交通事故加害者への処罰。起訴されても略式命令に終わる可能性も

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佐藤 學(元裁判官、元公証人、元法科大学院教授)

判決

交通事故の加害者に対する処罰は、統計的に見ても、必ず厳罰が科されるとは言えない状況です。

加害者の起訴(公訴提起)は、被害者など私人が行うことはできず、公訴権を持っている検察官だけができるのです。

重大事故においては、当然公判の裁判が行われ厳罰が科されますが、「加害者に謝罪の意思がない」とか「誠意が見られない」という理由だけでは、被害者の望む刑罰が加害者に科されるとは限りません。

刑事手続きにおいて起訴されても、加害者に重い罰が下るとは限らない

交通事故に遭って、事故以前の生活や仕事が失われたり、不便を強いられたりすることになった被害者の感情としては、損害賠償だけではなく、加害者に重い刑事罰を望むこともあるでしょう。

特に、損害賠償のお金だけで片付けてしまい、謝罪の気持ちも示さず、悔悟の念も全く感じられない加害者に対して、強い処罰感情が沸き上がるのは当然のことです。

多くのケースでは執行猶予付き判決 又は 略式手続きで終わる

しかし、実際の刑事手続きでは、加害者がひき逃げをした、あるいは飲酒運転をした末に事故を起こしたなど、よほど悪質な違反をして事故を起こさない限り、後述の危険運転致死傷罪の場合を除き、起訴されても、下記の通り執行猶予付き判決で終わるか、あるいは、後述するように、略式手続きで罰金で終わってしまうケースが多いのです。したがって、刑事手続きにおいて起訴されても、加害者に重い罰が下るとは限りません。

令和7年版犯罪白書(令和6年の統計。以下「犯罪白書」といいます)によれば、通常第一審における自動車運転死傷処罰法違反の罪の科刑状況は、判決総数が4,744人で、うち実刑が240人(一部執行猶予1人を含みます。実刑率5.1%)、全部執行猶予が4,504人(全部執行猶予率94.9%)となっています(同白書の「2-3-3-3表 通常第一審における有期刑(懲役・禁錮)科刑状況」参照)。

危険運転致死傷罪は別として、後述の過失運転致死傷等の罪では、一般的に、加害者に拘禁刑(執行猶予を含みます)の前科がある場合、加害者の出捐による見舞金や被害弁償がなされていない場合、結果が重大(被害者死亡、被害者に重篤な後遺症、負傷者が2人以上など)である場合には、実刑判断の傾向にあり、他方で、加害者側が誠意をもって謝罪・慰謝の措置をとり、それを受けて被害者側が宥恕・寛大な刑を求めている場合(厳罰までは求めていないような場合も含みます)には、執行猶予判断の傾向にあるようです(「量刑の数量化基準に関する基礎的研究―自動車の致死傷事件の判決を素材として―(研究代表者・柴田守)」参照)。

また、検察官は、交通事故事件について、

  • 加害者の過失の内容、被害者の人数
  • 被害者の過失の有無・程度
  • 被害者の死傷の別及び傷害の治療期間
  • 被害者の後遺症の有無・程度
  • 加害者の運転車両の種類
  • 事故の場所
  • 物損事故の有無
  • 事故時の被害者の行動
  • 加害者の道交法違反の有無・内容
  • 加害者の行政処分歴及び前科・前歴
  • 被害者感情
  • 示談の状況

などを検討し、公判請求、略式命令請求、あるいは起訴猶予のいずれとするかを決めているようです(平成5年版犯罪白書「第4編/第3章/第3節2検察官による刑事処分決定に影響を及ぼす主要な因子」参照)。

そこで、交通事故の加害者に対する刑事手続きについて見てみましょう。
※なお、本記事でいう「起訴」は、自動車運転死傷処罰法違反の罪のうち、後述の危険運転致死傷罪を除いた罪、すなわち後述の過失運転致死傷等の罪の起訴の趣旨で用いています。

起訴されても略式手続きで罰金に

交通事故の加害者は、危険運転致死傷罪を除き、刑事手続きにおいて起訴されることは少ないとされています。

危険運転致死傷と過失運転致死傷等の処理状況(令和6年)

犯罪白書によれば、危険運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法(以下「法」といいます)2条・3条・6条1項2項に規定する罪)の検察庁終局処理人員592人について、起訴総数413人(全体の69.8%)、不起訴総数130人(全体の21.9%。起訴猶予29人、その他101人)、家庭裁判所送致49人(全体の8.3%)、起訴率76.1%となっています(同白書の「資料2-2 検察庁終局処理人員(罪名別)」参照)。

他方、犯罪白書によれば、過失運転致死傷等の罪(法4条・5条・6条3項4項に規定する罪。旧刑法の自動車運転過失致死傷等の罪を含みます)の検察庁終局処理人員27万4,841人について、起訴総数4万1,155人(15.0%)、うち公判請求4,872人(起訴総数の11.8%)、略式命令請求3万6,283人(起訴総数の88.2%)、不起訴総数22万7,144人(全体の82.6%。起訴猶予21万9,509人、その他7,635人)、家庭裁判所送致6,542人(全体の2.4%)、起訴率15.3%となっています(同白書の「資料2-2 検察庁終局処理人員(罪名別)」参照)。

このように、起訴されたとしても、略式命令請求が多く、その請求を受けて、必然裁判所も略式命令を発することになり、略式手続きで罰金で終わってしまうことが多いのが実情です。

以下で、略式手続きについて、詳しく見てみましょう。

正式な裁判なし・書面審理のみの略式手続き

簡易裁判所は、検察官の請求により、その管轄に属する事件について、公判前、略式命令で、100万円以下の罰金又は科料を科することができます(刑訴法461条)。

検察官は、交通事故事件であれば、上述した「刑事処分決定に影響を及ぼす主要な因子」を検討し、加害者に100万円以下の罰金を科するのが相当と判断した場合には、刑訴法の定める公判手続きによらず、簡易裁判所に対し、公訴の提起と同時に、書面で、略式命令の請求をすることができます(刑訴法462条1項)。そして、検察官が公訴を提起し略式命令を請求するときは、起訴状によるとされています(事件事務規程67条1項参照)。

略式命令を発する裁判は、書面審理のみで行われ、これを略式手続きといいます。

交通事故事件の場合ですと、加害者が逮捕されない在宅捜査になることが多いので、手続きがゆっくり進むことが多いのも特徴です。

略式命令の請求は、以下の流れで行われます(刑訴法461条の2・462条2項、刑訴規則288条・289条)。

  1. 検察官が、加害者に出頭を求め、起訴前に加害者に対し略式手続きの内容について説明する(刑訴法461条の2第1項)
  2. 通常の手続きで審判を受けることができる旨を告げた上、略式手続きによることに異議がないかどうかを確認する
  3. 加害者作成の異議がないことを示す書面を起訴状に添付する
  4. 証拠書類・証拠物とともに簡易裁判所に提出する

検察官は、起訴状に科刑意見書及び略式手続きの告知手続書を添付します(事件事務規程67条3項参照)。

請求を受けた簡易裁判所は、書面審理のみで判断し、請求のあった日から14日以内に略式命令を発し、略式命令書の謄本を加害者(被告人)に送達します(刑訴規則290条1項・34条本文)。

ただし、以下のような事由があるときは、職権で通常の公判手続きに回さなければなりません(刑訴法463条1項・2項)。

  • 略式命令のできない場合(例えば、罰金・科料の定めのない事件)
  • 検察官が略式手続きの説明を怠ったり、同意書を添付していない場合及び裁判所が公開の法廷で審理することが相当であると認めた場合(例えば、事案が複雑であるとき、証人調べを必要と考えるとき)

なお、略式命令を受けた加害者(被告人)は、内容に不服があればもちろん、特に不服がなくても公判審理を受けることを希望する場合は、告知を受けた日から14日以内に、書面で正式裁判の請求をすることができます(検察官も正式裁判の請求ができます。刑訴法465条1項)。

適法な正式裁判の請求があると、事件は通常の手続きに移行し、通常の公判手続きに従って、起訴状の朗読から審理が開始されることになります(刑訴法468条2項)。

略式手続きが終了したら、事件の処理は終了

略式手続きが終了した場合、加害者への刑罰は罰金程度じゃ納得できないと被害者が考えても、どうにもなりません。

被害者に謝意も示さず、反省の色も感じられない加害者に科された刑罰が、100万円以下の罰金程度では生ぬるいと思う被害者は当然いるでしょう。

しかし、略式命令が発せられ、仮納付の裁判があった場合は、直ちにその裁判を執行して加害者(被告人)に罰金を仮納付させ、罰金の裁判(略式命令)が確定すれば、本当に当該事件(交通事故事件の刑事手続き)は終わりになります。

一事不再理というルール

その理由は、日本の刑事訴訟法上で、特定の刑事事件について有罪あるいは無罪の判決、又は免訴の判決が言い渡されて確定した場合、同一の事件について再び公訴を提起することができないという、一事不再理というルールがあるためです。

簡単に言えば、刑事訴訟においては裁判で判決が確定した事件を、もう一度審理することはできないということです。

略式手続きは、被告人が公判に出頭することなく、非公開の書面審理で簡易・迅速に処理するための刑事手続きですが、そこで発せられた略式命令は、普通に裁判を行って審理した結果言い渡された判決と同じものになります。

そのため、略式命令の内容が、被害者にとって納得のいかない軽いものであっても、同じ事件で同じ加害者を再度公訴提起(起訴)することはできないのです。

刑事訴訟では被告人にも検察官にも上訴権が認められる

刑事訴訟においては、公訴権は検察官にしかありません。
検察官は、刑事手続きにおいて、十分な捜査を行い、被疑者を有罪とできる証拠が揃ったと判断して公訴を提起(起訴)するのです。

しかし、言い渡された判決に不服がある場合は、被告人のみならず、検察官も上訴(控訴・上告)することができます。

実際の裁判が行われるのはどういうケース?

前述の通り、交通事故においてはすべての事故において刑事裁判が行われることはありません。

そして、起訴され刑事手続きが進められるとしても、上述の通り、略式手続きで終了してしまうケースが多いのが実情です。

実際の裁判が行われるケースは?

一方で、ひき逃げ事件はもちろん、飲酒運転、過度なスピード違反などで重大な交通事故を起こした場合には、拘禁刑が言い渡される可能性が高いため、公判が開かれる可能性が高いと言えます。

公判で有罪の判決が言い渡されれば、一生消えない前科がつきます。
拘禁刑の実刑判決が言い渡されたならば、刑務所で長い時間を過ごすことになるのです。

※令和7年6月1日施行の改正刑法により、従来の「懲役」と「禁錮」は廃止され、新たに創設された「拘禁刑」に一本化されました。本記事の刑罰もすべて拘禁刑で表記しています。

厳罰化の傾向が強まる交通事故の処罰

悪質、重大な事故については起訴され刑事裁判が行われますが、近年、交通事故の加害者に対しては厳罰化の傾向が強まっていることに注目が集まっています。

平成25年11月、自動車の運転による死傷事件に対して、運転の悪質性や危険性等の実態に応じた処罰ができるようにするため、自動車運転死傷処罰法が成立し、平成26年5月に施行されました。

この法律において、以下のような変更が行われました。

  1. 従来の危険運転致死傷罪が刑法から移されて規定されるとともに(当時の2条1号~5号)、危険運転致死傷罪の新たな類型として、通行禁止道路において重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転して人を死傷させた場合が追加され(当時の2条6号)
  2. アルコール、薬物又は病気の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転し、アルコール等の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた場合について、従来の危険運転致死傷罪より刑の軽い、新たな危険運転致死傷罪として新設されました(3条)。
  3. 従来の自動車運転過失致死傷罪が刑法から移されて過失運転致死傷罪として規定されるとともに(5条)
  4. アルコール又は薬物の影響で正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転して過失により人を死傷させ、その運転のときのアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる行為をした場合について、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪として新設され(4条)
  5. 危険運転致死傷罪、過失運転致死傷罪及び過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪を犯したときに無免許運転であったときは、刑を加重する規定が新設されました(6条)。

そして、令和2年6月、いわゆるあおり運転に関する規定が、危険運転致死傷罪の新たな類型として追加され(当時の2条5号・6号)、同年7月に施行されました。

さらに、令和8年6月25日、後述する通り、飲酒類型(数値基準)、高速度類型、殊更滑走等類型に関する規定が、危険運転致死傷罪の新たな類型として改正(2条1号)、追加され(2条4号・6号)、同年7月21日から施行されています。

自動車(自動二輪と原動機付自転車も含みます)の運転により起こした死傷事故に関し、罪名、罰条、刑罰の関係は、下記表の通りです。

自動車運転死傷処罰法の罪名・罰条・刑罰
罪名 罰条 刑罰
危険運転致死傷 法2条 人を負傷させた場合:15年以下の拘禁刑
人を死亡させた場合:1年以上の有期拘禁刑
危険運転致死傷 法3条 人を負傷させた場合:12年以下の拘禁刑
人を死亡させた場合:15年以下の拘禁刑
過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱 法4条 12年以下の拘禁刑
過失運転致死傷 法5条 7年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金(ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる)
無免許運転による加重 法6条 1項 人を負傷させた場合:6月以上の有期拘禁刑
2項 人を負傷させた場合:15年以下の拘禁刑
人を死亡させた場合:6月以上の有期拘禁刑
3項 15年以下の拘禁刑
4項 10年以下の拘禁刑

危険運転致死傷罪(法2条・3条)で起訴する場合は、略式手続きで行われることはなく、公判請求のみですので、加害者は公判裁判で刑罰が科されることになります。

令和8年7月の法改正で危険運転の要件に数値基準が入った

危険運転致死傷罪は、「正常な運転が困難な状態」などの要件の判断が難しく、適用されるかどうかが事件ごとに分かれることが問題視されていました。そこで令和8年7月21日施行の改正自動車運転死傷処罰法により、次の見直しが行われています。

  • 飲酒類型:呼気1リットルにつき0.5ミリグラム以上(血液1ミリリットルにつき1.0ミリグラム以上)のアルコールを保有する状態での走行は、一律に対象となる
  • 高速度類型:最高速度が時速60キロメートル以下の道路では最高速度を時速50キロメートル超える速度以上、時速60キロメートルを超える道路では時速60キロメートル超える速度以上での運転は、一律に対象となる
  • 殊更滑走等類型:車体を横滑りさせながらカーブを曲がる、二輪車の前輪を浮かせて走るといった行為が新たに対象に加わった

数値基準に届かない場合でも処罰されないわけではなく、個別の事情によっては危険運転致死傷罪が成立し得ますし、成立しない場合でも過失運転致死傷罪や道路交通法違反の罪に問われます。

参考:法務省「危険運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法)の法改正Q&A」

早めに全力で動くことが重要

刑事手続きにおいては、検察官が略式命令を請求する前に、全力で動くしかありません。

略式手続きが行われる前、被疑者(交通事故の加害者)を公判の法廷で裁判を受けさせるには、検察官が略式命令を請求する前に、上申書などを送ったり、直接担当検察官に面会を求めたりして、被害者の立場から加害者の公判請求を訴えることが必要となります。

弁護士の力を借りて、できることはすべて行うこと

一般的な刑事事件で被疑者が逮捕された場合、事件の内容によっては、身柄拘束中のまま、略式命令の謄本が被告人に送達されたときに釈放手続きがとられます。

しかし、幸いにも、多くの交通事故事件の場合は、在宅捜査となりますので、刑事手続きはそれほど迅速には進みません。

交通死亡事故でも、略式命令の請求まで1年近くかかった例もあるようです。

加害者に対して強い処罰感情を抱いている場合、刑事手続きがまだ進んでいなければ、検察官に公判請求を願い出るという方法があります。

しかし、加害者を罰したいという処罰感情だけでは、検察官は動いてくれません。

弁護士の力を借りて、法律的に正しい方法で訴えるしかありません。

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