交通事故における民事調停とは?手続きの特徴と裁判所を介した話し合いの流れ

簡易裁判所

交通事故の示談が不調に終わった場合、簡易裁判所で行う民事調停を利用するケースが一般的です。
民事調停は、裁判所が選出した調停委員を介して双方が話し合うことで問題の解決を計る手続きで、裁判に比べると費用も半分程度に抑えられ、スピーディな解決も期待できる方法です。

反面、調停委員が必ずしも交通事故の専門家ではない可能性があり、問題点もあります。

この記事では、交通事故における民事調停について、手続きの特徴、必要書類や費用、調停申し立てを行う場合の実際の流れなど、わかりやすく解説します。

民事調停とは?

民事調停とは、簡易裁判所によって選ばれた裁判官と民間調停委員が当事者の間に入り、話し合いによって紛争の解決を目指す手続です。

交通事故の損害賠償について言えば、被害者と加害者(多くは保険会社)とのあいだで示談交渉をしても話がまとまらないときに、裁判に進む前の解決方法として利用されます。

民事調停にかかる費用は裁判の半額ほどで、手続きも比較的簡単、しかも非公開で進むためプライバシーも保たれます。
その一方、調停委員が必ずしも交通事故に精通しているとは限らない、1回で終わることはあまりなく完了までは一定の期間がかかる、不調に終わる場合があるなど、注意すべき点も多々あります。

裁判以外の方法で紛争解決を目指す手続き

民事調停は、交通事故の損害賠償だけでなく、

  • 売買をめぐるトラブル
  • お金の貸し借り
  • 近隣トラブル
  • 建物の明け渡しをめぐる紛争

など、日常生活のさまざまなトラブルを対象とした制度です。

民事調停は裁判のように「勝ち負け」を決めるのではなく、基本的には「話し合い」です。裁判官・調停委員を挟んで申立人と相手方が話し合い「お互いが譲り合って合意できるポイント」を探し、円満な解決を目指します。

なお、民事調停は裁判所で行われますが、民事事件と対になる刑事事件には調停に該当する手続きはありません。そのため普通「調停」といえば「民事調停」のことを指します。

被害者・加害者のどちらからでも申し立て可能

民事調停の申立ては被害者・加害者どちらからでも可能です。
交通事故の場合でいえば

  • 加害者側が全く話し合いに応じない
  • 保険会社の提示額がどうしても受け入れられない

といったとき、被害者の側から調停を申し立てることができますし、その逆で被害者と主張の相違が大きく加害者側から調停を希望するケースもありえます。

申立先は相手方住所を管轄する簡易裁判所

申立先は、原則として相手方の住所地を管轄する簡易裁判所です。

もっとも、当事者同士が合意していれば、別の簡易裁判所や地方裁判所を選ぶこともできます。
人身事故の場合には、請求者の住所地を管轄する簡易裁判所が利用できるケースもあるため、迷うときは最寄りの裁判所に確認すると安心です。
裁判所の場所や連絡先は、裁判所ホームページにて検索・確認いただけます。

調停の成否と所要期間

裁判所の公表しているデータ「令和6年 司法統計年報(民事・行政編)」によると、民事調停の8割以上が調停手続きの中で解決しています(成立・調停に代わる決定の合計)。
また、民事調停の平均的な審理期間は2~3か月とされています。

令和6年司法統計 全地方裁判所での調停既済事件数(終局区分別)
終局区分 件数 全体に占める割合
成立 596 88.2%
調停に代わる決定 2839
不成立 341 8.8%
調停をしないとしたもの 10 0.3%
取下げ 22 0.6%
その他 87 2.2%
総数 3895 100%

令和6年 司法統計年報(民事・行政編) 第84表 調停既済事件数―事件の種類及び終局区分別―全地方裁判所をもとに編集部作成。

示談交渉だけでは膠着していた話し合いが、第三者である裁判所と調停委員を間に入れることでスムーズになり、比較的短期間でまとまることも多い手続きです。

民事調停の申立てに必要な書類・費用

民事調停を利用するには、まず簡易裁判所に申立てを行います。
ここでは、交通事故のケースで一般的に必要となる書類と費用の概要を整理します。

交通事故での民事調停申し立ての必要書類

交通事故に関する民事調停申立ての、通常、次のような書類を用意します。

  • 調停申立書(裁判所ホームページからダウンロード可)
  • 交通事故証明書(写し)
  • 診断書(写し)
  • 商業登記簿謄(抄)本または登記事項証明書(申立人または相手方が会社の場合)

裁判所において申立書を記入する際には印鑑が必要となります。
調停申立書以外は、すでに示談交渉の段階で保険会社などから取り寄せていることも多い書類です。調停申し立てのためにゼロから集め直すイメージではありません。

病院の診療明細書や、確定申告書の控え・源泉徴収票など収入を示す書類を添付することもできますが、最初に申し立てする段階では必須ではありません。必要かどうかは裁判所に確認してください。

調停申立書に記載する主な内容

調停申立書には、次のような事項を記載します。

  • 作成年月日
  • 申立人住所、氏名、連絡先電話番号
  • 法定代理人(当事者が未成年の場合)
  • 相手方の住所、氏名、連絡先電話番号(分かっている場合)
  • 申立ての趣旨(金額がはっきりしている場合は支払い金額あるいは相当額。損害額の一部の支払いを受けている場合はその金額も記載)
  • 紛争の要点

紛争の要点

事故の発生日時・場所・申立人及び相手方の車両・相手方の過失態様と責任・事故による損害額・その他主張や示談交渉における相手方との争点なども記述可能

事故によって受けた損害

物的損害:修理費・代車費用など
人身損害:傷害の内容と入通院日数・治療費・休業損害・慰謝料など

以上、たいていの項目は〇を付けるか、示談交渉を進めるにあたって把握している内容であるため、比較的簡単に書けるものと思われます。

交通事故の民事調停に使用する調停申立書は裁判所ホームページからダウンロードできます。
記入例も公開されていますので、参考にしてください。

民事調停の申し立てにかかる費用(手数料)・郵券

裁判所で民事調停を行う場合、手数料がかかります。この手数料は収入印紙を申立書に貼ることで納付します。

申し立てにかかる手数料の金額は、民事調停で相手方に支払いを求める金額(訴額)によって変わります。
次に一例を紹介しておきますが、実際には細かく決められていますので、裁判所にお問い合わせください。

民事調停の申し立てにかかる手数料
訴額 手数料額
50万円 2,500円
100万円 5,000円
300万円 10,000円
500万円 15,000円

これらはいずれも、訴訟(裁判)を起こす場合の手数料の半額程度に設定されています。手続きそのものの費用面で比べると、裁判よりも調停の方が割安と言えるでしょう。

このほか、相手方に呼出状を送付するための郵便切手(予定郵券)が必要になります。
具体的な金額は裁判所の窓口で確認してください。

調停委員会とは?

申立人により民事調停が申し立てられると、裁判所は調停委員会を立ち上げます。
民事調停を進める際に申立人・相手方の間に立ち、話し合いの中心となるのが調停委員会で、その構成は次のとおりです。

  • 簡易裁判所の裁判官:1名
  • 民間から選ばれた調停委員:2名以上

裁判所ホームページによると、調停委員は次の基準で選ばれています。

調停委員は、調停に一般市民の良識を反映させるため、社会生活上の豊富な知識経験や専門的な知識を持つ人の中から選ばれます。具体的には、原則として40歳以上70歳未満の人で、弁護士、医師、大学教授、公認会計士、不動産鑑定士、建築士などの専門家のほか、地域社会に密着して幅広く活動してきた人など、社会の各分野から選ばれています。

裁判所ホームページ「調停委員」より引用

調停委員は交通事故の専門家とは限らない

裁判所は事件の内容に応じて「適任」と考えられる調停委員を指定します。
ただし、裁判所での民事調停が、交通事故だけではなくあらゆる民事分野を扱う制度である以上、必ずしも交通事故の示談交渉に詳しい委員が選ばれるとは限りません。

  • 過失割合を巡る争いにおける有責性の判断基準
  • 後遺障害の評価
  • 将来の逸失利益の算定

など、専門的な判断が必要な場面では、専門性が十分ではない場合があります。
交通事故で裁判所の調停を利用する際は、自分の被害状況や損害額の根拠をできるだけ整理したうえで臨むことが重要です。

また、複雑な事故やこじれた示談交渉の和解あっ旋を希望する場合、裁判所ではなく交通事故に特化したADR機関の利用も検討すると良いでしょう。

交通事故による民事調停の実際の流れ

ここからは、交通事故の民事調停がどのように進むのか、時系列に沿って説明します。

  1. 調停申立て後、裁判所による調停期日の決定
  2. 調停室での話し合い
  3. 調停を上手く進めるために意識したいこと
  4. 調停は複数回行われる
  5. 調停で合意できた場合:調停調書が作成される
  6. 調停で合意できなかった場合:調停不調として裁判へ

調停申立て後、裁判所による調停期日の決定

裁判所は民事調停の申立てを受けると、事件番号を設定し、スケジュールや現状の担当状況をふまえ裁判官1名と調停委員2名を割り振ります。

担当する裁判官・調停委員の都合も考慮し、裁判所が第1回調停期日を決定。申立人と相手方の双方に、第1回調停期日の日時を通知書(呼び出し状)が送付されます。

調停室での話し合い

豊橋簡易裁判所14調停室
呼出状に指定してある日時に簡易裁判所に赴くと、いよいよ調停が始まります。

調停は裁判や審理ではないため、法廷ではなく、調停室と呼ばれる、ごく普通の会議室のような場所で、裁判官・調停委員の同席のもと話し合いを行います。
裁判のように公開の法廷で第三者が傍聴することもなく、手続きは非公開なので、プライバシーも守られます。

進め方のイメージとしては、

  1. 裁判官と調停委員が自己紹介などを行う
  2. 申立人・相手方それぞれから話を聴き取り、事故の概要や損害の状況を整理する
  3. 双方の主張や希望を踏まえて、「このあたりなら合意できるのではないか」という条件を探る

という流れです。
調停委員会は、当事者の主張の間に入り、「この条件ならどうか」と解決案を提示しながら、双方が納得できるラインを探っていきます。

顔を合わせたくない場合の配慮

被害者の中には、「相手の顔を見るだけでつらい」「直接顔を合わせるのは避けたい」という方も少なくありません。
そのような場合には、

  • 当事者を別々の待合室で待機させる
  • 調停委員が片方ずつ個別に話を聴く

といったかたちで、相手と直接顔を合わせずに調停を進める方法も取られます。
必ずしも同じ部屋で相対して話をする必要はありません。

調停委員会はどちらの味方でもない

民事調停は裁判所で行われますが、裁判所(および調停委員会)は被害者側の味方でも、加害者側の味方でもありません。

裁判所は「敵でも味方でもない」中立の立場

裁判所や調停委員はあくまで中立的な第三者として、

  • 双方の意見を聴く
  • 法律の枠組みから外れない範囲で、落としどころを探る

という役割を担っています。

そのため、たとえ被害者の言い分にもっともな点があっても「ここはこう説明すればあなたの主張が通りやすくなりますよ」といった、片側に有利な「作戦指導」のようなアドバイスはしません。

調停を上手く進めるために意識したいこと

調停はあくまで当事者同士の話し合いですので、自分の言い分をどれだけ整理して伝えられるかが大切になります。

事故時の状況、被害、影響を具体的に整理して伝える

感情的に「相手が悪い」「金額が少なすぎる」と主張するだけではなく、

  • どういう事故状況で、
  • どんなケガ・後遺症があり、
  • どの程度の損害が出ていて、
  • それに対してどのくらいの賠償を求めるのか

を、できるだけ具体的に説明することが重要です。

そのため、調停の前に一度弁護士に相談し、

  • 損害額の考え方や相場感
  • 自分のケースで特に説明すべきポイント

についてあらかじめアドバイスを受けておくことをおすすめします。
自分の主張を整理して把握・準備しておくことで、調停の場でもスムーズに話ができるようになるでしょう。

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調停は複数回行われる

1回で結論が出るとは限らない

交通事故の損害賠償問題に限らず、民事調停は1回の期日だけで終わることはあまりありません。
調停にまで進むケースの多くは、当事者双方が感情的になっていて、冷静な話し合いが難しくなっていることが多いからです。

そのため、第1回目の調停は、

  • 裁判官や調停委員の自己紹介
  • お互いの主張の大まかな確認

だけで終わることも珍しくありません。
「これからよろしくお願いします」という顔合わせの意味合いが強い回もあります。

調停の期間・回数に上限はないが、調停不調の判断も

民事調停には、「3回まで」「半年まで」といった形式的な回数・期間の上限はありません。
実務上は、4回以上続くこともありますし、半年以上かけて話し合いを重ねるケースもあります。

もっとも、何度話し合いを重ねても、双方がまったく譲り合わない・合意できる見込みがないと調停委員会が判断した場合は、調停不調として手続が打ち切られることもあります。

調停で合意できた場合:調停調書が作成される

複数回の話し合いを経て、調停委員会からの解決案に双方が合意すると、調停は成立となります。
調停が成立した場合、裁判所は「調停調書」という書面を作成します。

調停調書は確定判決と同じ効力

調停調書は、裁判で言う「確定判決」と同じ効力を持つ非常に重い書類です。

  • 解決金の金額
  • 分割払いの約束
  • 支払期限

など、合意した内容が調停調書に書き込まれます。

もし、調停調書に書かれた義務を履行しない場合、相手方は強制執行(給与や預金などの差押え)の手続を取ることができます。

「調停に代わる決定」と異議申立て

場合によっては、裁判所が当事者の意見を踏まえて「この内容なら妥当だろう」と考える解決案を「調停に代わる決定」として示すこともあります。
この決定に対して2週間以内に異議申立てがなければ、調停が成立した場合と同じ効果が発生します。

申立人・相手方どちらかが調停の内容に納得できない場合は異議申立てを行います。
2週間の期限を過ぎないよう注意が必要です。

調停で合意できなかった場合:調停不調として裁判へ

調停を重ねても、当事者間の歩み寄りが見込めず解決しない場合、調停委員会は「調停不調」という形で手続を終えます。
この時点で、示談・調停を含む話し合いでの解決はほぼ難しくなったと考えてよいでしょう。

調停が不調で終わった場合、最終的には訴訟を提起し、裁判所の判決をもって決着をつける方向へと進みます。
ただし、実際の裁判が進む最中、裁判官から和解を勧められることも多く、判決の出る前段階で和解に終わるケースも多々あります。

まとめ

民事調停は、示談ではまとまらなかった交通事故の損害賠償問題を、「裁判に行く前に」話し合いで解決するための制度です。
民事調停は簡易裁判所で行われ、費用は裁判の約半分。手続は非公開でプライバシーが守られ、第三者である裁判官・調停委員が間に入って話を整理してくれるなどのメリットがあります。

一方で、調停委員が交通事故の専門家とは限らず、裁判所のスタンスは被害者の味方ではなく中立です。
民事調停を通じた話し合いで合意できなければ調停不調で終わり、以後は裁判に進んでいく点もよく理解しておく必要があります。

被害者として民事調停に臨む際には、事故状況や損害額の根拠をできるだけ整理し、自分の主張を第三者に説得力を持って示せるよう事前の準備が重要です。
必要に応じて弁護士に相談し、説明のポイントを確認しておくことも、納得のいく解決につなげるうえで有効です。

相手方との示談交渉がうまく行かず、民事調停を検討する場合、お近くの弁護士までご相談ください。

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