交通事故の示談交渉はいつ開始する?適切なタイミングとは?

症状固定交通事故が起こると、たいていの場合はいずれかの段階で加害者と被害者が示談交渉を開始します。
いつ示談交渉を始めていつ成立させれば被害者にとってベストなのかは、事故の状況や被害によって異なりますが、全般的に言えるのは、「焦らずにゆっくりと進めるのが良い」ということです。

交通事故発生から示談交渉、成立までの流れ

交通事故でケガをした場合、交通事故の発生から示談交渉までの基本的な流れは以下の通りです。

  1. 交通事故発生
  2. 初期対応(けが人の救護・警察への通報~実況見分の実施・加害者の身元確認・連絡先交換・写真撮影など現場の証拠保全など)
  3. 怪我の治療(入院・通院)
  4. 治療完了(後遺障害が残った場合:症状固定)
  5. 後遺障害が残った場合:後遺障害等級認定の申請
  6. 後遺障害の認定結果 到着(結果に不満な場合、異議申し立て~再認定の申請)
  7. 示談交渉を開始
  8. 示談交渉の成立(決裂した場合、調停・ADR・訴訟へ)

交通事故が発生したら、まずけが人を救護しなければなりません。次に警察に通報し、示談の交渉相手となる加害者の身元を確認しましょう。警察は、加害者と被害者双方への聴取や現場状況から、事故の状況を記録して「実況見分調書」を作成します。事故の相手との連絡先交換、現場の証拠保存(写真撮影など)も行っておくとよいでしょう。

任意保険に加入しているなら、早めに保険会社へも通知してください。

怪我の場合は、治療終了が示談開始の時期

怪我をしていたら入院もしくは通院にて治療を行い、治療が完了したところで損害賠償額が確定します。被害者に後遺障害が残った場合は、症状がこれ以上変わらないという時点で「症状固定」となります。「後遺障害診断書」を医師に作成してもらって後遺障害等級認定の手続きを進めましょう。

後遺障害の認定結果がでたら、相手方と示談交渉を開始します。
示談交渉が成立すれば、示談内容の通り被害者は加害者から損害賠償金や慰謝料を受け取ります。示談交渉が決裂すれば、交通事故紛争処理センターなどの紛争処理機関、または調停や裁判へ進める必要があります。

示談交渉は、事故後すぐ始めることも可能

軽度の物損事故の場合、見知らぬ相手との交渉はその場限りにして、一刻も早く示談を終わらせて立ち去りたいという気持ちは分からないでもありません。

しかし、怪我がないように感じられてもむち打ちなどの症状が後日はっきりするケースもあります。車両に目立った傷がないように見えても、後で小さな傷に気づく可能性も考えられるでしょう。
そもそも警察への報告は道路交通法によってドライバーに課される義務ですから、通報せずに立ち去るのは違法行為です。

きちんと警察に通報し交通事故証明書を入手できるようにしておきましょう。
痛みがあるなら通院し、後日改めて示談交渉を開始するのが正しい流れです。

またその場での口約束やメモ書き程度でも示談が終了したとみなされる可能性があるので、安易な書面作成はしないよう注意してください。

死亡事故の場合も、事故後すぐに開始できる

被害者が亡くなってしまった死亡事故の場合、死亡が確認された時点で損失が確定するので、示談交渉を始められる状態になります。

しかし、死亡事故を起こしてしまった加害者側のショック、大切な人を失ってしまった遺族の悲しみや喪失感の中で、すぐに示談交渉を始めるのは常識外れともいえるでしょう。そこで損害賠償金額に含まれるべき被害者の葬儀費用がほぼ確定される「四十九日法要が終わった頃」に、示談交渉を始めるのが一般的です。

示談交渉のプロである保険会社の担当員も、この慣例や心情を理解しているはずですので、通常は被害者がアクションをとらなくても自然なタイミングで示談交渉が開始されるでしょう。

傷害を負った場合、示談交渉開始のタイミングは慎重に!

被害者が傷害を負った場合の示談交渉の際、急ぐと請求できるはずの損害賠償金も請求できなく場合があるので注意が必要です。後遺障害が残ってしまったのに損害賠償金や慰謝料が受け取れないこともあり得るので注意しましょう。

傷害の場合は、怪我が完治してから交渉を開始すること!

被害者が加害者に請求する損害賠償金には、交通事故で負った怪我の入院費や治療費はもちろん、通院にかかった交通費なども含まれます。怪我が完治し治療が終了するまでは損害賠償金額が確定しないので、しっかりと怪我を治してから示談交渉を始めましょう。完治前に通院を打ち切ると、きちんと治療を受けられないばかりか、休業損害や慰謝料も減額されてしまいます。

怪我が完治するまで通院を続ける

きちんと賠償金を受け取るには、事故直後に病院に行き交通事故による怪我であることを診断書に記載してもらうことと、仕事が忙しくなっても途中で途切れさせずに通院することが重要です。もし完治する前に通院を辞めてしまったら賠償金を大きく減額される可能性がありますし、本当にその怪我が交通事故によるものかどうかさえ疑われてしまうこともあります。

後遺障害が残った場合は、症状固定のタイミングで示談交渉開始

被害者に後遺症が残る事案で示談交渉を始めるのは「症状固定」した時期が最適です。

この点、怪我の治療が長引くと、交渉相手となる加害者側の保険会社担当員から、示談交渉を急ぎたいという連絡が入ることが多いので注意してください。

安易に治療を打ち切ってはなりません。怪我の治療を続け、「これ以上治療しても回復の見込みがないという時点(症状固定時)に医師と相談し治療を終了し、後遺障害診断書を作成してもらって後遺障害等級認定の手続きを進めましょう。

そのときまでは、保険会社から治療打ち切りを打診されても示談交渉を始めるべきではありません。

一般的には事故後6カ月程度で症状固定

医者慌てて示談を成立させてしまうと、示談が成立した後に後遺障害が発覚したときに損害賠償の対象外になってしまう可能性が高くなります。
事故後の後遺障害が確定され、医者から症状固定を言い渡されるのは一般的に事故から6カ月以上が経過してからとなります。

医師が「症状固定」と判断した時期が示談交渉を始めるタイミングと考えて良いでしょう。ただし損害賠償請求権には時効がありますので、通院期間が長引きそうな場合には債務承認や裁判などの時効更新措置が必要となる可能性があります。

保険会社、被害者との駆け引きを上手に進める方法

加害者側の立場として示談交渉を行うのは、多くの場合本人ではなく、加害者が加入している保険会社の示談交渉担当員です。

保険会社の担当員は、示談交渉を急ぎたがる傾向があります。数多く抱える示談の案件をスピーディに処理したいニーズがあり、早く示談を成立させた方が支払う保険料が安く済む可能性もあるためです。

しかし被害者がそのペースに乗ってしまうと、後から後遺障害が明らかになっても損害賠償金を請求できなくなる可能性がありますし、入通院慰謝料などの賠償金も減らされてしまうデメリットがあります。

加害者側から示談交渉を急かされたら「症状固定してから示談交渉を行います」とはっきり言いましょう。示談は被害者と加害者双方の合意がないと成立しませんから、断るのは当然の権利と考えてかまいません。

示談が成立しないと加害者が裁判で不利な判決が出しまう?

加害者が交通事故に関して刑事訴追されている場合、被害者との示談が成立していないと裁判で罪が重くなるために決着を急ぐケースも少なくありません。症状固定までは一般的に6カ月程度かかりますから、その頃には余程複雑な裁判でない限り判決が出てしまっていることになります。

刑事裁判で被告人の量刑を決める場合、被害者との和解(示談)が成立しているか否かというのは重要なポイントで、保険会社よりも加害者本人が一刻も早い示談成立を望んでいるものです。

嘆願書を提出して、示談交渉開始を慌てさせない

加害者が事故後の対応を誠実に行っていて厳罰を望んでいないとしても、症状固定までは、加害者の刑罰のことを考えてまで示談を急ぐ必要はありません。加害者の刑罰を軽くしてあげたいなら、裁判所宛てに加害者の減刑を求める嘆願書を提出しましょう。

裁判長に対して、「まだ和解は成立していませんが、被告人に対する処罰感情は持っていません。寛大な判決をお願いします」という趣旨の文章を出せば、交通事故の場合は示談が成立していなくても、加害者の情状がよくなります。

しかし嘆願書は求められたからといって必ず書かなくてはいけないものではありません。書くか書かないかは、それまで加害者が誠意を尽くして対応してくれたかなどを考え、ご自身で判断してみてください。

権利ばかり主張せず、総合的に判断した方が良い場合も

被害者の立場からすれば、示談は急いではいけません

これは鉄則です。

ただし加害者への重い刑罰を望んでいるわけではなく、怪我や後遺障害に見合った賠償責任を果たして欲しいだけであれば、加害者を刑務所に入れるより働いてきちんと賠償金を払ってもらった方が良いという考え方もできます。
加害者が話の通じる人であれば、嘆願書を出してあげることによって信頼感が生まれ、スムーズに示談に応じて賠償金を支払う気持ちになるかもしれません(ただし人によって考え方が異なります。必ずしもそうとはいえないため、状況に応じた判断が必要です)。

このように、ときには嘆願書を出すことによって示談交渉を被害者側に有利に進められる可能性もあるので、心の片隅においておくとよいでしょう。

対応に迷ったときには交通事故に詳しい弁護士に相談してみてください。

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