むちうち症の原因と症状が出たときの注意点
- 監修記事
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佐藤 學(元裁判官、元公証人、元法科大学院教授)
交通事故でむちうち症になった場合、すぐには症状があらわれないこともよくありますので、事故直後に病院に行き診察を受けておくことが大切です。また、自覚症状しか認められないケースでは、後遺障害等級認定が否定されやすいですし、他覚症状がある場合であっても、後遺障害等級認定の証明方法には難しい点があります。むちうち症で適切に後遺障害等級認定を受けて必要な補償を受けるため、弁護士のサポートを受けましょう。
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(注)本ページを読まれる前に
本ページに記載している症状や治療法は、一般的な知識として覚えておいた方が良いというもので、症状によって自分で判断を行うことや、記載した治療をおすすめするものではありません。必ず医師の診察を受け、適切な治療や検査を受けてください。
目次[非表示]
むちうち症の典型的な症状
むちうち症(頸椎捻挫)になったときの典型的な症状をご紹介します。
よくある症状
以下のような症状が多いようです。
- 首の疼痛
- 肩や後頭部、肩甲骨周辺の疼痛
- 肩や背中のコリ
- 腕や手の疼痛、しびれ感、筋力の弱化
- 首の可動域の制限(回旋運動、上下運動をしにくくなる)
バレ・リュー症候群になった場合
頸椎を損傷した場合の中でも、交感神経に異常が生じ「バレ・リュー症候群」となった場合には、以下のような症状も出ることがあります。
- 頭痛、頭重感
- めまい
- 耳鳴り、難聴
- 眼精疲労、視力障害、流涙
- 首の違和感
- 摩擦音
- 疲れやすい
- 血圧低下
交通事故後、上記のような症状が出てきたら「頸椎捻挫」や「バレ・リュー症候群」ではないかと疑ってください。
むちうち症の治療方法
むちうち症(頸椎捻挫)になったときの治療方法は基本的に保存療法であり、外科手術は行いません。
以下のような方法が有効です。
受傷直後は首を動かさずに固定
受傷直後は、なるべく首を動かさずに固定します。「頸椎カラー」という固定具を装着するケースもあります。ただ、症状が強い間は有効ですが、逆に長い間つけすぎても頸椎の痛みや肩こりが長期化する原因となることがあると言われています。
薬剤の投与
痛みが強い場合には、消炎剤や鎮痛剤を投与したり、シップを貼って対応したりすることがあります。鎮痛剤はNSAIDs(ロキソプロフェンナトリウム・セレコキシブなど)と言われる炎症を抑える薬が処方されることが多いとされます。筋肉が緊張している場合には筋弛緩剤、被害者が精神的に不安定になっているケースでは精神安定剤が処方される例も見られます。
注射
痛みが特に強いケースや、損傷が交感神経に及んでいるバレ・リュー症候群の場合などには、局所的に注射をすることで症状を抑えることもあります。バレ・リュー症候群に有効とされる注射は「星状神経節ブロック」と呼ばれる神経ブロック注射です。これは、頸の交感神経のある部分に麻酔薬を入れることで交感神経の働きを抑える方法です。
温熱療法
患部を温めて血行を良くすることにより、症状の改善を目指します。
運動療法、牽引
症状が落ち着いてきたら、頸部を動かして運動療法をしたり、頸部を引っ張る牽引を行ったりしてリハビリを実施します。
マッサージ、鍼灸
症状が慢性的になってくると、整骨院や接骨院におけるマッサージや手技療法、鍼灸などによって改善を目指すケースもあります。
むちうち症になったときの注意点
交通事故でむちうち症(頸椎捻挫)となったときには、以下のようなことに注意が必要です。
すぐには症状が出ないことがある
むちうち症(頸椎捻挫)となった場合、受傷直後は症状が出ないことが多いです。受傷後2~3日が経過してから痛みやしびれを自覚するケースもあります。
そこで追突事故などに遭って首に衝撃を受けたら、自覚症状がなくても一度病院に行き、受診しておくべきです。受診時に異常を確認できず、その後も症状が出なければそのままにして良いですし、もしも数日が経過して症状が出てきたら、継続的に通院して治療を受ける必要があります。
事故後、通院しないで放置すると、後にむち打ち症の辛い症状が出てきても、治療費も慰謝料も支払われず後遺障害等級認定も受けられなくなります。頸椎損傷になった可能性があるならば、交通事故直後(その日か翌日中)に整形外科に行くことが大切です。
通院期間が長くなりやすい
むちうち症には、通院期間が長くなりやすい問題があります。一般的に通院中の治療費は加害者の保険会社が負担するので被害者が窓口で直接払いしなくて良いことが多いのですが、治療期間が長引くと相手が治療費支払いを打ち切ってくることがあります。
治療費を打ち切られたとしても、治療が必要な状態であれば通院をやめてはいけません。自分の健康保険を使ったりして通院治療を継続しましょう。
MRI画像などで証明できないケースがある
交通事故でむちうち症となり治療を受けても完治しなければ、後遺障害認定を受けられます。しかしむちうちの場合、MRIやレントゲンなどの画像によって症状を証明できないケースが多いのです。そうすると、症状があるかどうか定かではないとして、後遺障害の等級認定が「非該当」とされてしまい、慰謝料や逸失利益を支払ってもらえません。
画像によって証明できない場合には、自覚症状に合致する症状を推定させることで「14級」の後遺障害認定を受けられる可能性がありますが、そのためには立証に工夫が必要となります。
頸椎損傷の分類
頸椎捻挫は頸椎に損傷を受ける「頸椎損傷」の1種ですが、頸椎損傷にはいくつかの分類があるので、確認しましょう。
軽度の「頸椎捻転」
頸椎捻挫が軽度な場合には「頸椎捻転」と診断されることもあります。
頸椎捻転とは、頸椎周辺の組織が一瞬衝撃を受けてねじれたり引き伸ばされたりしても、すぐに元の状態に戻り、組織が損傷せずに炎症だけが残った状態です。症状は頸椎捻挫と同様、首や肩の痛み、肩こりなどですが、炎症が落ち着いたら症状が治まるので、治癒が早く後遺症も残りにくいです。
一般的な「頸椎捻挫」
交通事故でむちうち症となったときに最も多い「頸椎捻挫」は、外部からの衝撃によって頸椎周辺の筋肉やじん帯などの軟体組織が損傷を受けてしまう症状です。炎症のみならず組織が損傷を受けているので、頸椎捻転と異なります。
MRIなどの画像によって他覚的所見を確認できるケースと確認できないケースがあります。どちらの場合にも、治療を施しても完治せず、後遺症が残る可能性のある症状です。
神経が損傷を受ける「根症状型」
頸椎損傷の中でも、損傷が神経に及ぶと「根症状型」あるいは「神経根障害」となります。頸椎は7つの骨が積み重なってできていますが、これらの骨が交通事故で衝撃を受けると元の位置からずれてしまうことがあります。すると、頸椎の中を走っている神経が圧迫されたり引き伸ばされたりして、損傷を受け、根症状型の頸椎損傷となります。
神経が損傷すると、正常な神経伝達が阻害されるので、さまざまな症状が出ます。
症状の一例
- 首や手足の痛みや痺れ
- 筋力の低下
- だるさ
- 後頭部の痛み
- 顔面痛
これらの症状は、咳やくしゃみ、首を横に曲げる・回す、首や肩を引っ張った時に強まる傾向があります。
損傷が神経にまで及ぶケースでは、完治させることが難しく、後遺症も残りやすいです。
交換神経に影響が及ぶ「バレ・リユー症候群」
頸椎が損傷を受けたとき「バレ・リュー症候群」(後部交感神経症候群)となるケースがあります。フランスの医師であるバレ(Barre)とその門下であるリュー(Lieou)が症例を報告したので、この名称がついています。
バレ・リュー症候群の原因は、頸椎の損傷が「交感神経」に及んでいることです。症状は「根症状型」に似ていますが、交感神経に損傷を受けるので、症状が全身に広がりやすいのが特徴です。
交感神経は自律神経の1種であり、血液やリンパ液の循環や体温管理などの人間の基本的な生体反応や働きを司っています。ダメージを受けると、耳鳴りや難聴、不眠や全身の倦怠感など、頸椎の損傷とは一見直接関係のなさそうな症状が出ることが多く、目のかすみや流涙、動悸や発汗なども見られます。
診断や治療が難しい症状ですが、交感神経をブロックする「星状神経節ブロック」という注射が有効なケースもあります。バレ・リュー症候群が疑われるなら一度「ペインクリニック」を受診して相談してみると良いでしょう。
最も重い症状が出る脊髄損傷型
もはや頸椎捻挫とはかけ離れた症状となりますが、損傷が中枢神経にまで及ぶ「脊髄損傷型」の症例があります。脊髄は脳から背骨に続く中枢神経であり、脊椎(背骨)の中の脊髄腔を通っています。中枢神経は全身の運動神経や感覚神経を司っているので、頸椎損傷が中枢神経まで及ぶと、手足の麻痺や知覚障害、歩行障害などが起こります。膀胱や直腸の障害が起こり、排便・排尿に支障をきたすケースも多いです。
ただ、交通事故の通常の頸椎捻挫やむちうちで、ここまでの症状となることは稀です。
むちうち症(頸椎捻挫)で通院するときの注意点
以下では、むち打ち症で後遺障害認定を受けるために必要な注意点を示していきます。
症状の証明方法
頸椎捻挫で後遺障害等級認定を受けるには、後遺障害に該当する症状を証明することが重要です。以下で、症状の証明方法のポイントを示します。
まずはMRI画像による証明を目指す
交通事故の後遺障害認定における調査では、「画像」が非常に重要視されています。被害者の自覚症状は被害者がいくらでも自由に主張することができますが、画像は被害者がコントロールできるものではなく、「嘘をつかない」からです。画像によって症状を立証できれば、そのまま後遺障害等級認定を受けられる可能性が高まります。
むちうちの場合、損傷を受けるのは軟部組織です。これらの損傷を写せるのはMRIなので、事故直後から精度の高いMRIによる画像診断を受けておくことが重要です。MRI検査機器にはさまざまな精度のものがあり、当然精度が高い方が、症状を把握しやすいです。旧来式の機器では0.5テスラ、現在最も普及しているのが1.5テスラですが、新しいものだと3テスラにもなります。もしも、0.5テスラや1.5テスラのMRI検査機器で他覚的所見を得られなかったら、新しいMRI検査機器を導入している医療機関を受診して検査を受け直すのも1つの方法です。
神経学的検査による立証
MRI画像による立証が難しい場合には、「神経学的検査」による症状の立証を目指しましょう。神経学的検査とは、運動能力や知覚などを測る検査方法です。
むちうちの場合には、以下のような神経学的検査方法が有効です。
- ジャクソンテスト
- スパークリングテスト
- 筋萎縮検査
- 深部腱反射テスト
- 握力テスト
- 筋電図検査
- 徒手筋力テスト
ジャクソンテスト
ジャクソンテストは、頭を痛みのある側に後屈し、頭頂部に下方圧迫を加えることにより、患部上肢に放散痛(広く外側に広がるような痛みのこと)が発生するかどうかを確認します。
スパークリングテスト
スパークリングテストは、頸部を後屈し、患側に側屈させ、頭頂部に下方圧迫を加えることにより、患部上肢に放散痛が発生するかどうかを確認します。
筋萎縮検査
筋萎縮検査は、筋肉がやせているかどうかを見る検査です。
深部腱反射テスト
深部腱反射テストは、ゴムハンマーなどの打腱器で腱を打って刺激を与え、筋肉が収縮する反応を見る検査です。
握力テスト
握力テストは、握力計を渡し、握る部位を指示して、原則として立位で片手を強く握ってもらいます。必ず両側を検査して、その測定値を記載します。
筋電図検査
筋電図検査は、被検査者の筋肉に針を刺して、筋肉の興奮時の電気活動を観測する検査です。
徒手筋力テスト
徒手筋力テストは、医師が手で抵抗を加えて患者の筋力の強さを計る検査であり、6段階で評価します。
またMRI画像によって他覚所見を確認できる場合でも、補足的に上記のような検査結果を提出することが有効です。
12級を目指す場合にも14級を目指す場合にも、むちうちで後遺障害認定を受けたいならば神経学的検査を必ず受けましょう。
自覚症状は一貫性を持つこと
むちうち症では、自覚症状の内容も重要です。
問題になりやすいのは、受傷後から症状固定までの間に主張内容がコロコロ変わるパターンです。当初は「首が痛い」と言っていたのに「腕や手が痛い」に変わったり「首を動かしにくい」に変わったり、「肩こりがひどい」に変わったりすると、「本当に交通事故のむちうちの症状か?」が疑わしくなります。
確かにむちうち症ではいろいろな症状が出るので、一貫した主張につながらなくなることもありますが、そういった事情を斟酌してもらうのは難しいので、自分で説明方法を工夫する必要があります。
また、画像診断がある場合にも、画像によって確認できる他覚的所見と痛みなどの自覚症状の内容が一致していないと問題があります。「その症状は交通事故と無関係ではないか?」と思われてしまうからです。
そこで、むちうちで後遺障害等級認定を受けるには、一貫した症状の説明を心がけること、あまりその場の思いつきで次々に訴える症状を変えないことが大切です。
継続的に治療を受けること
むちうち症で後遺障害等級認定を受けるには、継続的に治療を受けることも大切です。症状が慢性的になってくると、治療を受けるのをやめてしまう方がおられますし、たまにしか通院しなくなるケースもあります。
しかし、そのような対応をしていると、「もはや完治しているのではないか」と思われて、後遺障害等級認定を受けにくくなります。痛みやしびれなどの症状が続いているのであれば、医師が「症状固定」と判断するまで真面目に通院を続けましょう。
整骨院への通院について
むちうちの場合、整骨院へ通院するケースもあります。しかし、整骨院は病院ではないので、治療や診断、投薬や検査を受けることができません。交通事故後に整骨院にしか通っていない場合、後遺障害等級認定は絶望的となります。
そこで、交通事故で頸椎に損傷を受けたなら、必ず整形外科(病院)に行き、治療と検査を受けましょう。その上で、症状が慢性的になってきたら、医師と相談の上整骨院への通院を検討すべきです。
交通事故でむちうち症になったら弁護士に相談しましょう
交通事故でむちうち症になったとき、後遺障害等級認定を受けるにはいくつものハードルがあります。乗り越えるには専門家である弁護士によるサポートを受けることが大切です。弁護士に依頼すると、自分で対応するよりも後遺障害認定を受けやすくなりますし、示談交渉の際には「弁護士基準」が適用されるので、賠償金が全体的にアップします。
弁護士には、交通事故直後の段階から継続的に相談しておくと、さまざまな場面に適切に対応できて、有利になりやすいものです。追突事故などで頸椎に衝撃を受けたら、むちうち症が疑われるのですぐに病院を受診し、その後どのように対応すべきか弁護士に相談しましょう。
交通事故に強い【おすすめ】の弁護士に相談
交通事故一人で悩まずご相談を
- 保険会社の慰謝料提示額に納得がいかない
- 交通事故を起こした相手や保険会社とのやりとりに疲れた
- 交通事故が原因のケガ治療を相談したい