物損事故で証拠がないときの対処法|後から集められる証拠と過失割合による賠償金への影響

物損事故でドライブレコーダーや目撃者などの証拠がなくても、過失割合は車の損傷や事故現場の状況から決まり、証拠の多くは事故の後からでも集められます。
物損事故では原則として警察の実況見分が行われません。ドライブレコーダーも目撃者もないまま、相手方に「そちらの車も止まっていなかった」と言われると、反論の材料が見つからないものです。被害者からすれば、自分にかかる過失割合が1割違うだけで、受け取れる修理代と相手方に支払う額の両方が変わります。
防犯カメラの映像や修理前の損傷、相手方とのやり取りなど、今からでも集められる証拠を確かめていきましょう。
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物損事故は証拠がなくても損傷と現場の状況で過失割合が決まる
信号待ちで止まっていた車へ後ろから追突されたのに、相手方の保険会社から「急ブレーキをかけたのではないか」と言われる。駐車場で止まっていたのに、相手方から「そちらもバックしていた」と言われる。物損事故で証拠がないと困るのは、こうした事故状況の食い違いです。
ここでいう「証拠がない」は、自分の車にドライブレコーダーの映像がなく、事故の瞬間を見ていた人の連絡先も聞けていない、事故時の状況を自分の説明でしか伝えられない状態を指します。
交通事故の証拠が使われるのは、主に以下の3つを示すためです。
- 事故があったこと
- 過失割合(事故の責任が当事者それぞれにどれだけあるかを示す割合)
- 修理代などの損害額
事故があったことは警察に届け出て受け取る交通事故証明書で、修理代は修理見積書などで示すことができます。そのため、証拠のありなしが影響するのは、主に過失割合を決める場面です。
ただ、過失割合を決める主な材料は、事故の後も残る車の損傷と現場の状況です。
物損事故の示談交渉では被害者側にも証拠が必要
物損事故で修理代を請求するときは、被害者の側が、相手方に過失(注意を怠ったこと)があったことを示す必要があります。相手方が事故状況について別の説明を言い出すなど、主張が食い違った場合は、双方が出した証拠を比べた上で、保険会社や裁判所が過失割合を判断します。
つまり、物損事故の示談交渉では、被害者の側にも事故状況を示す証拠が必要なのです。にもかかわらず、物損事故で警察が残す記録は簡単なもので、事故状況の証拠としては頼りにくいのが実情です。
ただし、実際のところ、交通事故の証拠になるのはなにも警察の記録だけに限りません。
修理前の損傷の写真や修理見積書、防犯カメラの映像など、被害者が事故の後から集めて出せる証拠も、保険会社や裁判所が事故状況を推測する材料になります。
物損事故の警察の記録は物件事故報告書だけ
物損事故では、警察官が現場で実況見分を行わず、警察の記録は物件事故報告書だけになるのが通常です。
物件事故報告書は、発生日時や当事者、車の種類、損傷の程度などを警察官が記録する書類です。事故状況の記録は、人身事故で作られる実況見分調書(現場の図面や写真をまとめた記録)より簡単なものにとどまります。
物件事故報告書は、被害者の説明を裏づける事情が書かれているとは限らないうえ、被害者が警察署の窓口で頼んでも原則として見せてもらえません。物件事故報告書の内容を確認するには、弁護士が弁護士会を通じて警察に報告を求める手続き(弁護士会照会)や、裁判になった後に裁判所を通じて求める手続きが必要です。
保険会社は損傷と現場の状況から事故状況を推測する
保険会社の担当者は、車の損傷や事故現場の状況などから事故状況を推測し、過失割合を提示してきます。
交通事故の過失割合は警察が決めるものではありません。通常は、被害者(または被害者の保険会社)と相手方の保険会社が、示談交渉の中で話し合って決めていきます。
保険会社の担当者が事故状況を推測する材料は、次のようなものです。
- 車の損傷の位置・向き・高さ、凹みやこすれた傷の形
- 双方の車に付いた相手の車の塗料の位置
- 衝突した場所と、事故の後に車が止まった位置
- 道路の幅や信号、一時停止の標識などの現場の状況
- 警察の記録(人身事故なら実況見分調書、物損事故なら物件事故報告書)
保険会社は、損害の調査を担当するアジャスターに車の損傷を確認させることもあります。
裁判所や保険会社が過失割合の目安にしているのは、別冊判例タイムズ(民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準)という書籍です。保険会社の担当者は、推測した事故状況を別冊判例タイムズの事故の型に当てはめて基本過失割合(事故の型ごとに示された過失割合の目安)を出し、事故ごとの事情に応じて修正します。
つまり、推測される事故状況の内容によって、事故の型・修正要素が当てはめられていくのです。被害者の説明が損傷や現場の状況と合っていれば、ドライブレコーダーの映像がなくても、被害者の言い分に沿った事故状況が認められやすくなるでしょう。
修理代は被害者が相手方の過失を示して請求する
示談交渉だけでなく、示談がまとまらずに裁判になった場合も、車の修理代などの物の損害では、相手方の過失を示すのは被害者の側です(民法709条)。
一方、相手方が「被害者も前をよく見ていなかった」「被害者の車も動いていた」と主張して賠償額を減らす(過失相殺)よう求める場合は、減額を求める相手方が、被害者の過失にあたる事実を証明するのが原則です。
とはいえ、相手方のこうした主張に示談交渉の場で反論するには、被害者の側の証拠も欠かせません。
過失割合が1割違うと手元に残る額が大きく変わる
物損事故の過失割合は、被害者が受け取る修理代と、被害者が相手方に支払う修理代の両方に影響します。
たとえば、被害者の車の修理代が50万円、相手方の車の修理代が30万円の事故で、過失割合が変わると次のようになります。
| 過失割合(被害者:相手方) | 被害者が受け取る額 | 被害者が支払う額 | 差し引き(手元に残る額) |
|---|---|---|---|
| 0:100 | 50万円 | 0円 | 50万円 |
| 10:90 | 45万円 | 3万円 | 42万円 |
| 20:80 | 40万円 | 6万円 | 34万円 |
この例では、被害者の過失が1割つくだけで手元に残る額は8万円減り、2割なら16万円減る計算です。証拠が乏しいまま話し合いが進むと、被害者にも過失があるとして計算される形や、双方の自損自弁(それぞれ自分の車の修理代を負担する形)で、示談がまとまることもあります。
言い分が食い違うと過失割合の話し合いが止まる
相手方が示談交渉を保険会社に任せると、相手方の保険会社は、相手方から聞いた説明をもとに事故状況を組み立て、過失割合を主張してきます。
車が止まっていたか、どちらが先に動いたかといった事故状況の細かな点は、当事者の説明が保険会社を通じて伝わるうちに抜け落ちることがあります。事故の直後は「ブレーキが遅れた」と話していた相手方が、後日になって「被害者の車が急に止まった」「被害者も前に出てきた」と言い出してくることもあります。
言い分が食い違ったままでは過失割合の合意に至らず、示談もまとまりません。修理代などの賠償金も支払われないまま、時間が過ぎていきます。
事故状況の認識のずれを大きくしないためにも、被害者の説明を裏づける証拠は早めに確保しておきましょう。
物損事故の後からでも集められる証拠
物損事故から日が経っていても、集められる証拠は残っています。
防犯カメラやドライブレコーダーの映像のように上書きで消えていく証拠もあるため、消えやすいものから先に動くようにしましょう。
あわせて、提示された過失割合に合意する前に、相手方の保険会社に、どのような事故状況を前提に過失割合を出したかを書面やメールで示してもらうと、信号の色や車が止まっていたかどうかなど、言い分が分かれている点に絞って証拠を集められます。
| 証拠 | いつまでに動くか | 集め方 |
|---|---|---|
| 警察への届出(まだの場合) | 気づいた時点ですぐ | 事故現場を管轄する警察署に届け出る |
| 事故状況の記憶のメモと現場の写真 | 今日のうちに | 起きた順にメモに残し、現場の道路や標識を撮影する |
| 周辺の防犯カメラの映像 | 気づいたその日のうちに | 設置者に映像の保存を頼む |
| 後続車のドライブレコーダーと目撃者 | できるだけ早く | タクシー会社・バス会社や現場の店舗に問い合わせる |
| 修理前の損傷の写真と修理見積書 | 修理前ならすぐ(修理後も写真が残っていることがある) | 損傷を撮影し、修理工場に見積書を作ってもらう |
| 相手方とのメッセージや通話の記録 | 削除や機種変更の前に | 画面を保存し、通話の内容をメモに残す |
事故状況の記憶のメモと現場の写真
被害者が今日すぐに残せる証拠は、事故の記憶です。
保険会社に伝える説明を具体的にできるよう、事故の状況は、記憶が薄れないうちに起きた順にメモに残しておきましょう。
メモには、次のような点を書き留めておきます。
- 事故の日時と場所、天気や周囲の明るさ
- 衝突の直前に自分の車がどう動いていたか(止まっていた時間、ブレーキを踏んでいたか、合図を出していたか)
- 相手方の車がどの方向から来て、自分の車のどこにぶつかったか
- 衝突の後に双方の車が止まった位置
あわせて、事故現場にもう一度行き、道路の幅や車線、信号・一時停止の標識・停止線の位置、見通しを妨げる建物や植え込みなどを写真に撮っておきましょう。
双方の車の位置と進行方向、衝突した地点を簡単な図に描いておくと、保険会社や弁護士に事故状況を説明するときに役立ちます。
周辺の防犯カメラの映像
事故現場の近くにコンビニやガソリンスタンド、駐車場、マンションなどがあれば、防犯カメラに事故の瞬間や前後の車の動きが映っているかもしれません。
防犯カメラの映像は多くの場合、古いものから順に上書きされますが、保存期間は設置者によって違うため、まだ残っている可能性があります。防犯カメラに気づいたら、その日のうちに設置者へ連絡しましょう。
設置者には事故の日時と場所を伝え、映像を消さずに保存してほしいと頼みましょう。
防犯カメラの映像には事故と関係のない人も映っているため、被害者が個人で頼んでも、見せてもらえないことが多いです。それでも、設置者の方に保存しておいてもらえれば、後から弁護士が弁護士会照会や裁判所の手続きを通じて、映像の提供を求めることができます。
後続車のドライブレコーダーと目撃者
事故の前後を走っていた後続車や対向車のドライブレコーダーにも、事故の様子が記録されていることがあります。タクシーや路線バス、配送の車は、ドライブレコーダーを付けていることが多いです。
事故の日時と場所、車体に書かれていた会社名がわかれば、タクシー会社やバス会社に問い合わせて、映像を保存してもらえないか頼んでみましょう。防犯カメラと同じく、映像は時間がたつと上書きされるため、問い合わせは早いほど確実です。
目撃者は、事故の当事者と利害関係がないため、証言が信用されやすい存在です。
事故の当日に目撃者の連絡先を聞けなかった場合も、近くの店舗の人が事故を見ていたり、目撃した人を知っていることもあります。現場周辺の店舗に事故のことを尋ねてみましょう。
目撃者が見つかったら、事故の日に見た内容を日時とあわせて書き留めてもらい、保険会社との交渉や裁判で協力してもらえるか確かめておきましょう。
修理前の損傷の写真と修理見積書
車を修理すると、相手方の車がどう当たったのかを示す損傷の形が残らなくなります。
車を修理に出す前に、事故による損傷の写真を撮っておきましょう。
撮影するときは、次のような写真を残します。
- 車全体が入った写真(前後左右から)
- 損傷部分を正面と斜めから近づいて撮った写真
- メジャーを当てて、地面から損傷部分までの高さがわかる写真
- 被害者の車に付いた相手方の車の塗料やこすれた跡の写真
あわせて、修理に出す前に、修理工場やディーラーに修理見積書を作ってもらいましょう。修理見積書には損傷の範囲と交換する部品が書かれるため、損傷の記録としても使えます。
すでに修理を終えている場合は、修理工場が修理前に撮った写真や、保険会社のアジャスター(損害調査の担当者)が撮った写真が残っていないか確かめてみてください。
また、相手方の車の損傷も事故状況の手がかりになるため、相手方の保険会社に写真の提供を求めることもできます。
相手方とのメッセージや通話の記録
事故の後に相手方とやり取りしたLINEやメール、ショートメッセージに、相手方が事故状況を説明した言葉が残っていることがあります。
「よそ見をしていた」「止まっているのに気づかなかった」といった相手方の言葉は、後から相手方の説明が変わったときに、事故直後の説明を示す材料になります。
メッセージは、画面のスクリーンショットを撮り、トーク履歴のバックアップを取って保存しておきましょう。電話で話した内容は、話した日時と、相手方が話した言葉をできるだけそのままメモに残しておきます。
相手方が事故の直後に謝ったことは、それだけで相手方が過失を認めたことにはなりません。ただし、相手方が謝罪と一緒に事故の状況を話していれば、その内容が、交渉での相手方の説明を確かめる手がかりになります。
物損事故で車が止まっていたことを示す方法
停車中に後ろから追突された事故は、原則として追突した側の過失が100%になります。
追突に限らず、車が止まっていたか動いていたかは過失割合を大きく左右します。相手方が「止まっていなかった」と主張してきたときは、ドライブレコーダーがない場合も含め、次の3つで車が止まっていたことを示していきましょう。
ドライブレコーダーの映像と衝撃の記録
ドライブレコーダーの映像と、車が衝撃を感知して残す速度やブレーキの記録(イベントデータレコーダー=EDR)は、どちらも衝突のときに被害者の車が止まっていたかを示す手がかりです。
前方だけを撮るタイプのドライブレコーダーでも、衝突の前後に前方の景色が動いていなければ、車が止まっていたことを示せる場合があります。
自分のドライブレコーダーの録画も上書きで消えることがあるため、事故から時間が経っていても「映っていないだろう」と決めつけず、まずは早めにSDカードの中身を確かめてみるのが重要です。常時録画の設定にしていなくても、衝撃を感知して自動で録画する機能で、衝突前後の映像が別フォルダに保存されていることもあります。
また、EDRが記録するのは、事故の5秒前からの車の速度やブレーキ操作の有無などです。
新しく型式の認可を受けた乗用車などには2022年7月1日からEDRの装備が義務づけられているため、ドライブレコーダーが付いていない車でも、EDRの記録が残っていることがあります。記録が残るかどうかは事故の状況によっても変わるため、EDRの記録を証拠に使えるかは弁護士に確かめてもらうのが良いでしょう。
相手方の車のドライブレコーダー映像が証拠になる可能性も
相手方の車にドライブレコーダーが付いている場合は、相手方の保険会社に映像の提出を求めることもできます。
映像を警察に提出する場合の扱いや、相手方が映像の提出を拒んだ場合については、次の記事で解説しています。
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傷の形は止まっていたかを推測する手がかり
車同士の側面がぶつかった事故では、傷の形から、どちらの車が動いていたかを推測できることがあります。駐車場や狭い道で止まっていた車の側面に相手方の車が接触した場合や、車線を変えてきた車に横から当てられた場合などです。
傷の形から推測できる事故状況は、次のとおりです。
| 傷の形 | 推測できる事故状況 |
|---|---|
| 点のような傷や、押し込まれた凹みだけがある | 衝突の方向に沿ってぶつかった。側面の接触なら、傷を受けた側の車が止まっていた可能性がある |
| 前後の方向に長くこすれた傷(擦過傷)がある | 接触した後に車同士がこすれ合ったことを示す。双方の損傷や衝突の角度と合わせて、止まっていたかどうかを検討する材料になる |
凹みの位置や傷の向きからは、どの角度でどの部分がぶつかったかを推測できることがあります。被害者の車に相手方の車の塗料が付いていれば、塗料が傷のどちらの端に厚く付いているかも、相手方の車がどの方向に動いていたかの手がかりです。
保険会社や交通事故鑑定の専門家は、こうした手がかりを双方の車の損傷と照らし合わせて、どちらの車が動いていたかを検討します。
修理前の写真を見返して、被害者の車と相手方の車の傷の向きや長さ、凹みの有無、塗料の付き方を確かめておきましょう。
傷の形だけで判断できないケース
ただし、次のような場合は、傷の形だけでは止まっていたかどうかを判断できません。
長くこすれた傷
長くこすれた傷は、両方の車が動いていた場合だけでなく、止まっている車の側面を相手方の車がこすりながら進んだ場合にも生じます。傷の形からの推測は車の材質やぶつかった角度でも変わるため、判断が分かれるときは、交通事故鑑定の専門家に詳しく分析してもらうことになります。
後方からの追突事故
後ろから追突された事故では、被害者の車が動いていても凹みだけが残ります。追突された事故では、ドライブレコーダーやEDRにより車に残る記録、相手方の説明の変化が主な手がかりになります。
事故直後と後日の相手方の説明の違い
相手方の説明が事故の直後と後日で食い違っていれば、後日の説明が信用できるかを疑う材料の一つになります。
被害者は、事故の当日に相手方が口にした言葉を、思い出せるうちに書き出しておきましょう。
被害者の車に同乗者がいれば、同乗者が聞いた相手方の言葉も書き留めておいてください。
事故の当日に人身事故として実況見分が行われていれば、相手方が警察官に説明した内容は実況見分調書(警察が作る事故状況の記録)に記録されています。実況見分調書を取り寄せれば、相手方が事故の当日に警察官へどう説明したかを確かめられます。
停車中の事故で被害者の過失が問われるケースも
停車中でも、交差点や横断歩道の上やその前後5m以内など、停車が禁止されている場所に止めていた場合や、夜間に幅5.5m以上の道路で非常点滅表示灯(ハザードランプ)や尾灯をつけずに止めていた場合は、被害者の過失が問われることがあります。
停車中の事故の過失割合がどのように決まるかは、次の記事で解説しています。
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物損事故の届出と交通事故証明書で確認すること
物損事故の被害者は、警察に届け出ているかと、交通事故証明書(事故があったことを証明する書面)を受け取れる状態かを確かめておきましょう。
届出の有無は、保険金の請求や示談交渉の進み方にも関わります。
警察へは事故から日が経っても届け出られる
事故の当日に警察を呼ばなかった場合も、被害者は、事故から日が経った後で、事故現場を管轄する警察署に届け出ることができます。
相手方から「警察を呼ばずに済ませたい」と言われた場合も、被害者は警察に届け出ましょう。日が経つほど、警察が事故の事実を確かめるための材料は少なくなるので、届け出が遅れていることに気づいたら、その時点で警察署に連絡してください。
届け出る前に警察署へ電話をして、事故で傷んだ自分の車で行くべきか、何を持っていけばよいかを確かめておくと安心です。
事故証明書がないと保険金の請求が滞る
保険会社に保険金を請求するときは、原則として交通事故証明書を提出します。
交通事故証明書は、警察に届け出ていれば物損事故でも交付されますが、被害者も相手方も届け出ていない事故には発行されません。
事故が起きたことを示す書類が欠けるため、保険金の支払いが滞ることがあります。
交通事故証明書が証明するのは事故の日時や場所、当事者で、事故状況や過失割合までは証明しません。
申請方法と、交通事故証明書が必要になる場面は、次の記事で解説しています。
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けががあるなら人身事故に切り替える
物損事故として届け出た後でも、けががあれば、人身事故への切り替えを警察に申し出ることができます。
人身事故に切り替われば、通常は警察が実況見分を行って実況見分調書を作るため、証拠が少ない被害者でも事故状況を示しやすくなります。
また、けがの治療費などを相手方の自賠責保険(車の持ち主に加入が義務づけられた保険)に請求するときに国土交通省が示す提出書類の一つは、人身事故の交通事故証明書です。物損事故のままだと追加の書類を求められることがあるため、けががあるなら人身事故に切り替えておくのが確実です。
診断書を早めに警察へ提出する
首や腰の痛みが出てきたら、病院で診察を受けて診断書をもらい、警察署に提出して人身事故への切り替えを申し出てください。
事故から日数が経つと、事故とけがの関係を確かめにくくなり、切り替えを受け付けてもらえないことがあります。診断書を受け取ったら、早めに警察へ提出しましょう。
人身事故へ切り替える手順と、切り替えたほうがよい理由は、次の記事で解説しています。
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人身事故なら警察が実況見分調書を作る
人身事故で通常作られる実況見分調書には、衝突した地点や車の位置、ブレーキの跡などが図面や写真で記録されます。
実況見分調書は、過失割合を話し合うときに保険会社や裁判所が重視する証拠です。
被害者は、相手方の刑事手続き(捜査から刑事裁判まで)の進み具合に応じて、刑事記録の閲覧・謄写(コピー)の手続きで実況見分調書を取り寄せられます。
実況見分調書に事実と違うことが書かれているおそれがある場合の対応は、次の記事で解説しています。
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けがの賠償は修理代より請求しやすい
示談がまとまらずに裁判になった場合、相手方に賠償の責任があることを被害者と相手方のどちらが証明するかは、請求する損害の種類で変わります。
けがの損害は、車の修理代などの物の損害よりも、証拠が少ない被害者にとって請求しやすい仕組みです。
| 請求する損害 | 根拠となる法律 | 証明が必要な側 |
|---|---|---|
| 車の修理代などの物の損害 | 民法709条 | 被害者が、相手方に過失(注意を怠ったこと)があったことを証明する |
| けがの損害(治療費・慰謝料など) | 自動車損害賠償保障法3条 | 相手方が、注意を怠らなかったことなどを証明できなければ責任を負う |
けがの損害では、相手方(会社の車を仕事で運転していたなら会社)が責任を免れるには、車の運行について注意を怠らなかったことなどを、相手方の側が証明しなければなりません(自動車損害賠償保障法=自賠法3条)。
そのため、責任を負うかどうかの点で、証拠が乏しいときに不利になるのは相手方の側です。自賠法3条の責任は、警察への届出が物損事故のままでも変わりません。
示談がまとまるのを待たずに、けがの治療費や慰謝料などを相手方の自賠責保険に直接請求する方法が、被害者請求(自賠法16条1項)です。
自賠責保険は、被害者の過失が7割未満であれば支払額を減らさないため、過失割合が争われている間も、支払基準の範囲(けがの損害は120万円まで)で支払いを受けられます。
ただし、けがの損害でも、事故でけがをしたことと治療にかかった費用などの損害の額は、被害者の側が診断書や領収書で示す必要があり、相手方への賠償の請求では、賠償額をどれだけ減らすかの争いも残ります。
過失割合の争いでは、被害者の過失にあたる事実を証明するのは、修理代の場合と同じく、減額を求める相手方の側です。
証拠がない交通事故で弁護士ができること
物件事故報告書や防犯カメラの映像など、被害者個人では手に入りにくい記録も、弁護士は弁護士会照会を使って提供を求めることができます。
刑事記録の閲覧・謄写の手続きも、弁護士が被害者に代わって進められます。
集めた証拠をもとに事故状況を分析し、相手方の保険会社との交渉や裁判で被害者の言い分を主張するのも、弁護士の役割です。
停車中に追突されたなど、被害者が自分に過失はないと主張する事故では、被害者の保険会社が示談交渉を代行できないため、相手方の保険会社とは被害者本人か弁護士が交渉することになります。保険会社が代わりに交渉できるのは、被害者にも過失があり、相手方の損害の一部を保険で支払う場合に限られるためです。
弁護士会照会で記録を取り寄せる
弁護士会照会は、弁護士が依頼を受けた事件について、所属する弁護士会を通じて、官公庁や企業などに必要な事項の報告を求める制度です(弁護士法23条の2)。
弁護士会が照会の必要性と相当性を審査したうえで照会を行い、照会を受けた官公庁や企業には原則として回答する義務がある、と日本弁護士連合会は説明しています。
交通事故では、弁護士会照会を使って、次のような記録の提供を求めます。
- 物損事故で警察が作成した物件事故報告書
- 事故現場の近くの店舗や施設の防犯カメラの映像
- 事故現場の信号の表示時間(信号サイクル)
ただし、弁護士会照会を使えるのは被害者から事件の依頼を受けた弁護士だけで、照会を受けた官公庁や企業に回答を拒まれることもあります。
取り寄せたい記録があるときは、照会で求められそうかを、相談の段階で弁護士に確かめておきましょう。
刑事記録を取り寄せる
刑事記録を取り寄せられるのは、事故が人身事故として刑事事件になった場合です。
人身事故では、実況見分調書などの記録が刑事事件の記録として検察庁に送られ、被害者が取り寄せられる記録は、刑事手続きの進み具合で次のように変わります。
| 刑事手続きの段階 | 被害者が取り寄せられる記録 | 申し出る先 |
|---|---|---|
| 捜査中 | 原則として閲覧できない | - |
| 不起訴になった | 実況見分調書や写真撮影報告書などの客観的な証拠 | 検察庁 |
| 起訴されて刑事裁判の途中 | 訴訟記録(第1回の公判期日=刑事裁判の最初の審理の日の後) | 事件を審理している裁判所 |
| 判決が確定した | 保管されている訴訟記録 | 保管している検察庁 |
不起訴になった事件の記録について、法務省は、被害者が損害賠償を請求するために必要な場合などに、客観的な証拠の閲覧・謄写(コピー)を認める運用を示しています。
捜査中は原則として記録を見られないため、損傷の写真や相手方とのやり取りなど、被害者が自分で集められる証拠は先にそろえておきましょう。
けが人のいない物損事故は、相手方が建物を壊した場合や当て逃げの場合などを除き、通常は刑事事件として扱われず、刑事記録もありません。
出典元:不起訴事件記録の開示について(法務省)
出典元:犯罪被害者保護制度(裁判所)
交通事故鑑定で事故状況を分析する
交通事故鑑定は、自動車工学などの専門家が、車の損傷や写真、ドライブレコーダーの映像、現場の状況をもとに、衝突の角度や速度、どちらの車が止まっていたかを分析する調査です。
分析の結果は鑑定書や意見書にまとめられ、保険会社との交渉や裁判で証拠として使われます。
ドライブレコーダーも目撃者もない事故では、交通事故鑑定が被害者の説明を裏づける材料になることがあります。
鑑定の費用は依頼先や調べる内容によって変わるため、弁護士は、請求する金額と鑑定の費用、鑑定で示せる見込みを比べて、鑑定を依頼するかどうかを被害者と相談します。
弁護士費用特約があれば費用の負担を抑えられる
弁護士費用特約は、交通事故の被害者が弁護士に相談・依頼する費用を、自動車保険で補償する特約です。
補償の上限は保険会社や契約で異なり、SOMPOダイレクトの例(2026年10月時点)では、弁護士費用等300万円、法律相談・書類作成費用10万円です(いずれも1回の事故・補償を受ける人1名につき)。
けがのない物損事故でも使える場合があり、三井住友海上は、追突されて車が壊れた事故を支払いの例に挙げています。
被害者自身の自動車保険に付いていなくても、同居の家族の契約や、被害者が未婚であれば別居している親の契約に付いている特約を使える場合があります。
弁護士費用特約だけを使った事故は、翌年の等級や保険料に、原則として影響しません。
弁護士費用特約の補償内容と、使うときの注意点は、次の記事で解説しています。
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弁護士に依頼する前に、被害者自身や同居の家族などが加入する保険会社に、弁護士費用特約を使えるかを確かめておきましょう。
弁護士費用特約が使えない場合も、請求できる金額と弁護士費用のどちらが大きくなりそうかは、弁護士への相談で確かめられます。
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交通事故で証拠がないときによくある質問
交通事故で証拠がないときは、過失割合の見通しや裁判、警察への届け出など、手続きの面でも迷う点がいくつもあります。
- 証拠が見つからなかったら過失割合はどうなる?
- 証拠がなくても訴えられる?
- 事故から日にちが経ってから警察に届けても大丈夫?
- 目撃者が見つからないときはどうする?
- 相手が事故状況について嘘をついているときは?
証拠が見つからなかったら過失割合はどうなる?
証拠が見つからない場合も、過失割合は車の損傷と現場の状況をもとに決まります。
相手方が被害者の過失を理由に賠償額を減らすよう求める場合、その事実を証明するのは、原則として減額を求める相手方の側です。
それでも、交渉を進めやすくするために、事故状況の記憶のメモや現場の写真で、被害者の説明を具体的にしておきましょう。
ただし、提示された過失割合にそのまま合意すると、被害者に不利な割合のまま示談がまとまってしまうこともあります。納得できないときは、すぐに合意せず、弁護士に見通しを確かめてから判断しましょう。
証拠がなくても訴えられる?
証拠がそろっていなくても、交通事故の損害賠償を求める裁判を起こすことはできます。
裁判では、被害者と相手方の本人の話(本人尋問)も証拠になり、裁判所は、損傷の状況などの客観的な記録と照らし合わせて、どちらの説明が信用できるかを判断します。
裁判になった後は、被害者は、裁判所を通じて、警察や検察庁、事故現場の施設などに記録の送付を求めることもできます(民事訴訟法226条の文書送付嘱託・186条の調査嘱託)。
示談の段階では手に入らなかった記録が、裁判の中で出てくることもあります。
事故から日にちが経ってから警察に届けても大丈夫?
事故から日にちが経っていても、警察には届け出られます。届け出れば交通事故証明書を受け取れるので、保険金の請求や示談交渉を進めやすくなります。
交通事故に関わった車の運転者には、被害者が運転していた場合も含めて、直ちに警察へ報告する義務があり(道路交通法72条1項)、報告しなかった場合の罰則は3か月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金です(道路交通法119条1項17号)。
届け出が遅れていても、気づいた時点で届け出て、事故の当日に警察を呼ばなかった理由を警察署で正直に説明しましょう。
目撃者が見つからないときはどうする?
目撃者が見つからなくても、防犯カメラの映像や車の損傷、警察の記録など、ほかの証拠で事故状況を示せる場合があります。
目撃者を探すなら、事故と同じ曜日・同じ時間帯に現場へ行き、毎日事故現場の道を通る人や近くの店舗の人に、事故の日に何か見ていないか尋ねてみましょう。
目撃者がいない事故で、信号の色について言い分が食い違っている場合は、事故現場の信号の表示時間(信号サイクル)が手がかりになります。
信号サイクルは、都道府県警察に情報公開請求をすれば開示を受けられる場合があり、埼玉県警察は、信号サイクルの開示請求書の記載例を公開しています。事故現場を管轄する都道府県警察に、開示を請求できるか問い合わせてみてください。
相手が事故状況について嘘をついているときは?
相手方の説明が事実と違うと感じたときは、事故直後の相手方の説明と後日の説明の違いを記録し、損傷の写真や警察の記録などの客観的な証拠で反論しましょう。
相手方の保険会社には、相手方の説明を前提にどの事故の型(過失割合の基本パターン)を当てはめたかを書面で示してもらい、被害者の証拠と食い違う点を具体的に指摘しましょう。
示談交渉を自分の保険会社に任せている場合は、自分の保険会社の担当者に、相手方の保険会社へ同じ確認をしてもらってください。
相手方が根拠のない主張を続けて示談に応じない場合の対処法は、次の記事で解説しています。
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まとめ
ドライブレコーダーや目撃者がない物損事故でも、車の損傷や事故現場の状況は事故の後まで残り、過失割合はそこから推測される事故状況をもとに決まります。
物損事故では、修理代を請求する被害者の側が相手方の過失を示す必要があり、警察の記録も簡単な物件事故報告書だけです。そのぶん、被害者が自分で集める証拠が、事故状況を示す手がかりになります。
事故状況の記憶をメモに残す、防犯カメラの映像の保存を頼む、修理前の損傷を記録する、相手方とのやり取りを残すなど、今日からできることがあります。
過失割合が1割違うだけで手元に残る額は変わるので、保険会社から提示された過失割合に合意する前に、集められる証拠が残っていないかを確かめてみてください。
けががある場合は、人身事故に切り替えれば通常は実況見分調書が作られ、事故状況を示しやすくなります。警察の記録や防犯カメラの映像は、弁護士が弁護士会照会などの手続きを使って提供を求めることもできます。
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