「民事調停」を欠席するとどうなる?~不調となる可能性が高くなる~

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佐藤 學(元裁判官、元公証人、元法科大学院教授)

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「民事調停」の「期日」は期日変更申請書を裁判所に提出するか、裁判所書記官に電話連絡することで変更が可能となる場合があります。民事調停法には、裁判所は、当事者が期日に「正当な事由がなく出頭しないとき」には過料に処すると定められていますが(34条)、実際にこの規定を適用して、過料に処せられたというのは、稀なケースとされています。
裁判所も、申立人が強く話し合いによる解決を望んでいる場合には、出頭しない当事者に粘り強く出頭してもらうように郵便などで呼びかけ、それでもやむを得ない場合に不調にするというような扱いが多いのではないかと思われます。
また、わざと欠席することで「裁判」に早く持ち込みたいという戦術もあるようです。
なお、本稿では、簡易裁判所における交通調停について、説明しています。

民事調停を欠席すると、原則的には過料が科せられる

民事調停自体も不調となる可能性が高くなる

当事者同士による交通事故の示談交渉が決裂した時、次の問題解決手段は「民事調停」(以下「調停」といいます)となります。

「調停」は、民事に関する紛争を取り扱います。その例としては、交通事故だけではなく、物の売買、金銭の貸借、借地借家、農地の利用関係、公害や日照の阻害をめぐる紛争等があります。調停は、これらをめぐる争いなどのトラブルを、裁判所において、「裁判」以外の方法で解決を目指すものです。「裁判」と比較すると、申立てが簡単で、費用も安く抑えられ、手続きは非公開で行われるため、プライバシーを守ることもできます。

なお、前述したように、「民事調停」に欠席しても、原則的に過料が科せられることはなく、相手方の都合によっては、「民事調停」自体も不調となる可能性が高くなると言えます。

「調停」は時間の無駄?

一般人でも気軽に申立てができる「調停」ですが、「時間の無駄」と言われることもあるようです。

最高裁判所が任命する調停委員会のメンバーが、必ずしも交通事故問題の専門性を有しているとは言えないこと、もともと示談交渉でさんざん話し合いをして合意しなかったのだから、第三者の調停委員会が調整しても変わらないであろうということなど、調停が「時間の無駄」と言われる理由はさまざまなようです。

そして、呼出状に応じない相手方もいるため、より強制力の強い「裁判」を志向する向きもあります。

「調停」に関わる問題点を確認してみましょう。

裁判所が指定する調停委員会のメンバーが問題?

交通事故の被害者又は加害者から「調停」が申し立てられると、裁判所の調停委員会が解決を図ることになります。

裁判所は、当該の交通事故をめぐる紛争を扱う調停委員会で調停を行いますが、その調停のためだけに専門の委員が選ばれるわけではありません。

裁判官1名と調停委員2名が「調停」を進める

調停委員会は、調停主任(裁判官又は民事調停官)1名と、民間から選ばれた2名以上の調停委員によって構成されます。裁判所ホームページによると、調停委員は次の基準で選ばれています。

調停委員は、調停に一般市民の良識を反映させるため、社会生活上の豊富な知識経験や専門的な知識を持つ人の中から選ばれます。具体的には、原則として40歳以上70歳未満の人で、弁護士、医師、大学教授、公認会計士、不動産鑑定士、建築士などの専門家のほか、地域社会に密着して幅広く活動してきた人など、社会の各分野から選ばれています。

なお、下記における交通調停は、裁判官1名と調停委員2名という構成の調停委員会を前提としています。

交通事故に強い調停委員かどうかは分からない

上記の基準は、交通事故の「調停」だけではなく、すべての「民事調停」に適用されます。

裁判所ホームページでは、「事件の内容等に応じて、最も適任と思われる調停委員を指定するなどの配慮をしています。」と謳っていますが、必ずしも交通事故の損害賠償問題に詳しい人が指定されるわけではないでしょう。

調停委員の任命は、最高裁判所が行いますが(民事調停委員及び家事調停委員規則1条)、どのような調停委員を指定するかは、簡易裁判所が判断する事項です。しかし、申立人から具体的な専門家調停委員指定の希望があるときは、その旨の上申書を提出すれば、考慮される場合もあるとされています。

複雑な事故やこじれた示談交渉については、裁判所の「調停」ではなく、交通事故に特化したADR機関による和解あっ旋を利用した方が良いとされています。

「調停」の呼び出し「期日」が一方的?

交通事故に限らず、「民事調停」の申立てが受理されれば、調停委員会から 「○○月○○日の〇○時に、簡易裁判所に来てください」 という呼出状が、当事者の元に届きます。

この呼出状に記載された日時のことを「期日」と呼びますが、「期日」は調停委員会が一方的に指定してくるもので、申立人とは事前の打ち合わせがあったとしても、申立ての相手方に前もって打診が行われるものではありません。

そのため、どうしても外せない用事のある日が、たまたま「調停」の「期日」ということが考えられるわけです。

「調停」の「期日」は変更してもらえるか?

基本的に、「期日」の変更は可能

「調停」は交通事故当事者同士による話し合いの場となるため、調停委員会も双方の出席を望んでいるのです。

「調停」の「期日」までまだ余裕のあるときには、期日変更申請書を裁判所に提出して、期日の変更を願い出ることが可能です。

期日変更申請書の書式は「裁判所ホームページ」からダウンロードできます。

期日変更申請書には、一般に、変更を求める期日の特定と、「期日」変更を求める理由を書き込み、必要があれば、診断書や期日呼出状写しを添付します。

「調停期日」変更の理由は認められる?

「調停」の「期日」変更は電話でも申請可能

期日まであと数日といった差し迫った頃に、急な用事ができてしまった場合は、裁判所書記官に電話をかけ、「期日」の変更を申し出ることも可能となっています。

期日変更申請書にせよ、電話連絡にせよ、「期日」に裁判所に行けない「顕著な事由」(民事調停法22条、非訟事件手続法34条3項)だと裁判所が認めれば、「調停」の「期日」は変更されると一応言えそうです。

しかし、期日変更については、当事者だけでなく、調停委員との日程調整も必要であり、特に多忙な専門家調停委員の場合は、さらに調整が困難となり、事件の進行に影響が出る場合もあります。

そのため、調停の第1回期日そのものは維持し、出頭した側の事情聴取を行うのが、一般的になっています。

正当な事由と認められなければ欠席扱いとなる

法文では、「顕著な事由がある限り、変更することができる」(民事調停法22条、非訟事件手続法34条3項)とされていますので、あまりにも安直な理由で「期日」の変更を申し出ると、「正当な事由がなく出頭しない」(民事調停法34条)として、調停委員会に、欠席扱いにされてしまうことも考えられます。しかし、実務では、出頭した側から事情聴取して、期日が無駄にならないように配慮しています。

「調停」の「期日」は、なるべく最優先事項として、他の用事をずらしてでも、裁判所に赴くようにすることが望ましいのは間違いありません。
繰り返しになりますが、「調停」は、交通事故当事者同士の話し合いの場です。

「期日」変更の申請に関しては、特に回数制限はありませんが、裁判所が相手の日程も確認したら、その日はこっちが都合悪かった、といった事態もあり得ます。

なるべく双方が出席し話し合いができるように、「期日」を調整してくれる場合もありますが、調停委員会は、決まっていた期日を生かすように配慮するのを原則とし、やむを得ないとして、「期日」の変更に応じるのは、あくまで「顕著な事由がある」と認められた場合のみです。

一方、「正当な事由がなく出頭しなかった」場合は、規定上、次のような過料が科せられると定められています。

「調停」の無断欠席には過料が科せられる?

民事調停法第三章「罰則」、第34条に「調停」不出頭の場合の過料が定められています。

(不出頭に対する制裁)

第34条 裁判所又は調停委員会の呼出しを受けた事件の関係人が正当な事由がなく出頭しないときは、裁判所は、5万円以下の過料に処する。

「調停」を正当な事由がなく欠席した者は、5万円以下の過料が科せられるのです。

しかし、実際に「調停」を欠席したからといって、過料が科せられたという話はほとんど聞きません。

どうしてなのでしょうか?

過料を徴収するために経費がかかるため?

過料の裁判は、検察官の命令によって執行されます(刑訴法490条1項。民訴法189条、非訟事件手続法163条)。

民事調停法には、過料の規定が定められていますが(34条)、前述したように、実際にこの規定が適用されるのは、稀ではないかとされています。

過料に処する裁判機関と裁判の執行機関とは、異なります。
そのため「5万円の過料を徴収する以上の経費がかかるため、過料に処する裁判がほとんどない」と語られることがありますが、それは筋違いと言えます。
「調停」は、「当事者の互譲により、条理にかない実情に即した解決を図る手続き」(民事調停法1条)であって、過料という制裁をもって出頭を強制し、解決すべきものではないからです。

「調停」は話し合いによって解決する場ですから、規定は規定として、当事者はなるべく出席できるように調整するべきでしょう。
もし、話し合いができなければ、不調という選択肢もやむを得ないのです。

「調停」を欠席する戦術がある?

一方で、「調停」を無断欠席し、本当に過料に処せられた人はほとんどないと言われているので、わざと呼出状を無視して欠席するという人もいるようです。

以下の方法は、決しておすすめできるものではありませんが、このような戦術もあるということを知っておいてください。

「調停」をわざと欠席して、不調にしてしまえという思惑

「調停」の場で損害賠償交渉に応じる気はなく、最初から裁判を視野に入れている場合には、「調停」をわざと欠席し、少しでも早く不調にしてしまおうという戦術を使う人がいるようです。

このような場合、電話で「話し合いで解決する気はないので、調停には出席しません」 旨、調停委員会に欠席することを連絡する人もいるのです。

いずれにしても、欠席は話し合いを望まないと判断される

どのような理由であれ、「調停」を欠席する人は、話し合いを望んでいないと調停委員会の裁判官や調停委員は解釈します。

通常、「調停」は2~3回の話し合い(2~3か月程度)の期間を見込んで行われますが、当事者の一方が欠席を続けると、調停委員会はこの期間を待たずに、早々に「調停」を不調として終わらせてしまうことがあります。

欠席という戦術は、おすすめできる方法ではありませんが、相手方が欠席を続ける理由に早めに気付くためにも、知識として知っておいてください。

調停が不成立となった場合の訴訟までの流れ

なお、合意の成立が困難なときは調停が不成立となりますが、その場合には、不成立の告知を受けた日から2週間以内に、調停の目的となった請求について訴えを提起したときは、調停申立ての時に、その訴えの提起があったものとみなされます(民事調停法19条)。
また、調停の申立てについて納めた手数料の額に相当する額は、当該訴えの提起につき納めたものとみなされます(民事訴訟費用等に関する法律5条1項)。

訴訟の提起を検討している場合は、いつ不成立になったのか、納めてある手数料はいくらになるかということの証明が必要になってきます。

そのため、不成立後、書記官室で、申立書写しを添付した不成立証明書申請書(収入印紙300円の納付が必要)を提出して、同証明書を取得し、訴え提起裁判所に訴状を提出する際、併せて提出することになります。

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