いなどが科せられる行政責任が、まとめてではなくてそれぞれ独立した手続きで処理が進められ、処分を受けることになります。
そして行政責任を除く民事と刑事の2つの責任は、密接に関係しあい、示談内容や裁判内容に影響を及ぼすことがあります。
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示談交渉は早いのが良い? 時間をかけるのが良い?
「交通事故が起こったら、加害者側は示談交渉合意を急がせる」と言われています。もちろん、事情に詳しくない人はそのようなことはしませんが、知識として加害者が負う責任を知っている人は、一日も早い示談交渉成立を願うでしょう。
逆に被害者の立場に立った場合は、交通事故の責任に対する知識がなければ、すぐに大きな賠償金額や慰謝料を提示されたら、その場で示談を受け入れてしまいかねません。
反対に、もし後遺障害などに対する知識があれば、決してその場でサインするようなことはないでしょう。手続きや処分は別々に行われることになりますが、交通事故の民事責任と刑事責任には、密接な関係性があるのです。
示談決着を急ぐ加害者、合意まで期間が欲しい被害者
事故現場で口約束の示談をするという論外な話も珍しくないと言います。さすがに物損事故や軽い人身事故に限られるでしょうが、「○○万円払うから示談にしてくれ」とその場で頼み込む加害者は、虚構の世界にだけ存在するわけではないようです。
被害者の怪我が重くて入院中であっても、お見舞いに訪れるついでに示談の話し合いを持とうとする加害者は結構いると聞きます。「示談がまとまらないと、お互い気も休まらないから」と加害者側の常套句を繰り出し、一日でも早く示談を成立させようとします。
確かに加害者が示談を急ぐのにはメンタルな理由があるかもしれませんが、実は加害者にとっては、別の切実な事情があるのです。
交通事故の加害者は、被害者に怪我を負わせた事故の犯人
人身事故の加害者は、事故の内容によって刑事裁判に召喚されることがあります。交通事故の加害者は、被害者に怪我を負わせた事故の犯人となるのです。
一方、物損事故で被害を受けた人が加害者を犯人と呼ぶ場合もありますが、物損事故はほとんどの場合は刑事事件にはなりません。
重大事故を起こした場合は、刑事裁判で裁かれる
人身事故を起こした加害者は、被害者に与えた損害に民事上の賠償責任を負うと共に、免許の取り消しなどの行政処分に加え、刑事責任も負います。
加害者はどのような罪に問われるのでしょうか。
業務上過失致死傷害罪
交通事故で加害者が被害者を死傷させてしまった時に問われるものです。
過失運転致死傷罪
運転に必要な注意を怠ったことによる事故で被害者を死傷させた時に問われるものです。
危険運転致死傷罪
飲酒運転や薬物を使用して運転するなどの危険な運転を行い、被害者を死傷させた時に問われるものです。
不幸にも被害者が亡くなってしまったなど悪質な事故の場合は、加害者は殺人犯と同じように逮捕や起訴されます。被害者の怪我が軽度な交通事故の場合は、在宅捜査で刑事処分を受けることになりますが、加害者の責任が重大であると考えられる場合には、事情聴取や裁判に召喚されることになります。
示談交渉が早期に成立すれば、刑事罰が軽くなる?
交通事故の裁判では、被告人である加害者が罪を認めているケースがほとんどです。その場合、法廷で争われるのは量刑だけであり、罰金か懲役刑か、あるいは実刑か執行猶予かといった判決で下される刑罰の重さを審理する裁判となります。
ほとんどの場合、ここに被害者の意思が反映されることはありません。
情状酌量を得るための示談成立
加害者は軽い刑罰を望むのが普通ですから、法廷戦術として被告人はいかに普段良い人かという事を証言してくれる情状証人を法廷に呼び、自分がいかに反省しているのかを書き綴った上申書を裁判長に提出します。
そして刑事裁判における減刑の要件として、被害者との和解が出来ているかどうかが重要になってきます。
被害者と和解(示談)が成立しているということは、被害者はすでに加害者に対して処罰意識を強く持っていないという証明になりますので、裁判官の心証は減刑の方向に傾くとされています。被害者としては、示談が成立しているかどうか、ということだけで判断されるのが普通です。そのため、裁判にまで持ち込まれる事故においては、加害者は示談成立を急ぐのです。
重い刑罰を科したいわけではないが…、という被害者の立場
交通事故が起きた直後から加害者が誠意を尽くし被害者に対応し、提示された示談の内容も申し分ないけれども、被害者には裁判を理由に示談成立を急ぎたくない場合があります。
重症で入院した場合などは、後遺障害の症状固定までに長い期間を要することがあります。
これ以上治療を続けても症状が改善されない、と判断される時期に症状固定を行い、後遺障害診断書を医師に書いてもらい、後遺障害に対する慰謝料の等級が決められますが、加害者の裁判が早く進んでしまった場合に、まだ治療中であるとか、症状固定の診断ができないといった場合があります。
示談書に署名捺印を行ってしまうと、それ以上の賠償請求は行わないということなので、症状固定まで示談は行わないと姿勢を貫くべきだとは言えます。
厳罰を望まない被害者ができること
しかし一方で、交通事故において、被害者が加害者の責任を直接追求できるのは民事上の責任だけです。そのため、加害者に厳罰を望まない場合は、示談を進めるか、刑事裁判に働きかけるかのどちらかの方法を取ることになります。
示談内容に後遺障害の条件を書き加える
症状固定がまだで、それでも示談を進めるならば、示談内容に「示談後に生じた後遺障害については、別途協議を行うこと」などの一文を加えておけば、裁判で判決が下り、刑罰が確定した後でも改めて後遺障害の損害賠償金や慰謝料の交渉ができます。
また、その間の治療費や諸費用についても言及しておくことが必要でしょう。
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刑罰を軽くする旨の嘆願書を出す
加害者から誠心誠意、心のこもった対応を受け、被害者が厳罰を望まない場合は、裁判所に嘆願書を提出する方法があります。考え方が分かれるところですが、加害者に厳罰を与えるよりも、刑罰を軽くし、しっかりと働いて示談金を払ってくれる方が良いという場合もあるでしょう。
刑事罰は検察官によって求刑され、裁判官が判断します
通常ならば被害者の声は反映されず、起こした事故の罪に妥当な刑罰かどうかが判断されるだけですが、加害者の対応や誠心誠意尽くしてくれた胸を書いた嘆願書を検察官または裁判所に提出すれば、情状酌量が認められる場合があるのです。
裁判にまで行く交通事故では、被害者は重い後遺障害に苦しまされることが考えられますが、恨み続けるよりも、より良い示談条件で誠意をずっと受け続けたいという場合は、これらの方法を考慮して示談を受け入れることも得策です。
もちろん、事故後にお見舞いにも来なかったり、示談交渉の対応に不満があったり、誠意のかけらも見られないような加害者に対しては、早期の示談を受け入れる必要はありません。拒めないような状況に追い込まれた場合は、ぜひ専門家の弁護士に相談しましょう。
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