交通事故の示談内容には違約条項は必須?あらゆるケースを想定した示談交渉を
交通事故の示談書は、加害者と被害者が和解し、損害賠償金や慰謝料の金額などを明記した書類です。加害者と被害者が合意した示談条件が書かれた示談書に、双方の署名捺印が行われて示談が成立したと認められます。
示談書は、お互いの合意内容を示していますが、法的に強制執行可能なものではないので、公正証書化して、万が一の場合に備えることになります。
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示談書に書かれた合意内容は確実に履行される?
示談書は私文書なので、定められた損害賠償金や慰謝料の支払いが行われなかった場合の強制執行力は有していません。しかし示談書に記載された内容については、公正証書にしておけば裁判を起こさずに強制執行ができますので、確実に履行されると考えていて良いでしょう。
当該交通事故の当事者双方が公証役場に赴き、公証人に作成を依頼し公正証書としておけば、とりあえず示談内容は確定したものとなります。
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示談内容は、精査を重ねて漏れのないように!
しかし一方で、示談書に書かれていないことは、履行されなくても合意条件に違反したことにはならない、ということに注意が必要です。そのため、示談内容を確定させる前には、十分に内容を精査しなければなりません。
示談書に署名捺印を行う際にも、事前に交渉した内容が漏れなくきっちりと記載されているか確認する必要があります。
損害賠償金や慰謝料の支払い方法も記載しておく
示談書で取り決めた金銭的な補償に関しては、一括で支払われれば問題はありませんが、分割の場合はいつの期日にいくら支払うなどと、詳細まで詰めておくことが重要です。
例えば、以下のような文言が示談書に記載されることになります。
- 1. 甲は、乙に対し金100万円を支払うこととし、これを平成〇〇年○○月末日から同年○○月末日まで合計10回に渡り、毎月末日に金10万円ずつ、乙方に送金して支払う。
- 2. 甲が支払いを一度たりとも怠った時は、乙からの催告を要せずして期限の利益を失い、甲は乙に対し、直ちに残金全額およびこれに対する期限の利益喪失の日の翌日から支払い済みまで年○○パーセントの割合による金員を支払わなければならない。
(甲=加害者、乙=被害者)
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加害者に支払い能力があるのか、確認することも重要
通常、損害賠償金の支払いは分割払いのことが多く、示談を早めに行って後に治療費が確定して改めて金額を伝えて支払う場合などには、揉め事になる場合があります。
保険金ですべてまかなわれる金額ならばまだしも、事故を起こしたことにより加害者の支払い能力も低下していることが考えられるため、分割払いが滞ったりすることも考慮しなければなりません。
示談内容に違約条項などを入れ、支払いの遅延などに備える
最近の交通事故における示談では、交渉から示談書作成まで、そのほとんどを保険会社の担当員が行うケースが多く見られます。したがって、加害者と被害者が直接示談交渉をすることはほとんどなく、ましてや示談書を被害者が自分で作成することも稀になっています。
支払い能力に欠けると思われる場合は、特に注意が必要
加害者が十分な支払い能力を有し、誠実に事故を起こした責任を感じているような人であれば、示談交渉でも揉めることは少ないと考えられます。しかし、加害者の支払い能力が低く、事故を起こした責任を取りたがらない不誠実な人であった場合、示談交渉が難しくなる場合があります。
また任意保険に加入していない場合には、示談交渉を加害者と被害者で直接行わなければならない状態になることもあり、示談書も被害者自ら作る必要があることも知っておきましょう。このような場合には、示談条件をより綿密に作成し、違約条項などを付加して被害者が受け取るべき損害賠償金や慰謝料をより確実なものにすることが必要です。
付け加えるべき条項の具体的な内容は?
示談書の違約条項は、支払いが滞った場合などに対する備えになります。示談書の条件通りに示談金の分割払いや、示談成立後の治療費の支払いが行われなかった場合、加害者に課するペナルティを記すのが一般的です。
条件のつけ方は千差万別ですが、例として挙げるなら、次のようなものです。
- 支払いが一定回数以上滞った場合には、残金を一括で支払うこと
- 支払いが遅れた場合、違約金を加算して支払うこと
交通事故の示談の場合、分割での支払いが2回連続で滞ったら一括払いを請求するという条件が多いようです。また、明らかに加害者に支払い能力がないと見受けられる場合には、支払い能力のある連帯保証人を付けさせるのも良いでしょう。
これらの条件を履行させるためには、示談書を強制執行可能な公正証書にしておくことが必須です。
違約金はどう設定する?
違約条項の設定には、次のような文言を示談書に記載します。
- 上の支払いを怠った場合は違約金○○円を、示談金○○円に付加して支払う
この場合、違約金の金利をどう設定し、加害者側にどう説明し納得を得て示談を成立させるかは、専門的な話になり、交渉も難しくなると予想されます。
示談において違約金を設定する場合は、経験を重ねた弁護士などの専門家からアドバイスを受けた方が良いでしょう。
示談書には、被害者の権利放棄条項も記載される
示談書には、加害者が被害者に支払うべき損害賠償金や慰謝料が記載されますが、一方で、事故の件については今後一切請求しない旨の、被害者の権利放棄条項も記載されます。
具体的には、示談内容に続き、次のような文言が加えられます。
- 上記に定めるほか、甲・乙間には何ら権利・義務のないことを確認し、今後裁判上、裁判外を問わず、一切の異議申し立て、請求および訴追等を行いません
(甲=加害者、乙=被害者)
さまざまなケースを想定し、条項を確認すること
これは、示談によって確定された補償内容以上の請求はしないという被害者側の宣言になりますので、示談書に記名捺印を行う際には、記載内容に漏れがないように精査しましょう。
加害者が示談を急いできた時、事故対応や交渉に誠実に応じてきた相手の心情を斟酌し、後遺障害の症状固定前に示談に応じることもあります。その場合には、示談内容に次のような文言を加えておきます。
- 本件事故による後遺障害が生じた時は、別途甲・乙で協議する
この条項がないと、新たに判明した後遺障害についての損害賠償金や慰謝料を受け取れなくなる場合があります。交通事故による怪我の治療が続いている場合にも、示談後の治療費の扱いについて、しっかりと具体的に定めておきましょう。
判例では、示談後に判明した後遺障害への賠償請求が認められている
示談後は、示談内容以上の損害賠償は求められないという原則がありますが、示談の際に予期できなかった後遺障害が発生した場合は、その限りではありません。
交通事故の後遺障害についての判例で、次のようなものがあります。
「…このように、全損害を正確に把握し難い状況のもとにおいて、早急に少額の賠償金をもって満足する旨の示談がされた場合においては、示談によって被害者が放棄した損害賠償請求権は、示談当時予想していた損害についてのもののみと解すべきであって、その当時予想できなかった不測の再手術や後遺症がその後発生した場合その損害についてまで、賠償請求権を放棄した趣旨と解するのは当事者の合理的意思に合致するものとはいえない。」
(昭和43年3月15日最高裁判例より抜粋)
しかしながら、示談内容にない請求を行うのは簡単ではありません。
示談書を被害者自身で作成する際には、弁護士などの専門家に相談するべきでしょう。
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